ダイの大冒険二次・捏造魔界編 第三十五話 竜騎衆出撃

 ダイは意を決した。
「あいつとクロコダイン、パワーでは互角だと言っていた」
「助けに行きますか」
「いや、クロコダインなら少しの間持ちこたえてくれる。その間にゴーレムを全部倒そう。マァム、頼む!」
 マァムはすぐに気づいてやってきた。
「ゴーレムと一対一で戦うのは不利だ。ゴーレムの呪符をはがしたほうがいい」
 ラーハルトとマァムは黙って聞いてくれた。
「ゴーレムに致命傷を与えるのは難しいけど、短い時間なら傷が開く。それを利用して呪符を奪い取ろう」
 マァムたちは顔を見合わせた。
「あいつらは体の大きな分、動きが遅い。マァム、どれか一体でいいから、他の二体から離してほしい。一体だけならラーハルトかおれが抑えて、呪符をはがすよ」
「やってみるわ」
 勇気を奮い立たせるようにマァムは微笑み、真っ先に飛び出した。
「ダイさま、私に考えがあります。呪符はおまかせを」
「それなら、おれが残り二体を抑える」
 律儀に一礼するとラーハルトがマァムの後を追いかけた。
 ちょうどマァムがゴーレムのうちの一体の鼻先まで飛び上がり、つま先で顔面を蹴り上げたところだった。
 空中できれいに回転して勢いを殺し、甲板にマァムが着地する。怒りを見せるでもなく、ゴーレムはマァムに向かって黙々と拳を突き出した。
「ほらほら、こっちよ。いらっしゃい!」
 マァムに釣られたゴーレムがどすどすと動き出した。他の二体も続こうとした。その間にダイは剣をかまえて立ちふさがった。
 ダイは腕を背後に回して真魔剛竜剣の柄をつかんだ。
――ここでギガブレイクを使ったら、船が危ない。
 さきの防衛戦ではマァムと翼竜たちがうまく飛び蛇を誘導してくれたから成功したようなものだった。柄を握ったままダイはためらった。
 視界の外で何かが派手に光った。
「ハーケン・ディストール!」
 闘気の消耗をものともせず、ラーハルトが大技を使っていた。ゴーレムはまともに技を浴びて一瞬、ぐしゃっと崩れた。崩れた死肉の中にマァムが敏捷に飛び込んで呪符をつかみ上げた。
「ひとつ取ったわ!」
「よしっ」
とラーハルトが応じた。
「大丈夫?闘気が減っていくって言ってたのに、あんな大技」
「シルバーフェザーを使って生命エネルギーを回復させた」
とラーハルトが答えた。
「今、技の出し惜しみをすれば、ダイ様の信頼に応えられなくなる」
「まだ敵はいるわよ?首無しも、メドーサボールも」
 無造作にラーハルトが答えた。
「気にするな。オレが使い物にならなくとも、ヒュンケルがいるからな」
 空陸の二戦騎がダイのいるところへ戻ってきた。
「二人とも、ありがとう。さあ、あと二体だ」
 ゴーレムが迫ってきた。三人が集まっているところを一網打尽にする気なのだろうとダイは思った。
 マァムとラーハルトが互いにちらりと視線を交えてすぐ跳んだ。索具や甲板の手すりを利用してマァムはゴーレムの頭の高さまで飛び上がり、巨人の両肩に自分の手をついて倒立した。
「背中!肩甲骨の間!」
 マァムがゴーレムの背後へ跳び下がる。ダイは剣の柄を逆手に持ち替えていた。
「空裂斬!」
 構えはアバンストラッシュに似ているが、剣先は背後からまっしぐらに前方へ走る。魔界の暗黒を裂いて衝撃はゴーレムの胸部へ奔り、貫いた。
「あれか!」
 ぽっかり開いた胸の奥に呪符が見えていた。ゴーレムの死肉が盛り上がり、呪符を隠そうと動き出した。その瞬間、ラーハルトの槍が呪符を突き、頭上高くかっさらった。
「ふたつ!」
 ぼろぼろと死肉が甲板へ積み上がる。ラーハルトの声は朗々と響いた。
 ガン!という打撃音がその声に重なった。
「クロコダイン!」
 首無しは鎖をあやつり、巨大な鉄球を縦横無尽に飛ばしている。トゲ付きの鉄球は金属音をあげてクロコダインの鎧に、斧に次々とかすっていた。
「そのていどか?」
 クロコダインは、荒い息をしながら笑った。傷だらけになりながら耐えていた。
「なんだ、あの攻撃は」
とラーハルトがつぶやいた。
 重くきつい攻撃が絶え間なく続く。鉄球の嵐に生身を削り取られているようなものだった。
「早くいかなきゃ!」
 ダイの声が切迫していた。
 三体目、最後のゴーレムが一歩あとずさった。恐怖、のような感情をそもそもゴーレムは持たないはず。だが、警戒心を示すということはそれなりの知能はあるということだった。
 このまま鬼ごっこになれば、その時間だけクロコダインの命が削られる。
「……逃がしはしないわ!」
 ダメージが通らないのを承知で、最後のゴーレムめがけてマァムが蹴りを放った。
「こっちを向きなさい!」
 その場で構え、両の拳に意識を集中させた。
 腐肉でできた人形に閃華裂光拳が効かないことはわかっていた。
「武神流猛虎破砕拳!」
 ゴーレムの身体に特徴的な破砕痕が浮かんだ。
 ほとんどの物理攻撃をゴーレムは吸収してしまう。だがダメージはなくてもインパクトでゴーレムはのけぞった。その瞬間、人間なら喉にあたる部分に呪符が見えた。
 ラーハルトが叫んだ。
「ダイ様!」
 ダイはうなずいた。
「二人がかりだ、行くよっ」
 鎧の魔槍と真魔剛竜剣が左右から襲い掛かる。ざっくりと切り裂いた喉から飛び出した呪符をダイが飛び込んでつかみあげた。
「みっつ!これでいい。さあ!」
 ダイは振り向いた。
 クロコダインは、前進していた。鉄球の嵐に耐えて首無しの乗る骸骨馬のすぐそばまで接近している。ゴーレム三体を消されて首無しはあせりを見せた。モルゲンシュテルンに迷いが生じた。
「むん!」
 甘い軌道をクロコダインは見逃さなかった。腕で鎖をつかみ、ぐいと引いた。
 引きずられまいと首無しは足で骸骨馬を操る。馬は蹄を甲板に踏ん張っているが、クロコダインも鎖とその先の鉄球をつかんだまま放さなかった。
「うおおおおぉぉぉぉぉっ」
 剣を構えてダイが飛び込んできた。その寸前、首無しはようやく鎖を引き戻し、その勢いを借りて鉄球を上空へ放った。とっさに放った鉄球のために、鎖は不規則な軌道を描いて飛んだ。
「きゃっ」
 鎖は後からやってきたマァムとラーハルトをかすったようだった。ラーハルトの鎧はプレートアーマーにしては軽装の部類、マァムの防具は武闘着だった。槍を杖にしてすがり、ラーハルトがつぶやいた。
「かすっただけで、これか」
 マァムも片手で脇腹を抑え、まっすぐに立てないありさまだった。
「マァム、みんなの回復を頼む」

 ダイの指示を聞いてマァムはどきりとした。
「できるだけでいいよ!あいつはおれが相手をするから」
「大丈夫よ、まかせて!」
 てきぱき言うつもりだったのに、凶暴な鎖に腹部を強打されて声がしわがれた。だがクロコダインはその攻撃にずっと耐えて、マァムたちに首無しの攻撃が及ばないように庇ってくれていた。
「今回復呪文を使うわ」
 クロコダインは鎧の表面が傷で覆われるほどのありさまだった。生身の部分も痛々しい傷が無数にある。
 ひと呼吸おいてクロコダインが答えた。
「なに、これしき」
「何も言わないで、リラックスして」
 回復呪文が効いて痛みが引いてきたのだろう、辛そうだった呼吸に落ち着きが戻ってきた。
「……首無しはどうなった」
「あそこよ。ダイとラーハルト二人を相手に一歩も引かない。バケモノだわ」
 うむ、とクロコダインがうなり、立ち上がろうとした。
「無茶したらだめよ」
「思うように声が出せんのだ。もう少しそばへ行かせてくれ」
 マァムはクロコダインに肩を貸して立たせた。
「ダイ!」
 太い声でクロコダインは呼ばわった。
 ダイはヒトの形態のままだった。得物は真魔剛竜剣、上段右にかまえ、首無しを威圧している。
「そいつが一番嫌がるのは、懐に飛び込まれることだ!」
 ぴく、とダイの肩が動いた。
「全方位に鉄球を振り回す技は、直前に鎖を短く握り直し、手のひらに鎖を滑らせるぞ。それを見たら距離を取れ」
 クロコダインは単に首無しを引き受けていただけでないとマァムは知った。
「うっ」
 何か言いかけてクロコダインが激しくむせた。
「クロコダイン!」
 傷が開いたのだろうか、クロコダインは肩で息をしていた。
「オレはもう大丈夫だ。マァム、ダイを助けてやってくれ」
「でも」
「あの首無し、ゴーレム並みに回復が早いのだ。大技をたたきこんで一気に削り切るしかないとダイに」
 そこまで言ってまたせき込んだ。
「わかった!あとでまた回復するから!」
 上空の暗い空に、突如雷雲が集まってきた。
――デイン系の魔法剣……ギガブレイクだわ。
 マァムは甲板を駆けた。
 ダイはじっと機会をうかがっている。船の甲板でギガブレイクを撃てば、最悪船が木っ端みじんになる。上から振り下ろすのではなく、下方から斜め上に向かって撃とうとしているようだった。
 首無しもそれはわかっているようだった。ダイめがけて何度も鉄球を放ち、いいアングルを取られないように立ちまわっていた。
 上空に稲妻が走った。地上と魔界では雷の威力に差があるのだろうか、あたりを真っ白に染める凶悪な光、耳を聾する雷鳴だった。
 ダイが剣を構え直した。その場めがけて鉄球が撃ち込まれた。
 いきなり首無しを乗せている馬が吠えた。マァムには、いななきというより獣の咆哮に聞こえた。
 馬は後足立ちに立ち上がり、全身を震わせている。馬の脇腹を防御する金属板を連ねた防具を貫いて、何か突き刺さっていた。
「ラーハルトの槍だわ!」
 ダイが首無しと向き合っている間にラーハルトは馬を狙っていたようだった。
 馬は馬鎧をガシャガシャ言わせて向き直り、ラーハルトを追って噛みつこうとした。
「!」
 首無しは馬を制御しようとして一瞬、ダイから目を放した。
 ジゴデイン級の雷をまとう剣が首無しめがけて突進した。
「ギガブレイク!」
 闘気と魔法力が首無しの上で炸裂した。まだバチバチと音を立てている衝撃が、船から斜め上の方角へ飛び出して魔界の空を白く染めて消えた。
「ぐっ、ぎっ」
 馬はもう馬鎧の下でつぶれている。だが、言葉にならない音を発しながら、首無しは起き上がろうとした。ラーハルトが、感嘆とも畏怖ともつかない口調でつぶやいた。
「ギガブレイクでも、こいつは取りきれないのか」
――大技をたたきこんで一気に削り切るしかない……。
 上空の雷雲がまだとどろいている。その雷鳴をぬってマァムが叫んだ。
「回復の時間を与えちゃダメだわ!」
 言い終わるより早く、地を這う大蛇のように首無しの鎖が甲板を走った。鎖はダイの足首を捕らえてひきずり倒した。
「ダイ!」
 あおむけに倒れ、引きずられながら、ダイは片手を伸ばした。その手の先に、ラーハルトの槍があった。
「ラーハルト!」
 マァムの目の前をラーハルトが駆け去った。走りながら投げ渡された槍をつかみ取った。
「くらえ!」
 すさまじい突きが首無しを襲う。その速さ、正確さ、武闘家のマァムさえ目を見張るほどだった。
 攻撃にさらされている首無しはあわてて髑髏の盾を掲げた。
「うっ、ぐうぅ……っ!」
 首無しはただ立ち尽くし、激しい連続ヒットを受けて細かく震えていた。
 ようやく首無しがその場に崩れ落ちた。そのようすは、骸骨馬だったものの骨の山の中に、空洞の甲冑がうちすてられているように見えた。
「これまでか……」
 首無しのわきに転がった盾の上で、どくろがつぶやいた。
 ダイは立ち上がり、剣を鞘に納め、盾のかたわらに膝をついた。盾のどくろはダイを見上げた。
「……さきほどの雷の技、あれが、冥竜王を屠った剣か」
 こく、とダイはうなずいた。どくろは一度目を閉じた。
「御曹司ならば、姫の執着を断ち切れるかもしれん。哀れに思う心がわずかなりともあらば、姫を妄執の穢土から救いたまえ」
 マァムたちは、ダイの背後で忠実な騎士の最期を見守った。
「あなたの姫を、殺せと?」
「そうだ」
 明瞭に首無しはそう答えた。
「姫の妄執はいずれ自滅につながろう。そうなれば、姫の身も心も石となり、永劫に救われることはない。だが、その前に我の言葉が姫の心に響けば、あるいは……」
 盾のどくろはつぶやいた。
「姫は、鐘の音を聞けばそちらのほうへ必ず注意を向ける。意識をそらせることができるだろう。だが、気をつけろ。姫は我と同じくらい回復が早い」
「本当に、いいの?」
 どくろは再び涙を流していた。が、それは血の涙ではなく、透き通ったしずくだった。
「我はすでに冥界に生きる身、あとから姫のおいでを待ち、浄土にてお供しよう。我の言葉が姫に届けば、孤独の魂に寄り添い、共に育った故郷を語って姫の魂をおなぐさめすることもできるだろう」
 どくろが動きを失い、眼窩もうつろになっていった。
「故郷、アルキードの、春の大河、その流れに舞い散る花吹雪を……」
 つぶやきは途切れた。どくろの盾はすでに、物言わぬ鉄と化していた。
「君たちは、アルキードの人だったのか」
 誰にともなくダイがつぶやいた。
 ダイにとってその地名が特別なものだとマァムは知っていた。アルキードは、母ソアラの故郷だった。
 おそらく首無しと姫は、アルキード消失よりはるか昔にその国に生まれ、死んでからはずっと魔界をさすらっていたのだろう。
「故郷すら、もうないのね」
 哀切な思いが胸を刺した。あの首無しが救いを求め続けて天を恨んだ心が、少しわかるような気持がした。