ダイの大冒険二次・捏造魔界編 第二十四話 ドラゴン・ライディング

 乳色の霧が晴れていくと、奇怪な森が姿を現した。木肌は黒く、幹はねじくれている。そこから生える枝も枝分かれした小枝も妙にねじれているので、遠くから見ると身もだえする黒い人影がたくさんいるように見えた。
「風が強いな。オニー、まだ先なのか?」
 空手ネズミのチウは、片手を額にかざして森の中から頭上の梢をながめた。
「いや、もう、とっくについていいはずなんですが」
 オニーは魔界出身のおにこぞうだった。相棒のコゾーとふたり、大魔王の地上侵攻軍に参加して地上へ行き、そこでチウと出会った。
 現在はチウの率いる獣王遊撃隊のメンバーで、隊の任務のために魔界の道案内を買って出ていた。
「昔はこの森のところどころに村があったんです」
とオニーは説明した。
「でも、通り過ぎてきた村は全部廃墟になってました。たった五年で、全滅なんて」
 昔は村まるごとなくなるなんていうことはなかった。村の誰かが力のある何者かを怒らせて、見せしめのために村ごと根切り、などという事態でもなければ、村が消えるなんてありえない。
 ふむ、とチウは言った。
「せっかくここまで来たんだ。もう少し先へ行ってみよう!」
「あ~、行くんですか、ほんとに?」
 オニーは言葉を濁した。
「ヒムさんもいないのにこれ以上は」
 じろりとチウはオニーを見た。
「ぼくじゃ、頼りないって言うのか?」
「いや、そのう」
 獣王遊撃隊の任務とは、この魔界に生き残っているモンスターたちで魔界を脱出したいと思っている者たちを集めて箱舟へ連れていくことだった。
 遊撃隊を二つに分け、ひとつはチウ、もうひとつはヒムがリーダーを務める。オニーはチウ小隊の、コゾーはヒム小隊の案内役だった。それぞれ住民の残っていそうな地域へ渡り、探索任務につくことになっていた。
――コゾーはいいよなあ、ヒムさん強いから。
とオニーは思った。
 ヒム小隊のリーダー、ヒムは、地上生まれのモンスターだった。種族で言うなら物質系の金属生物で、その体は永久不滅と異名のあるオリハルコン製である。格闘の名手で、素早さと攻撃力、防御力、すべてにおいてチウよりはるかにまさっていた。
 リーダーが攻撃タイプなので、ヒム小隊の他の隊員は魔法タイプのラミ太(アルミラージ)とドナドナ(ドラキー)、バタコ(ハンターフライ)、マリべえ(マリンスライム)、そしてコゾー(おにこぞう)。
 対してチウ小隊は、攻撃役のくまちゃ(グリズリー)、パピィ(バピラス)、魔法の使い手のドルやす、妨害タイプのアリババ(オオアリクイ)とだいご(だいおうがま)などの混成部隊だった。
「最近はなぜか監視役のカラスや狼ゾンビは少ないし、そもそも敵はぼくらのことを、ダイ君の仲間だと気付いていないのだ。普通に魔界にいるモンスターだと思っているはず」
「でもあいつらは、普通に魔界にいるモンスターでも遠慮なく絶滅させてますよ」
「うるさいな。いざとなったら、ぼくがお前たちを守ってやる!諸君、勇気をもって前進だ!」
 高らかにチウは宣言した。オニーはためいきをついた。
「前進、ってあそこへ?」
 霧の中にまがまがしい暗赤色の空間が開こうとしていた。魔界と隣り合う冥界の出入り口だった。その中から狼ゾンビの群れが姿を現した。
 チウ小隊に緊張が走った。
「落ち着け!全員退避。樹の陰に隠れろ」
 チウだった。
「数が少ないぞ。斥候グループとこちらが偶然かちあっただけだ。だが上に報告されると厄介だ、すべて倒すぞ!フォーメーションAだっ」
「はいっ」
 反射的にそう答えてオニーはA型の隊列のはしに陣取った。理由はわからないのだが、なぜかオニーはじめ遊撃隊のメンバーは、このチウの号令に弱い。身の程知らずのうぬぼれや、だと頭でわかっているのだが、チウのカラ元気には隊員たちの気持ちを盛り上げるのに絶大な効果があった。
 ぐるる、とうなり声をたてて狼ゾンビが近づいてきた。
 フォーメーション「A」の、先端のとんがりにいたチウがいきなり動いた。
「うおおおおっ」
 雄叫びを上げて狼ゾンビの群れにつっこんでいった。チウのパンチはそれなりのパワーだが、この敵にそれほどのダメージは与えられていない。それなのに敵はチウの周りに群がって、牙や爪で四方八方から攻撃していた。
「ちょっ、隊長!」
 チウがこちらを見た。情ないツラ、ではなかった。切り傷をたっぷりもらいながら、両腕を交差して顔を守り、腕の下からこちらを見た。ニッと口角があがっていた。
――これは、もしかして。
 狼ゾンビたちは、なぜかチウ一人に集中していて、オニーたちをおそってこない。チウは太い樹が密生しているあたりへわざとつっこんだらしく、チウ自身がとうせんぼしている形になっていた。当然、こちらから狼ゾンビに攻撃することもできない。
 だが、接近しての物理攻撃や体技はだめでも、近距離で呪文を浴びせることはできる。だいおうガマのだいごがオニーの脇を通って前に出た。
「ルカナン」
 反対側からくまちゃが、その横からパピィが進み出た。チウが耐えに耐えている間にチウ小隊のメンバーは樹々を回り込んでいい位置についていた。
「今だ!」
 パピィのめった打ち、くまちゃのタックルで、狼ゾンビがふっとんだ。残った敵はドルやすがヒャダルコでしとめた。
 狼ゾンビが二頭、後方から迫ってきた。オニーは二頭と直線で並ぶ位置まで走った。
「ファイアブレス!」
 渾身のファイアブレスが決まった。オニーは安どのため息をついて座り込んだ。
「よくやったぞ、オニー!」
 見あげると傷だらけのチウが、快晴のような顔で笑っていた。
「〇#◆‘%、△【’&◇#……」
 ドルやすが何かつぶやいた。よく見ると、木の陰からこちらをうかがっている者たちがいた。
「あいつらです!隊長、このあたりに住んでるやつら!」
 そうか、とチウは言い、腰に手を当ててふんぞりかえった。小さな体から大声を出した。
「諸君、ぼくは竜の騎士ダイの友達だっ。ダイ君の依頼を受け、君たちを魔界から避難させるために来たっ。さあ、ついてこいっ」
 土地の住人の小鬼たちがおそるおそる近寄ってきた。

 リリルーラの着地直後、ヒムは驚いてあたりを見回した。
「あれ?アジトじゃねえや」
 そこは竜の騎士ダイの一行が隠れ家にしている島ではなかった。リリルーラは人物、特に目印を持った人物を目当てに移動する呪文なので、目印の持ち主が場所を移れば、その移動先に着地してしまう。今、目印を持っているのはダイなので、彼が移動したのだろうとヒムは思った。
「ってことはみんなこのあたりにいるってわけか」
 しかし、仲間たちはこんなところでなにをやっているのだろう?その場所は灰色のごつごつした岩でできた荒野だった。
 魔界の住民の全招集という前代未聞のミッションを受けて、ヒムを含む獣王遊撃隊はまだ水没していない魔界の土地を歩き回ってきた。
 魔界と一口に言っても、さまざまな土地があった。見渡す限りの毒沼や人喰い植物が繁茂する丘陵など、多種多様だった。意外なことに、溶岩流の流れる熱い不毛の大地にはお目にかかっていない。
「ヒムちゃん、こっちだ!」
 獣王遊撃隊の隊長チウとチウ小隊のメンバーが、ヒムとヒム小隊に向かっておいでおいでと手を振っていた。
「いいところへ帰ってきたな!」
 そこは荒野に張ったテントの下で、チウと遊撃隊員は魔界にはありえない気楽さだった。というよりも、弁当を前に飲み物を片手に、完全に見物気分らしかった。
「隊長さんよ、ここはいったいどこだ?」
「竜の谷というところの近くらしい。ここで今からラーハルト君が陸戦騎の認定に挑むのだっ」
 もうひとつのテントの前にダイと仲間たちがいるのが見えた。ダイたちはいちおう監視の目を警戒して、フードの付いたマントを身につけて頭から全身をおおっている。一人、ラーハルトだけがいつもの身軽さだった。
「なんでえ、あいつ、鎧も装備してねえのか」
 愛用の鎧の魔槍さえなしで、赤みがかった布の服のままラーハルトは荒野に立っている。なぜか黒いベルトの上に同じ色のロープをぐるぐる巻き付けていた。その視線の先には、緑の鱗のドラゴンの群れがいた。
 直前まで地方を回り住民を探していたヒムは、その光景に目を見張った。この荒野には陸棲ドラゴンが群れを成して住んでいるようだった。
「こんなにたくさん……いるとこにはいるもんだぜ」
 うむ、となぜかチウが自慢そうにうなずいた。
「このドラゴンたちも、箱舟に乗せるのだ!」
「どうやんだよ!ドラゴンは牛じゃねえんだ」
と反射的にヒムはツッコミを入れた。
「見たまえ。先頭の一頭、あれが群れのリーダーだ」
 チウの指した先頭のドラゴンは体高、体長ともに大きく、前足のかぎ爪をむき出し、頭を地面に下げて警戒態勢を取っていた。濃い緑の鱗が全身を覆っているが、歴戦の傷が見てとれる。長年群れを率いてきた成竜の雄らしかった。鼻孔からうっすらと白煙が噴き出している。体内にある炉で炎が生成されている証拠だった。
「このシマのアタマが、よそもんを見て出張ってきたってわけか」
「それがリーダーの役目なのだよ。そして、あのリーダーがラーハルト君を認めればこの群れ全体、いや陸棲ドラゴンのすべてが彼に従うはずだ」
 遠目でラーハルトを眺めてヒムはつぶやいた。
「ま、お手並み拝見といくか」
 あいかわらずスカシた野郎だ、とヒムは思う。今もラーハルトは、ドラゴンから視線を外さないまま、かるく肩を回していた。
「装備なしで大丈夫?」
とダイが尋ねた。
 ラーハルトの強さは、速さと正確さにある、とヒムは考えている。ヒュンケルの強さ、破壊力と守備力の、ある意味対極にあった。
 しかし、相手はドラゴンだった。速さだけでなんとかなるものだろうか?
「あのドラゴンを殺す気はありませんので」
とラーハルトは答えた。
「どうかお心安らかに。ドラゴン・ライディングを開始します」
 笑みさえ浮かべてラーハルトは宣言した。
 ドラゴン・ライディング、すなわち、野生の竜を乗りこなす。竜騎衆とは、陸海空それぞれにおいて最も優れたドラゴンライダーだった。陸戦騎として名乗りを上げたラーハルトは、一度も鞍を置いたことのない野生の竜を乗騎として乗りこなさなくてはならない。
 地上の野生馬でも同じように初めて人間を乗せるときはひどく暴れるが、騎手は八秒の間振り落とされなければ成功とされる。
 そこまではヒムも、事前の知識として知っていた。
 トッと軽い音をたててラーハルトがその場で跳ねるような運動を開始した。おそらくバランの前でもラーハルトは一度ドラゴン・ライディングに成功しているはず。しかしそれは地上のドラゴンだった。この魔界のドラゴンたちを相手に、ラーハルトの技がどこまで通用するのか?
「無理は、しないで」
 ダイは声をかけたが、ラーハルトはかすかな笑みで応えた。
 ラーハルトが地を蹴って飛び出した。
 おそらく射程内に入ったのだろう、リーダー格のドラゴンは後ろ足で立ち上がり、大きくのけぞり、巨大な口を開いた。胸、喉、顎が真っ赤に染まる。頭部をふりおろすと、一直線に突進するラーハルトに紅蓮の炎が襲い掛かった。
 ラーハルトが消えた。ギャラリーからどよめきが起こった。
――あんなとこに。
 動きを目で追えるのは自分くらいだろうとヒムは思う。それでもラーハルトが真横へ跳んで退避したのが見えただけだった。
 ドラゴンは前足を地につけ、長い首をぐるりと巡らせてラーハルトを探した。ドラゴンの死角、前足のすぐ後ろにラーハルトが姿を現した。一瞬で緑の鱗の巨体へ飛びついた。
 怒りのあまりドラゴンが咆哮をあげた。そのままラーハルトを振り落とそうと暴れ始めた。
「が、がんばれっ」
 チウ以下、仲間たちがかたずをのんだ。
 ラーハルトは、笑っていた。鎧なしの身軽な姿は、守備力を捨てて素早さをあげるためのもの。振り落とされないようにドラゴンの背の剣板をつかみながら、手際よく長い首まで進んでいく。
 ドラゴンは後足のみで立ち上がり、上体をのけぞらせるような動作を繰り返した。この巨体で、と思うほど敏捷にジャンプし、旋回し、ランダムに首と太い尾を付け根から激しく振る。
 だがラーハルトは、ドラゴンのリズムを身体で理解しているようだった。自分の体を左右へゆすり、すべての衝撃をやりすごしている。
「おお、たいしたもんだ!」
とチウが歓声をあげた。
 竜を乗りこなすには竜の習性や動きをここまでのみこんでおく必要がある、いや、それができる者をドラゴンライダーと呼ぶのだろうとヒムは思った。
 ドラゴンの群れから、まだ若い竜が数頭でてきた。リーダーのために、首につかまっているラーハルトに炎を浴びせようとしているようだった。
 ラーハルトが眉をしかめた。炎の息を避けながらバランスを保つのは難しそうだった。
「ガウ!」
とリーダードラゴンが一声吠えた。若いドラゴンたちはあわててあとずさった。
「なんだあれ、『すっこんでろ!』ってか」
 遠目だが、ラーハルトの口元がゆるむのが見えた。
 リーダードラゴンはいきなり地に転がった。ラーハルトをつぶそうとしているようだった。ラーハルトは寸前で自分から飛び離れた。
 ヒムは目を見張った。リーダードラゴンが身をたて直したとき、ラーハルトが元の位置まで飛び上がったように見えた。すぐに、ドラゴンの首に巻き付けたロープをたぐって位置を戻したのだとわかった。
 最初見た時に体に巻いていたロープに違いなかった。
「いいぞ!」
 リーダードラゴンはまだ暴れ続けていた。8秒どころか、かなり時間がたっている。このドラゴンも本物のバケモノだ、とヒムは思った。
 ラーハルトは長い首をさらに上の方へ進んでいった。ついにその手で頭部の角の片方をつかんだ。
 いらだったリーダードラゴンが吠えた。そのまま頭を下げ、崖に向かってまっすぐ走り出した。絶壁の巨岩に頭突きする勢いだった。そのままいけばラーハルトは竜の頭と岩に挟まれることになる。ラーハルトはつぶれるだろうが、竜も無事では済まない。
「あいつ、何やってんだ」
 ラーハルトは逃げようとしなかった。角を抱え込み、ドラゴンの頭部にしがみついている。
「笑ってやがる」
 これはチキンレースだ、とヒムは気づいた。ドラゴンとドラゴンライダー、びびるのはどっちだ……?
 もう崖までいくらもない。
 テントからダイとヒュンケルが飛び出したのが見えた。
 この瞬間だけは魔界の滅亡も箱舟計画も脳裏の外だった。
 チウと遊撃隊員たちがさまざまな言語でわめきたてた。
 そして、すべてが止まった。
 ドラゴンの巨体は激突寸前で停止していた。四肢を地にふん張って勢いを殺し、長い首を下げ、荒い呼吸で肩を上下させていた。
 ラーハルトは、上からロープを差し出した。ドラゴンは口を開いて受け入れた。ロープを竜の後頭部へ回し簡単な手綱にして、悠々とラーハルトはドラゴンをこちらへ向かって歩かせた。その後ろから群れがついてきた。
 すとん、とラーハルトはダイの前に降り立った。
「ダイさま、いかがですか」
「すごいや」
 ダイは子供のころと同じ、素直な賛美の表情だった。
「おれの陸戦騎として認める。これからも頼むね」
 すかした笑みを浮かべてラーハルトが答えた。
「御心のままに」
 ダイはリーダードラゴンを見上げた。
「君もね」
 ドラゴンは頭部を下げ、顔をダイに近づけた。ダイは片手でその鼻先をやさしくたたいてやった。
 ダイ、とヒュンケルが呼びかけ、何か差し出した。液体の入ったグラスのようだった。
 ダイは襟元をさぐり、ドラゴンファングを引き出した。次の瞬間、思い切りよく手のひらをかき切った。
 手をグラスにかざすと、傷口からにじみ出た血がしたたり落ち、液体に交じった。
「ただの水だけど、これを」
 ラーハルトはそのグラスを受け取り、何のためらいもなく飲み干した。
「昔聞いたことあるんだけど、おれの血は父さんほど濃くないから、たぶんたいした効果はないと思う」
 ダイの血を呑んだラーハルトはグラスを返した。
「いえ、新たに竜騎衆と認められた者が竜の騎士の血を与えられるのは、決められた儀式の一部ですから」
 いきなり誰かが言った。
「その手、貸せよ、治してやるから」
 ダイはふりむき、笑顔になった。
「ポップ!どこ行ってたの。すごかったんだよ、ドラゴン・ライディング」
 回復魔法の光がダイの手のひらをおおった。が、ポップ自身はダイと目を合わせようとしなかった。
「ちょっと、実験してた。これでよし、と」
 ポップ、とダイが呼んだ。
「どうしたんだよ、へとへとじゃないか!」
 ポップは口ごもった。背がまるくなり、肩が下がっている。足もふらついて、まっすぐ立てないようだった。目の下にくまができて、いつもおちゃらけた軽口をたたく口が、重そうだった。
「悪い、まだ、言えねえんだ」
 ダイは何か言いかけて、口を閉じた。いきなり自分の片腕をポップの首に回した。ポップがあわてた。
「何すんだ!」
 今のダイの腕は子供のころよりたくましく、ポップはもがくだけで動きが取れなくなった。
「言えないなら、言わなくていいよ。ポップがやってることはおれのためだってこともわかってる」
 ポップがもがくのをやめた。
「でも、それで体こわしちゃ意味ないだろ!おとなしくアジトへ帰るね?いやって言っても、ここから担いで帰るからねっ」
 自嘲がらみにポップがつぶやいた。
「かつぐぅ?おまえ、おれよりでっかくなったと思っていい気になりゃがって……わかった……じゃあ、頼むわ」
 ん、とダイはうなずいた。ほとんど気絶するように目を閉じる友達の体を、軽々と担ぎ上げた。バンダナの先端がふらりと垂れ下がった。
「よしっ、みんな、隠れ家の島へ帰ろう!」
 撤収するぞ~、とお気楽な口調でチウが告げた。遊撃隊のメンバーはテントの後始末をしている。ヒムは軽く気が抜けた。
「ここからは船だ」
とヒュンケルがつぶやいた。かるくあごをしゃくったのは、一緒に来いと言う意味らしい。
「あんたもあんたで、ムカつくな」
「何か言ったか?」
「いや、そろそろ慣れた」
そう答えて、ヒムはちょっと考えた。
「ライディングとは関係ないんだが、聞いてくれ」
 ヒュンケルは黙ってこちらを見た。
「『なんですか?』ぐらい言えねえのかよ。まあいいや。あのな、オレの小隊があちこち回ってる間に、襲撃があった」
 ヒュンケルが眉をひそめた。
「戦ったのか?」
「いいや、襲われたのは廃墟で、誰もいなかった」
「奇妙だ」
 うむ、とヒムは答えた。
「どう思う」
 語尾くらい、あげろ。
「ずばり、あぶり出しだろ」
 ヒュンケルは独り言のようにつぶやいた。
「監視と威嚇をしていたカラスと狼の群れがいなくなった。これ見よがしの襲撃があった。……オレたちが出てくるのを待っているのかもしれない」
「ダイに言うべきじゃねえか?」
 ややあってヒュンケルが答えた。
「今、ダイはいろいろと手一杯のはずだ。時機を見てオレから話す。少し待ってやってくれ」
 なんだ、しゃべれんじゃねえか、という言葉を呑みこんでヒムはうなずいた。