一行は竜の谷を後にして、斜面をずっと上ってきた。はるか下方に黒い三日月湖とその両岸のシダの斜面があった。そして頭上には魔界の暗い空と、空の下の森、そして森の向こうにそびえたつ尖塔が見えていた。
ポップが言い出した。
「なあ、ちょっと寄り道したいんだが、いいか?」
えー、とダイが声を上げた。
「船を手に入れるって言ったのに」
「その船だって、タダで手に入るわけがないだろ?先立つものがねえとな」
「先立つものって?あんなところに、何があるの?」
マァムが聞くと、ポップはこほんと咳払いをした。
「ラーハルトに聞いた話だが」
と、ヒュンケルが説明を始めた。
「大魔王バーンは魔界に七つある城のそれぞれに軍資金を蓄えていたそうだ。あそこに見える塔はその城の一部だ。バーンの気に入りの城『第七宮廷』という」
ダイは唇をとがらせた。
「宝物があったとしても、とっくに盗まれてると思うよ。魔界だもん」
ポップは妙ににやにやしていた。
「ところがどっこい!ラーハルトから耳よりのネタをもらったんだ。あ、興味ねえなら先に行ってくれ。街道沿いで町を探して、おやつでも食べてろよ。大人には大人のお仕事ってものがあるのさ」
「なんだよ、子ども扱いして」
とダイがむくれた。
「オレも行くよ」
あははっとポップは笑った。
「悪い、悪い。そのかっこだと子供に見えるんだ……じゃあ、手分けして探そうぜ。ヒュンケル?」
ポップは尋ねるような顔でヒュンケルを見た。
「このあたりの森の中に、岩の塊があるはずだ。周りを木に囲まれた空き地に大きな岩が半分埋まっているそうだ。軍資金はその内部にあるらしい」
「もっとヒントはないの?」
子供らしいわくわくした顔でダイが聞いた。
「ラーハルトは上から見るとわかると言っていた。ポップ、マァムと探してくれ。オレはダイと森のこっち側を見てくる」
「わかった!おれたちは森のあっち側だな。マァム、行こうぜ」
ポップはいつものようにヘラヘラ笑い、マァムは半分呆れながらついていった。
二人が行ってしまうとヒュンケルも逆方向へ歩き出した。
「待ってよ、オレ、ポップといっしょがいい」
振り向くと、しょぼんとしたようすでダイが立っていた。
「ヒュンケルさん、少し怖いんだ。ポップなら、オレ知ってるから」
くす、とヒュンケルは笑った。
「オレのことなら、ヒュンケルでいい。覚えているか?お前は一度記憶喪失になったことがある。ちょうど今のお前のような顔をしていた」
「ごめんね、わからないや」
「ああ、そうだったな。悪かった。ではここでポップが戻ってくるのを待つか?」
ううん、とダイは首を振った。
「宝探しは、やりたいな。おもしろそうだよ」
「そうか。大魔王の財宝はこの森の中だそうだ。歩いてみるか。オレのことは気にしないでいい」
相変わらず魔界の空は暗く、時々雲の中に稲妻が光った。ヒュンケルの知覚には、小型のモンスターや小動物系の獣人がこちらをうかがっているようすがとらえられていた。が、襲ってくる気はないようだった。
森に入ると巨木の下はさらに暗かった。木下闇のなかに点々と白いものが転がっていた。
「なんだ、これは?」
ダイが答えた。
「全部、竜の卵だ。生まれなかったみたいだね」
「そんなことがあるのか」
少し驚いてヒュンケルがそう言うと、ダイはうなずいた。
「ニワトリの卵だって、半分くらいは中で雛が育たないんだよ」
ヒュンケルはあたりを見回した。
「では、ここもドラゴンが営巣地にしていたのか」
こく、とうなずいてダイはまた歩き始めた。
「岩は、あることはあるけど、塊って感じじゃない」
「このへんではないのだろうな」
そう答えてもっと奥へ行こうとしたとき、魔界には似合わないほど能天気な声が遠くから聞えた。
「お~い、こっちだ!あったぞ~!」
●
それは確かに岩の塊だった。小さなほこらほどの一枚岩で、てっぺんはいくぶん平たくなっている。
「テーブルのようだな」
思わずヒュンケルがそう言うと、ポップが興奮を抑えきれないような声で岩の頂上を指した。
「あそこんとこに一本亀裂があるんだ。そこからのぞきこんだら、すげえのなんの」
「な、何がすげぇの?」
つっかえながらダイが聞いた。もったいぶってにやにやした顔でポップはてっぺんを指した。
「百聞は一見に如かずさ。上ってみな?亀裂の中をのぞきこむと見えるから」
よ~し、とつぶやくと、ダイは岩の表面のでこぼこに手をかけて登り始めた。
「亀裂ってこれ?暗くて見えないよ」
「上から光が差すと反射するんだ。もっと真上から見てみろよ」
ダイは位置を変えて亀裂をのぞきこんでいた。
「あ、中で何かキラっとしたよ。緑色に光ってる。これが大魔王の宝?」
ポップの口調が変わった。
「いや、そいつはおれの輝聖石だ」
え、とつぶやいてダイは岩の下にいるポップを見た。
ポップの表情も変わった。調子のいい口だけ男の顔が、目の前の獲物に集中している狩人のそれになった。
次の瞬間、ダイの足元から光が浮き上がった。ダイの立つ岩は黒っぽい色をしている。その平たい頂上から白い光が円形に立ち上がった。光の輪はダイの身体に巻き付いて、縄のように締め上げた。
「なんだこれ、動けないよっ」
「動けなくていいんだよ。さっき二手に分かれたときに、この岩にあらかじめ魔法陣を仕込んでおいた。おまえがいるのは、そのど真ん中さ」
ダイは、大きな目に涙をため、苦しそうにもがき、哀願した。
「はなせよっ、なんでこんなことするんだよっ」
「同情ひこうとしてもムダよ」
いつのまにか、マァムが来ていた。
「顔も声も、ダイにそっくり。その体はほんとにダイなのね」
マァム、とヒュンケルは声をかけた。
「あの子供は、ダイのふりをしてる別人だ」
「ええ、わかってる」
とマァムは言った。
「オレ、何も知らないよっ」
「ピロロが言うには、あんたは欲が深いんだって?」
ポップは額に汗を浮かべていた。魔力消費の激しいこの魔界で、莫大な魔力を岩の上の魔法陣へ、あとさきかまわず注ぎ込んでいるようだった。
「だから、大魔王の宝って言えば釣れるとふんだ!」
ダイの表情が変化した。あざといほど可愛らしい、幼く見える少年の顔を捨て、邪悪な本性を見せた。
「ええい、たばかりおったな!」
罵る声も、まだ高い子供の声から威嚇するような低音になった。
「最初にダイのふりでおれたちをだましたのはてめぇだろうが!でも魔法陣の中に立たせちまえばこっちのもんだ。」
にやりと笑うとポップは呪文の仕上げにかかった。
「これぞわが師アバン直伝、破邪の秘法!」
ダイのまわりに、二重の円とその中央の五芒星が白く浮かび上がった。
「これ、見たことあるわ」
とマァムがつぶやいた。破邪の秘法は、破邪系呪文の力を増幅することができる。その魔法陣はバーンパレスの巨大な扉をアバンが破ったときに使ったものだった。
「くらえ、浄化呪文ニフラム!」
虹色の波が魔法陣に沿って立ち上がり、少年に襲い掛かった。逃げることもできず、ダイは身をもがいていた。七色の炎の火刑のように、その姿は波に包まれて見えなくなった。
へたへたとポップが座り込んだ。
「……やったか?」
「見てくる!」
マァムは身軽に岩塊の上に飛び上がった。
「ダイ、ダイ、目を覚まして!」
小さなうめき声が聞こえた。
「私がわかる?!」
ヒュンケルはポップに手を差し出した。その手をつかんで、どうにかポップが立ち上がった。
岩の上から高い声がした。
「マァム?!おれ、なんで、ここはいったい」
「よかった、ほんとのダイねっ?!」
マァムの声は嬉しそうだった。
「ここは魔界よ。私たち、みんなで迎えに来たの。レオナが地上で待ってるわ。さあ、帰りましょう!」
ヒュンケルは上に向かって手を振った。
「オレたちはここだ!」
片手で額を抑えながらダイは混乱した顔でこちらを見下ろした。
「ヒュンケル?……ポップ?……」
その瞬間、ダイの表情が変わった。
「だ、だめだ」
「ダイ?」
岩の上で、ダイは後ずさりをした。
「おれ、地上へは帰れない。帰っちゃいけないんだ」
「まだそんなことを言ってるの?!レオナは」
ごめん、と叫ぶやいなや、ダイは岩塊から飛び降りた。
「あっ、おいっ」
地面に着く前にダイはトベルーラを発動し、あっというまに姿を消してしまった。
「もうっ、なんでこうなるのっ」
マァム、とヒュンケルは声をかけた。
「事情を知っているなら話してくれ」
「でも、あの子逃げちゃうわ」
「いや、トベルーラを使ったらすぐに魔力切れを起こすはずだ」
へとへとのポップが言った。
「だから遠くへは行かれねえ。情報が先だ。頼む!」
マァムはためいきをついた。
「わかった。話すから聞いて。ダイはね、自分が地上へ戻ったら、自分の周りの親しい人が迫害される、と思っているの」
「なんでそんなことを」
「バーンがダイに、そう信じ込ませたのよ。大魔王の言葉が今もダイを縛っているわ。まるで呪いのようにね」
●
木々を縫うように飛んでいた身体がいきなり重くなった。ダイは途中で地表に降り立ち、息を整えた。
頭が混乱している。
――世界はうまく完結する、おれさえいなければ。
――ほんとに魔界なんだ。身体も心も重いな。
――ポップもマァムもヒュンケルも、知らない間に大人になってた。
――みんな、おれのことなんか忘れて、地上で笑っていてよ。
森を抜けると荒々しい岩山になった。山の上に廃墟がある。そこへ逃げ込もうとダイは走り、走れなくなると歩いて近づいた。
人工的に整えられた道は幅の広い石段に代わった。正面玄関の前の広場は壮大で、もとは豪華な城だっただろうと思われた。
地上のお城なら花壇や噴水をつくるようなところに整然と石畳が敷き詰められている。広場に立像がならんでいたがほとんどが壊れていた。
立像の間を、足を引きずりながらダイは進んでいた。正面の大きな扉は破られ、城の中は略奪され、誰もいないようだった。
遠くの雷の音にまじって仲間たちの足音が聞こえるような気がした。心に決めた別れの決意が鈍らないように、ダイは一生懸命だった。
直線の長い廊下を抜けて、ダイは大きなホールへ逃げ込んだ。もし誰かが、かつての城主の亡霊あたりが真上から見下ろしていたとしたら、ホールの床を彩る二色のタイルの幾何学模様の上を、倒れた家具や落ちた天井を避けて、小さな人影がよろよろと進むのを見たことだろう。
「ダイ、ダイっ、どこだっ」
ダイは、ホールの壁際の大きな暖炉のかたわらにうずくまった。体力も気力も、地上とはくらべものにならない速さで消耗する。もう逃げられない。
残った力を振り絞り、手を高く揚げて天井を狙った。手から飛ばした闘気は吊るしてあった大燭台の鎖をちぎり、燭台は轟音を立ててホールの中へ落下した。
「来ちゃダメだっ!!!」
足音が止まった。
瓦礫の向こうで仲間たちが茫然としているのがわかった。
「おれを見つけたことなんて忘れてよ。それが一番いい」
シャンデリアの残骸の向こうに誰か立っていた。
「ダイの決心は知ってるわ。レオナに聞いたの」
ダイは両手で胸を抑えた。マァムの言葉は胸をえぐる刃だった。
「レオナ、泣いてた。ダイは帰ってこないつもりだって、あの子知ってたわ」
「それなら」
とつぶやいたとき、マァムが声を上げた。
「そこから出てらっしゃいっ!!」
静寂の城に鳴り響くような大声だった。
「レオナがどんな顔でパプニカのナイフを預けたか、あんた見てないじゃないっ!たった一本の希望の糸をどうしてばっさり断ち切れるの?!」
「だからっ!!」
とダイは叫び返した。
「ダメなんだよ、マァム。ベンガーナで助けた女の子は、おれのことを怖がってた。おれが初めてじゃない、竜の騎士はみんなそうだ。父さんだって、アルキードの人たちに怖がられてたんだっ!」
せきこみそうになって、ダイは一度言葉を切った。
「おれ、わかってたんだ。ほんとは人間じゃないって。だからバーンに言われたとき、その通りだなと思ったよ」
――賭けてもいい、余に勝って帰っても、おまえは必ず迫害される。
「地上に戻ったらダメなんだ。レオナが真っ先に迫害される、おれの母さんみたいに。頼むよ、おれなんかのせいでそんなことになったら、おれ、がまんできないよ」
低い声が名前を呼んだ。
「ダイ、聞いてくれ」
ヒュンケルは昔と変わらず冷静で、昔よりさらに大人びていた。
「竜の騎士は強さゆえに迫害される、とバーンは言ったそうだな。ヒトは恩知らずだ、ヒトは異端者を排斥する、と。そういう面も確かにあるだろう。だが、そればかりがヒトの姿ではないと、おまえは知っているはずだ」
「それは……知ってる。知ってた。でも、竜魔人になったときのおれは、ほんとに戦うことと勝つことしか頭にない生き物なんだ。こんなおれを受け入れてくれる世界なんてないよ」
「オレは罪人だ、ダイ。今でも償いきれてなどいないと思っている。だが、こんなオレでも地上は受け入れてくれた」
ダイは両手で顔をおおった。
「ヒュンケルはれっきとした人間じゃないか。おれとは違うよ」
昔の仲間の前でみっともなく泣き出したりしたくない。ダイは震えてくるあごを手でおさえた。
ヒュンケルが何か言いかけてやめた。ポップの声がした。
「おれの出番だ」
マァムがささやいた。
「どうにかできそう?」
「どうにかっていうか、あいつ、昔のおれとそっくりのこと言ってるんだよ」
「昔とは?」
とヒュンケルが尋ねた。
「おめぇの処刑場で、ミナカトールのための魔法陣を五人で描こうとしていたときさ。だからおれ、あいつが今どんな気分なのか、ちょっとわかるんだ。なあ、ダイ?話をしようぜ。五年ぶりなんだからよ」
「だめだ」
弱弱しくダイは抗議した。
「おれにとってレオナもポップたちも、どんなに大事かわからない。でも、だからこそ、おれは地上の世界には触れられない。わかってよ。説得なんてやめてくれ」
「それじゃ、ひとつ教えてくれよ」
背は高くなり、声は低くなったけど、ポップの口調は昔と変わらなかった。
「ダイ、おまえ、勇気って目に見えるか?」
身構えていたダイは肩透かしを食らった気がした。
「そんなもの、見えるわけない」
「そうだよなあ。勇気、闘志、正義、愛、どれも見えないし、さわることもできないもんだ。それじゃあなんであの時、おれが勇気を出せるって思った?」
「だって、ポップはいつもそうだったじゃないか。最後の最後には勇気を出してくれたから」
はははっとポップは笑い声をあげた。
「経験からわかるってことか。じゃあおれも、自分の経験から言わせてもらうぜ」
ポップが息を吸い込んだのがわかった。
「ヒトでもモンスターでも偏見を持たず、誰とでも仲良くなれる、それがおまえの魂の力、イノセンス(純真無垢)だ。おまえは地上が好きだと言った。だから地上の生き物はおまえが好きなんだ。なんでわかるかって?ずっとおまえと旅をしてきたおれの経験だよ」
詭弁だと思った。むちゃくちゃだと思った。が、ダイはうまく反論できなかった。
「……でも、おれはみんなとは違うんだ。おれみたいな生き物が地上にいちゃいけない」
「おまえ、あの時のおれと同じこと言ってるぞ」
――おれはっ!!おれはおまえたちとは違うんだっ!!!王族でも生まれつきの戦士でもねえんだよっ!!!
血を吐くようなポップの叫びをダイは思い出した。一人だけ違っている、劣っている、という思いがどれほどむごく心をさいなむことか。ぎゅ、とダイは服の胸のあたりを握りしめた。
かた、と軽い音がした。
「ほら、受け取れ」
ダイは顔を上げた。シャンデリアのハブのすきまからポップが何かをおしこんでいる。涙滴の形をした小さな結晶が見えた。忘れようとしても忘れられないそれは、卒業のしるしとして与えられた結晶であり、仲間との絆を示すアイテムだった。
「おまえさんのアバンのしるしだ。あ~、昔の思い出で泣き落とす、なんてまねはするつもりはないぜ?」
こっちが勝手に泣けてくるだけだ、と思い、ダイは手の甲で涙をぬぐった。
「おまえのイノセンスはまだおまえの中にある。それを証明してやるよ」
「おれは、でも」
「おまえが竜魔人かどうかなんて関係ねぇ、おまえがダイだから信じてるんだ。勇者がなんだ、ドラゴンの騎士がどうした、おれにとってダイはダイだ」
テランの湖のほとり、月のきれいな夜に、同じ言葉を同じ男から聞いたことがあった。そして大魔王の前でも。
ダイは声がもれないようにひとさし指の関節を口に入れて噛みしめた。
――かなわないや。テランどころか、魔界へ逃げても追いかけてくるんだもんな。
「さあ、もう一回始めよう。頭空っぽにして輝聖石を取れよ。そして高めるんだ、おまえの魂の力を」
ダイは手を伸ばし、アバンのしるしに触れた。
●
ヒュンケルの知覚に何かが引っかかった。純粋な生命エネルギーが急速に膨張している。
「みんな、下がって」
そう言ったのはダイの声だった。一番前にいたポップの腕をつかんでマァムがあとずさった。
距離を開けた三人の前で、巨大なシャンデリアの残骸が音を立てて割れた。パーツごとにふわふわと浮き上がった。
「何が始まるの?」
「しっ」
とだけ言って、ポップはようすを見ていた。さきほども、口調の軽さとはうらはらに、食いつきそうな顔でポップは説得していた。
瓦礫の向こうにダイの姿が見えた。手に持っているのは輝聖石だと思われた。ダイの指の間からきらりと青い光が漏れた。
――来る!
「目を閉じろ!」
ヒュンケルはそう叫んだが、間に合わなかった。地響きが起こった。シャンデリアのパーツが粉々に砕け散った。同時にホールの中に閃光が走った。
顔の前に前腕をかかげ、その下から目を細くしてヒュンケルは観測していた。
晴れた夏空のような美しい青い光がいきなりホールを満たした。次の瞬間、光が収束した。
ポップが、マァムが、息を呑んだ。城の廃墟から魔界の暗雲めがけて青い光の柱が立った。小さなダイの身体を包み込むような直径の巨大な光柱が、天を貫いていた。
柱が床に着く接地面から、白い光の波がらせん状に沸き上がり、光柱に沿って絶え間なく上昇している。
「ダ、ダイは」
ダイは一歩踏み出した。疲れ切っているはずだが、力強い踏み込みだった。
一歩、そしてもう一歩。
「ちょっと……見て!」
ヒュンケルは目を凝らした。そしてマァムが何を言っているかを理解した。
一歩ごとにダイの背が伸びている。
幼い顔立ちの柔らかな輪郭が引き締まり、大人の顔になっていく。
丸みを帯びた子供の身体が、一足歩くごとに筋肉を蓄えていく。
地上を離れて五年、実年齢の十七歳に、ダイは数歩のうちに追い付いていた。
ダイが足を止めた。
「よう、おかえり」
とポップが言った。
自分、ヒュンケルと同じ目線のダイが目の前にいた。
「おかえり、ダイ」
驚き半分嬉しさ半分、そして感動百パーセントでマァムが言った。
「おかえりなさい!」
ダイは口を開き、ぎこちなく声を発した。声変わりの終わった低い声だった。
「ただいま」
そう言って、笑顔になった。その奇跡的な成長にもかかわらず、ダイの笑顔は昔と同じく天真爛漫で、太陽の温かさに満ちていた。
へくっ、とポップの喉が妙な音をたてた。
「あのな、おれは怒ってんだぞ?」
うん、とダイはうなずいた。
「み、みずくさいまね、しやがって」
口調は確かに怒っていたが、ポップの顔はぐしゃぐしゃだった。
ダイは低い声で答えた。
「おれ、あの時ポップに、『おれの使命をいっしょに背負ってくれ』なんて言えなかったんだ」
「バカヤロ……」
ポップの鼻がぐすっと情けない音を立てた。
「そんなもん、使命でも運命でもなんでも来い!まるごと背負ってやるよ!」
拳で乱暴に目をこすった。
「やっとわかった。みんな、こんなとこまでおれを追いかけてくれたんだから」
少し大人びた表情でダイは笑った。
「今度は、頼むよ。ポップ、おれの運命をいっしょに背負って。最後まで見届けてくれ」
口を動かそうとするが、ポップの喉は妙な音を立てるばかりで声にならない。周りにいる全員が、しかしポップの気持ちを理解していた。
ようやくポップがとぎれとぎれにつぶやいた。
「おめぇを信じてるとは言ったがよ……おれよりデカくなれとは言ってねえぞ!」
あはは、とダイは笑い声をたてた。
「うん!ポップの顔が下の方にあるの、ヘンな感じだよ」
がばっと両腕を回してポップは抱き着いた。
「ダイ!ダイがっ、帰ってきた~~~!!!」
文字通り、涙腺が崩壊したらしい。そのあとは泣き声だけで、もう言葉にはなっていなかった。