ロトシリーズ20のお題 11.アレフガルド

※「いたスト」未プレイの方にはわけのわからん話だと思います、すいません。登場するキャラは性格や言動がだいたい「いたスト」仕様となっております。

 女神の白い両手のひらが光の玉をすっぽりと包み込んでいる。大陸と島々の形はちょうどそんな形に見えた。
 恵み多き麗しの大地、アレフガルド。
 緑濃い草原、人跡未踏の森林、屹立する高峰、風紋の砂漠。それらに点在する、いくつもの町。ラダトーム城二階玉座の間の外のバルコニーからは、王国の全貌をうかがうことができた。
 女神の奉じる玉にあたるのが、竜王の城だった。今は視界の正面にその堂々たる姿を見せている。
 皮の手袋をはめた手が石造りのバルコニーの手すりをしっかりとつかんだ。
「ここは父祖の地。そして、永遠の戦場だ」
青い服の若者だった。強いまなざしはしっかりと王国を見据えている。
「相手に不足はない」
彼、ローレシアの王子カカオは、ゆっくりとふりかえった。人の形をとった竜の王は、勇者の末裔の視線をはっしと受け止めた。
「手加減は、せぬぞ」
「おれたちもだ」
王子の背後には、プリン王女とクッキー王子が立っていた。
「お初に、竜王。ムーンブルクの王の娘、プリンと申します。ここにいるカカオとは血を分かち合う盟友ですけれど、今はなれあいはしませんわ。もちろん、あなたとも」
見下したような目で竜王は王女を眺めた。
「百も承知である。ダイスをもて。さて、誰からだ?」
カカオとプリンは、目を見合わせた。
「プリンじゃないのか?」
「あら、カカオだと思ってたわ」
のんびりとした声がわって入った。
「ぼくだよ」
緑の服の少年が、大きなダイスを抱えて、にこにこして立っていた。
「ぼく、クッキーです。よろしく、竜王さん。ひ孫さんとは、ぼく、なかよしなんです」
「そ、そうか」
「じゃ、ダイスをふります!」
ぽうん、とダイスを投げ出した。こうしてゲームは始まった。

 プレイヤーたちは、各エリアへ一斉に走った。
「精霊のほこらはもらった!」
カカオが叫んだ。エリアで最も高い店、道具屋が、彼のテーマカラー、青に染まっていた。
「ご先祖様、お守りください!リムルダールは、わたくしがおさえましてよ」
エリアにある4軒のうち、武器屋と道具屋が彼女の色、赤に変わっている。
竜王は呵呵と笑った。
「愚かなる者どもよ。ぎんこう城に近いエリアを取るべしという理を知らぬか!」
ロトのどうくつ、ラダトーム、雨のほこらが、見る見るうちに竜王色の黄色へ塗り換わっていく。
「えっ、えっ、え?」
うれしそうに沼地のどうくつを歩いていたクッキーは、驚いてきょろきょろした。
「みんな、早いね~」
「おまえ、なにやってんだ?あっちこっちに店を買い散らしやがって。それじゃメインのエリアが決らねえじゃねえか」
「でも、みんなほしくなっちゃったんだもん。あっ」
叫ぶと同時に、クッキーの姿が消えた。
「クッキー、どこにいるの?」
はるか遠くから彼の声がした。
「ぼく、ここだよ!」
見ると、マップ中央の竜王の島にクッキーの姿があった。
「旅の扉にすいこまれちゃったみたい」
さすがののんびり屋が、不安そうな顔つきになった。
「どうしよう。橋がない。船もない。ぼく、出られなくなっちゃった!」
「泣くな!」
とカカオは声を掛けた。
「旅の扉があるだろ?何度か回れば、ぶちあたるって。落ち着け。いいな?」
「うん……」
プリンがためいきをついた。
「でも、レベルアップは遅くなるわね」
「しかたねえ。あいつはとりあえず戦力外だ。おれたちだけでがんばるぞ」
「なれあいはしませんわよ」
「こっちのせりふだ」
竜王は悠然とした足取りでぎんこう城へ入った。ファンファーレが鳴り響く。
「ちょっと、何やってるのかしら、あいつ」
株である。なんと竜王は、リムルダール株を大量に購入していた。99枚も買われたおかげで、リムルダールの株価が3Gも上がった。
「あたしのエリアなのに」
竜王は杖をつきつけた。
「小娘。これが相乗りだ。ほれ、おまえのエリアに増資をしてみよ。儲かるのは、余である」
「なんてことを」
「くやしかったらわしのエリアの株を買って値段を押し上げてくれてもよいぞ?」
「この体を流れる血にかけて、おまえと相乗りなんて金輪際するものですか!」
はき捨てるようにプリンは言った。
「カカオ!あいつに乗せられてはだめよ?」
「あったりめえだ!」
竜王の哄笑は、アレフガルドの空に響き渡るようだった。

 竜王は手ごわかった。いつのまにかぎんこう城の近くのエリアは、見るからに恐ろしい買い物料の店が立ち並んでいた。
「667、545、985……だめ、踏むのが、怖い」
「くそ!ルートを回避するか」
プリンは目と鼻の先のぎんこう城をにらみつけた。
「いいえ!逃げることはできませんわ。絶対にあそこまでいかなくては」
薄ら笑いを浮かべて竜王は言った。
「小娘、そなたのその思い込み、マーク至上主義が身を滅ぼすのだ。覚えておくがよい」
「ふざけないで!」
血を吐くように叫ぶと、プリンはダイスを手にした。
「天国のお父さん、お母さん、プリンをお守りください。それっ」
ダイスは転がり、転がり、そして、運命の目をはじきだした。
「3、ということは」
美しい顔から、血の気がうせていった。
「プリン」
カカオが思わずその肩をつかんでひきとめようとするのを、プリンは優しく払った。
「これが私の運命ならば、しかたありません」
赤い上靴がマス目を踏みしめていく。無常な問いが投げかけられた。
“ここにとまりますか?”
蒼白な唇が答えた。
「はい」
“プリン→竜王 985G”
「あああああぁぁぁ」
プリンはその場に泣き崩れた。
「プリン、いや、おまえが選んだ道だ。もういい、おれにまかせろ!」
「まだよ!」
鬼女の表情でプリンが顔をあげた。
“ここを、五倍で買いますか?”
暗い微笑が浮かんだ。
「はい」
竜王はその瞬間、すさまじい形相になった。
「小娘、きさまっ」
爆音がとどろき、ドラムが打ち鳴らされた。真っ黄色だったエリアの一角が、真紅に染め替えられていた。
「破産するくらいなら、いっそ」
プリンは微笑んだ。
「この店は、今から私のものですわ」
しゅう、と音を立てて、竜王が育て上げたエリアが縮んでいく。すさまじい勢いで株価が下がっていった。
「おのれ、おのれ、おのれ!」
今にも黒竜に変化しかねない勢いで竜王はののしった。
「この竜王を、なめるでないわ!五倍買い返し!」
株で大損した上に、ふところに大穴が開くのもかまわずに、竜王は店を買い戻した。
「どうじゃ!」
「わかっていらっしゃいませんわね。これは戦いですのよ!」
別の場所で爆音がとどろいた。
「おっと、おれもいるんだ。五倍買い、もう一丁!」
「くそっ、もそっと寄れ!我が爪にかけてくれようぞ!」
(「な、プリン、ものは相談だが、俺の店とおまえのとこの店、交換してくれよ。そしたらおれのエリア、独占になるんだよ」
「ええ?まあ、そちら、紙の店じゃありませんこと?こちらは苦労して増資を重ねた、レンガの店ですのよ?それを?」
「俺とおまえの仲じゃねえか」
「なれあいはしないと、申し上げたはずですわ」
「かわいくねえな。竜王に勝ちたいんじゃないのかよ」
「わたくし、あなたにも勝ちたいんですの」
「しかたねえな、じゃ、100Gつけるから」
「絶対にいやですわ」
「強情っぱりが!」)
ひそひそと話をしていた間に、竜王は戦略を駆使したようだった。
「ふ、ふふふふ、ふはははは!雑魚を集めても、やはり雑魚じゃ!総資産を見よ!」
いつのまにか、竜王の資産は、目標金額へ迫っていた。
「くそう、いつのまに!」
「巨額の増資が巨利を産む。鉄則だ」
余裕を取り戻した顔で竜王はうそぶいた。
「なんと、5000G近い差とな?さあ、どうする?勇者の末裔よ」
「プリン、さっきの店をよこせ!いくらでもくれてやる!」
答えがなかった。プリンは表情が変わっていた。
「わん、わん、わおーん!」
「錯乱するな、プリン!」
竜王の嘲笑は、とどまるところを知らなかった。
「哀れなものよ。よしよし、あとすこしで城だ。勝利を味わうとするか。少々、あっけないがな」
そのときだった。竜王の姿がかき消えた。旅の扉に吸い込まれたようだった。
「ここは、おう、“竜王の島“エリアか。ふん、優勝の前には、縁起がよいくらいだわ」
そうしてまた、笑おうとした。その顔が凍りついた。
「なんだ、これは」
あたりの店は、緑一色だった。クッキーのカラーである。
「ああ、それね?全部、ぼくのだよ」
のどかな声でクッキーが言った。
「さっき、その中ぐるぐるしてたとき、なんだか全部買えちゃったの。それから、どこにも手を出さないで、増資ばっかりしてたんだ」
かわいいような顔に、ほのぼのとした笑みが浮かんだ。
「すぐ前にあるのが、ぼくの自慢のお店。名前も“勇者記念館”だよ。いっぱい増資したから、きれいになったの。見てってね」
あどけない顔でそう言った。竜王はあおざめた。
“勇者記念館”。買い物料、2837G。
「こ、このようなもの、ダイス運さえよければ」
だが、投げたときに、いつもの勢いがなかったことは否めない。ころん、と転がったダイスの表面には、4、と出ていた。
 思わずほっとして、竜王は歩き出した。4ならば、行く先はこのエリアの空き地だったはず。料金の高い神殿か酒場だったとしても、なんとかなる。そう思って足を踏み入れた。
「なんだ、これは?」
神殿でも酒場でも関所でもない。飛空挺もなければ、サーカステントもない。そこは、れっきとした店だった。
「うん、改築したの」
「なんだと!」
元はさら地だったそこには、すばらしい店が開店していた。グランドクロスである。買い物料、4974G。
 竜王の手から、ぽろりと杖が落ちた。
「こんな、バカな」
カカオたちにつけていたリードが、一気に奪われていく。莫大な料金がすべてクッキーの資産へふりこまれていった。
“クッキーさんの総資産が、目標額を超えました。”
「え、ぼく一番?わ~い、ウソみたい」
ころんと振ったダイスの目が、クッキーをまっすぐ城へ導いた。軽やかな足取りで、バカ高い店を踏み越えていく。
“WINNER、クッキーさん”
「やった!」
華やかに紙ふぶきが舞い散り、勝利のメロディが彼を彩る。その姿を遠くから見て、カカオはつぶやいた。
「あのとき五倍買いなんてバカをやらなけりゃ」
プリンは首を振った。
「およしなさい。あれは無欲の勝利というのよ」
「そうか?もしかして、すげえ計算してやったんじゃないのか?」
竜王はすみにうずくまって、身も世もないようすで涙に咽んでいる。プリンは視線を戻し、指先を軽くかんだ。
「かもしれないわ。もしそうだとしらら、クッキー、あなどれない子ね」
だが、クッキーは優勝者の台の上で、うれしそうに微笑んでいるだけだった。