ダイの大冒険二次・捏造魔界編 第二十八話 空のライディング

 ロバほどもある大きさの青い蜂が空中に制止していた。その蜂に鞍を置いて、人間の子供くらいの生き物が騎乗しているのが見えた。
 乗り手は片手を高く揚げて振った。
「よう、どうだった?」
 ヒムは借り物のドラゴンを停止させて、そう声をかけた。
 上空からゆっくり青い蜂が降りてきた。
 乗り手は、地上ではコボルトとかゴブリンとか呼ばれる小鬼族だった。青蜂は彼らが育てて馬の代わりにしている生き物で、家畜というより家族に近いらしい。
 その青蜂に乗ることと、高山に棲み処があることのために、彼らは魔界の他の種族に比べて黒い海の影響を受けるのが遅かった。ヒムたちがこの地方で避難民を募りに来たとき、青蜂使いの小鬼は最初ヒムたちを追い払おうとしてきたほどだった。
 獣王遊撃隊による説明と説得の結果、現在小鬼たちは魔界からの避難を検討していて、ヒムたちとはおおむね協力関係にある。
 そしてヒムは、この高山地帯を熟知している小鬼に先日頼みごとをしていた。高山地帯へ逃げた魔女の一族がいるはずだが、行方を探してほしい、と。
「魔女の里を見つけたが、生き残りはいない」
 真面目な顔で小鬼はそう言った。
「そうか。けど、魔女の里が残ってるならオレたちはそこを見に行きたいんだが」
 青蜂に乗った小鬼たちは、お互いに蜂を寄せ合って相談を始めた。
 誰かがヒムの肩をつついた。
「ヒムちゃん、これはどうも無理そうじゃないか?」
 チウが小声でそう言った。
 二人の目の前にあるのは、魔界の高山の絶壁だった。メドナを置き去りにして魔女の一族が向かったのは、その山の上だった。
「魔女一族は全滅だとしても、例のナイフは残ってるかもしれねえ。ダイに約束しただろ?行ってみる必要があるぜ?」
「し、しかし」
 チウの態度が煮え切らない。はは~ん、とヒムは思った。
「それにしてもでっかい蜂だなあ。ネズミくらいならかっさらって飛べそうだぜ」
 ううっとチウがうなった。尻尾の先端がブルブル震えていた。ヒムは笑いをこらえた。
「覚悟決めろや、隊長さん。ダイに安請け合いしたのは、自分だろ」
 数日前、ダイはヒムたちに依頼していた。魔女の一族に魔界脱出をすすめてほしい、そして魔女たちが持っているはずの「海のナイフ」を受け取る交渉をしてほしい、と。
「まあ、ダイくんもお年頃かと思って、ボクは引き受けたのだ」
とチウが言った。
「レオナ姫に、姫の父君の形見である『海のナイフ』を渡したい、こう言われては引き受ける以外にあるまい!」
「そーだ、そーだー」
とヒムはうそぶいた。
「まー、がんばれや」
 チウの声に悲鳴がまじった。
「そんなこと言ってないで、なんとかしてくれたまえ!」
 青蜂の小鬼がこちらへ寄ってきた。
「魔女の一族が棲んでいた里は、ちょっと距離がある。わしらの蜂でも一日がかりだ」
 うう、とまたチウがうなった。
「やはり、その生き物に乗らなければダメか!」
 いんや、と小鬼は首を振った。
「蜂は、出せん。この場所と里の間にスカイドラゴンの巣があってな。今そこが荒れとるんだ。とても通れんぞ」
 ヒムはぴくっとした。
「荒れた?何が?」
「スカイドラゴンたちが、不安がっているようだ。落ち着かない。怯えている。自滅に近い振る舞いをする。スカイドラゴンはかなり頭のいい生き物で、こんなことはめったにやらない。初めて見る。異変と言っていい」
 小鬼たちは表情の分かりにくい顔をしているのだが、それでも小鬼の困惑ぶりは伝わってきた。
「そこを通らねえで、魔女の里へ入る道はねえのかい?」
 小鬼たちはそろって首を振った。
「スカイドラゴンは絶壁の続く高山の支配者だ。あいつらに断りなく山に足を踏み入れるのは、確実にまずいことになる」
「まいったな」
とヒムはつぶやいた。
 チウが何か思いついたらしかった。
「なんだ、それならそうと早く言いたまえ!」
 小さな体で胸を張って、チウが言い出した。
「高山の支配者だかなんだか知らないが、スカイドラゴンも竜にちがいなかろう!まとめて避難希望者として隠れ家へほうりこんでしまえばいいのだ!」
 小鬼たちは顔を見合わせた。
「まあ、いずれはスカイドラゴンたちも保護して魔界から連れ出してやりたいと思っていたんだが」
「何も問題ないじゃないかっ」
 小鬼はチウを指して、独特の表情でヒムを見上げた。
――こいつ、何者だ?ってか。
「あ~、オレんとこの隊長さんだよ。竜の騎士ダイのために魔界からの避難民を募っている」
 ふむ、と小鬼はつぶやいた。
「ならばまず、竜の騎士殿にスカイドラゴンたちを鎮めてもらおうか。できるかね?」
 チウは胸を叩いた。
「あたりまえだっ」
 ヒムはためいきをついた。また安請け合いしやがって、と思った。

 魔界の空は常にうす暗く、雲がたち込めている。だがその土地は強い風が吹き、黒雲が上空を次々と流れていった。
 どういうわけか空には石が浮いていた。地上から遠目で見ているので石に見えるが、おそらくかなりの大きさの岩が浮遊していると思われた。無数の岩が気流に乗るように渦を巻いてゆるやかに上空へのぼっていた。
「なぜ岩が浮く」
 空を見上げてヒュンケルはつぶやいた。
「この辺の岩は、そういう性質なんだと」
 横にいたポップが答えた。
「誰かに聞いたのか」
「魔族の岩堀の長老から。ちょっと前に岩堀たちが隠れ家へ避難してきたんで、話を聞きに行ったんだ。浮く岩と魔界の鉱物を合成すると魔鉱岩を造れるって」
「魔鉱岩?バーンパレスの建材か」
「そうそう。箱舟に使えないかと思ったけど、合成に時間かかりそうなんでやめた。けど、岩とか鉱物ってけっこうおもしろいよな」
 そのあたりは、魔界でも標高の高いところだった。ぎっしりと針のような岩がひしめく岩山で、ふもとから見るとほとんど崖だった。
 竜の騎士ダイとその仲間たちは、その日崖の上に集合していた。岩山の崖から張り出したような巨岩の上だった。
 ヒュンケルは片手を額にかざして、岩の群れが風に乗って舞い上がるのを眺めていた。
 後ろから名を呼ばれた。
「よぉ、ヒュンケル!地上から戻ったのか」
 振り向く前にヒムだとわかった。
「オレとラーハルトは来たばかりだ。ここは?」
「スカイドラゴンの巣の近く」
 あそこだ、とひときわ巨大な柱状の岩を指してヒムはそう言った。
「スカイドラゴンということは、空戦騎のライディングか?」
「それしかねえだろう、ってのが、ダイの判断だ。なんでもスカイドラゴンたちが荒れてんだそうだ。そいつらをまとめて言う事をきかせるには空戦騎が必要だ、ってさ」
「では、決まったのか、誰が空戦騎になるか」
「武闘家のねえちゃん」
「マァムか」
 しばらくヒュンケルは黙って考え込んだ。
「ヒム、他の準備は終わったのか?」
と、横からラーハルトが尋ねた。
「オレが知ってる限り、だいたい終わった。箱舟は工房で四隻出来上がって、水面へ降ろして仕上げをやってる。魔界の住民で脱出を希望する者は全部隠れ家へ集めた」
「船を飛ばす話はどうだ?」
 ヒム、ラーハルト、ヒュンケルの三人はいっせいにポップのほうを見たが、すでにポップは逃げ出していた。
「計画はあまり上手くいってねえな」
とヒムがつぶやいた。
「どうしてわかる?」
「あの兄ちゃんはバレバレだから。うまくいきゃあ浮かれるし、だめなときは判りやすくへこむし」
 珍しくラーハルトがかばった。
「この脱出計画の要がアイツだ。プレッシャーも大きいのだろう。あとは、ダイ様か」
「竜騎衆は知っての通りあと一人だけ。真魔剛竜剣のためのオリハルコンは、岩堀の魔族たちから手に入れたらしい。あとはお坊ちゃん鍛冶屋待ちだ」
「そこだな。うまくいくかどうか」
とヒュンケルはつぶやいた。
「真魔剛竜剣は、個人に属するものではないのだ」
とラーハルトが言った。
「竜の騎士が代々使用する装備だからな。あの剣の魂は、古の神々が与えたはずだ。ロン・ベルクと弟子がその魂を再生してくれればなんとかなるはず」
 少し離れた場所で、ポップが声を上げた。
「そろそろ時間だ」
 ダイの一行にはポップやクロコダインをはじめ、チウと遊撃隊のメンバー、そして青蜂使いの小鬼の代表者たちが混じっていた。
「結局、どうにもならなかったのか」
 小鬼たちはざわついていた。
「何の話だ」
とヒュンケルが小声で尋ねた。
「スカイドラゴンのボスが、てめえの巣から出てこねえんだと」
とヒムは答えた。
「オレもチウも、最初青蜂使いの小鬼がスカイドラゴンを飼ってるんだと思っていたんだが、逆なんだそうだ。小鬼がスカイドラゴンの許しを得て岩山に棲んでんだとか」
「オーシャンクローと水棲ドラゴンたちの関係に近いのか」
「だから畏れ多いんだってよ。手も触れられないって。それで困ったことになってんだ。スカイドラゴンのボスは巣穴にたてこもって、怒って暴れまくってるらしい」
ヒュンケルが眉をひそめた。
「なんということだ」
そうつぶやいて、ふいに顔を上げた。
「では、今日、マァムは、狂ったスカイドラゴンを相手にライディングをしなくてはならないのか!?」
「しかも、場所が場所だ。あの姉ちゃんの実力は知ってるが、それでもニンゲンだろう。この高さから落ちたら一発で死ぬぞ」
 ダイがこちらに気付いてやってきた。
「ダイ、危険すぎないか」
はぁ、と後ろにいたポップがためいきをついた。
「事情があるんだよ……スカイドラゴンのボスは、雌なんだそうだ」
「雌って言うか、お母さんなんだって」
とダイが言った。
「岩山の洞窟に卵がかえるまで置いておく大切な場所があったんだけど岩場が崩れて卵が壊れたり流されたりしたんだって。それで」
「怒り狂ってるわけか」
うん、とダイはうなずいた。
「スカイドラゴンたちが落ち着かないのはそのせいみたい」
ポップは、小鬼たちを指した。
「あいつらが言うには、スカイドラゴンはミツバチみたいな生き物なんだそうだ。群れのボスは、女王バチならぬ女王ドラゴン。他のスカイドラゴンたちはその子供。女王様をなだめられるヤツなんかいないんだ」
ヒムがつぶやいた。
「青蜂乗りたちは、ちっとだけならスカイドラゴンが何言ってるかわかるそうだ。女王ドラゴンは『ワタシノコヲカエセ』って、繰り返してるらしいぜ」
「死児をよみがえらせるなど、そんなこと、誰にもできん。女王ドラゴン以外のスカイドラゴンでライディングを果たすことはできないのか?」
ラーハルトはかぶりを振った。
「一番強い竜を乗りこなすというのが竜騎衆のライディングだから、その案は却下だ。それならむしろ、日をおいて女王ドラゴンが落ち着いてから挑むべきだ」
それがさ、とポップがつぶやいた。
「肝心のマァムが乗り気になってんだ」
「なに」
とヒュンケルが言った。
「昨夜『王女の愛』でマァムと連絡を取って事情を説明したんだが、もうやる気満々で。あ、もうそろそろだな」
 リリルーラで合流する者は光となって飛来してくるはず。ダイの一行は空中を見上げてマァムを探した。
 空のかなたで何かが光った。
 流星めいた軌道を描いて金の光が降ってくる。光の軌道は、浮遊する大岩にぶつかってかるくバウンドした。
「マァム、なのか?」
 男たちは言葉もなく見上げた。目の前で光は、ほっそりとした姿になった。浮遊岩から浮遊岩へと飛び移りながら絢爛たる武神が降下してきた。
 マァムは長めの丈の武闘着を身につけていた。真珠色に輝く衣装で、暗めの空を背景にその姿はよく目立った。腰に紫のストールを巻いてウェストで結び、同じ色の長い領布を天女のように肩と腕に巻き付けている。
 戦闘用のブーツが軽く岩を蹴った。重力さえ彼女には手出しができないのか、踊るように、あるいは泳ぐように、優雅にマァムは降下してくる。マァムの動きにつれて、領布がひらりと舞った。
 誤って岩から足を踏みはずしたらものすごい距離を落ちて針山のような岩に串刺しになるはずなのに、マァムは微笑みを浮かべていた。
 裾のスリットから見える太もも、袖なしの上着の先の二の腕は、色白で美しい。が、そこから繰り出す技は大地を貫く威力を秘めている。
「マァム、だよな」
 おぼつかなげにポップがそうつぶやいた。あとはただ、ぽかんとして見上げていた。
 いきなり背後で岩の砕ける音がした。ヒュンケルたちはいっせいに身構えた。
「おい、巣を見ろ!」
 スカイドラゴンの巣だという柱状の岩が途中から砕け、そこから飛竜が飛び出した。
「やべぇぞ!」
 飛び出したのは大型のスカイドラゴンだった。青蜂乗りの小鬼の言う女王ドラゴンらしい。まっすぐにマァムめがけてとびかかっていった。
「マァム、逃げろ!くそっ」
 ポップが瞬間的に魔法力を高め、トベルーラの予備動作に入った。
「だめだ、ポップ!」
とダイが止めた。
「ドラゴン・ライディングに手出しは無用だ」
とラーハルトが言った。
「そんなこと言ったって」
 ラーハルトは上空へ向かってあごを動かした。
「見ろ」
 つかみかかる前足をふわりとかわし、マァムはそばの浮遊岩へ飛び移った。女王竜は大きな口を開いて威嚇した。
 その鼻先をかすめ、マァムが岩の上でとんぼを切るように後退していく。
 ガチリと音を立てて女王竜は牙を嚙合わせた。が、何度頭を振りたてて噛みかかっても、マァムは捕らえられなかった。
「い、いいぞ……」
 ポップは手のひらを握り締めている。ヒュンケルも、飛び出して助けに行きたいのをこらえていた。
 何度目かに女王竜が空を噛んだとき、マァムの身体は女王竜の横顔をかすめ、反転してその鼻先へ向かった。虚を突かれた女王竜が一瞬、ひるんだ。
 とん、と鼻先に手をついて、マァムは女王竜の頭部へ飛び移った。
 足が天へむき、つま先が優雅な弧を描いて着地する。スリットとブーツの間の白い太ももがむきだしになり、まばゆいほどだった。
「ぐぅああああっ」
 女王竜が吠えた。長い身体をゆするようにして身もだえした。
 あまりにも長大な体は、浮遊している岩にあちこちでぶつかる。というよりも、ほとんど自傷行為だった。
 尖った岩にわざわざ体を押しあててぐいぐいとこすりつけている。長い傷跡が竜の体側に何本も見受けられた。なかには鱗の列がガタガタになり、体液のにじむ箇所もあった。
「ほんとに頭おかしいぞ、あの竜」
「というより、マァムはどこだ」
とヒュンケルがつぶやいた。
 え、とダイがつぶやいた。
「マァムがいねえぞ!」
 あわてるな、とラーハルトが一喝した。
「女王ドラゴンの首のあたりを見ろ」
 ライディングなのだから、竜の首に取り付いて手綱代わりのロープ等で拘束するのは当たり前だった。が、マァムは不思議な行動を取っていた。
 まるで母親が背後から子供を抱え込み、あやしているかのように、暴れる女王ドラゴンの頭の後ろに長々と身を横たえ、鱗の上に両腕を伸ばし、額をそっとおしつけていた。
「抱きしめている……?」
とヒュンケルはつぶやいた。
 女王ドラゴンが咆哮を上げた。顔面も、傷ついていた。狭い巣の中で暴れまわり、ついには壁面をぶち抜いて飛び出した以上、傷を負うのも当たり前だった。が、傷ついた顔からしたたり落ちる体液がまるで涙のように見えた。
 女王ドラゴンは、また鳴き声を響かせた。遠目だが、マァムの手がスカイドラゴンの頭部をゆっくり撫でているのが見えた。
 女王ドラゴンが気を許しているわけではなさそうだった。泣きながら空中に身をくねらせ、マァムを振り落とそうとしている。その姿は、スカイドラゴン族のボスというより、泣いてむずかる幼女のようだった。
 ぐるんと勢いをつけて女王ドラゴンが回転した。そのまま深い谷底へ一直線に落ちていく。見ているヒュンケルたちがぞくりとするような急降下だった。
 マァムは動じなかった。鱗で覆われた皮膚の上にほとんど寝そべって、手のひらでそっとさすりながら、何か話しかけているようだった。
 ドラゴンとマァムがゆっくり谷から上がってきたとき、マァムの表情まで見えた。眼は半眼に閉じ、唇はかるく開いている。
「……話しかけてるんじゃない、歌ってるんだ」
 おそらく、子守唄を。
 女王ドラゴンは、むずかる動作をなんどか繰り返し、そのたびにしおしおと上空へ戻ってきた。
 竜の飛び方が、次第に変わってきた。もう、振り落とすような行動はない。むしろ、風に乗って漂うように見える。表情のないはずのスカイドラゴンの顔も、どこか甘悲しい陶酔を浮かべていた。
 長大な尾が打ち振られた。短い後足が空を泳いだ。漂う浮遊岩の間をぬって、女王ドラゴンが旋回している。ただの旋回ではなく、らせんを描いて上空へ向かっていた。
 ラーハルトはいぶかしげだった。
「あの高さで、何をしているんだ?」
 ヒュンケルはつぶやいた。
「あまり考えたくないが、あのドラゴン、マァムを道連れにするつもりかもしれん」
「なんだとっ」
 ポップがわめきかけた。
「大丈夫」
 上空を見上げてダイが言った。
「ほら、あの子、踊ってるよ」
 ダイの言うあの子、が女王ドラゴンだということはすぐにわかった。女王ドラゴンは、マァムに抱きしめられたまま空中を駆け上がった。
 浮遊岩を追いかけてはるか高みへのぼり、登り切ったところからのけぞり始め、そのまま頭から落下する。それを途中で止め、浮上し、優雅に空をすべっていく。
 暗い空と遠い雷鳴を背景に、真珠色の武神を伴って女王が悲しみの舞を舞っていた。スカイドラゴンの長いひげとマァムの領布がいっしょにたなびいた。そのさまを、ヒュンケルたちはしばらく言葉もなく眺めていた。
 思う存分空を泳ぎ回ったあと、女王ドラゴンは静かにヒュンケルたちの岩場へ戻ってきた。
 マァムは首の後ろに横座りにすわっていた。
 体重を感じさせない身軽さで、マァムは先に巨岩へ降り立った。傍らに見たこともないほど大きなスカイドラゴンが寄り添った。女王ドラゴンは頭部をマァムに寄せて甘えた。その首にマァムは長い領布をぐるりと回してリボン結びにした。
「悲しかったのね。かわいそうに。元気を出して、なんて言わないわ。いつでも寄り添うから、泣いてもいいのよ」
そうささやいた。
 マァム、と小声でダイが呼んだ。
「やったね!おれ、マァムならできると思ってたよ」
 ポップがのぞきこんだ。
「いや、でも、すげえな。『ワタシノコヲカエセ』って言ってたんだろ、こいつ?」
 マァムは静かに聞き返した。
「盗人うさぎの村で、スカイドラゴンの幼竜を見つけたのを覚えてる?」
「ああ、あったな、そんなこと」
「あの幼竜はね、死ぬ前に『オカアサン』って言ったのよ。だからそのことを話したの」
 ポップがつぶやいた。
「けど、それじゃ、解決にならねえ」
「どうにもならない悲しみは、解決しなくていいのじゃないかしら」
 女王ドラゴンの角をそっと撫でながらマァムは言った。
「さあ、回復呪文をかけるわ。いい子にしてね」

 天高く舞う竜と武神の姿を、しっかりと見ていた者がいた。
 首無し騎士の眷属、屍カラスのうちの一羽が、その日、ありえない高みに身を躍らせる竜を不審に思って近寄っていた。
 カラスは元々ゾンビだった。存在感は薄く、あたりは舞い上がる岩だらけで、身を隠すところは多い。
 ダイの一行を発見した直後、屍カラスは黒い海の上を首無しの騎士目指して飛んで行った。目撃した情景を淡々と首無しの騎士に報告した。
「やはり、いたか」
 それだけをつぶやくと首無しは動き始めた。
 広大な魔界の海の上を、異形の軍馬と騎士が波を蹴立てて駆け出した。