ナイトプライド 4.戦うのもお祭り騒ぎか

 それは奇妙な生き物だった。もちろん魔王の手下であるからにはモンスターに違いないし、種族はドラゴンだろうと思われた。が、金茶色の剣板のならぶ赤紫の身体の上から、紫の祭服をつけ、水色のマフラーを巻いている。額の上には青いタッセルを下げた赤い学士帽を載せ、角のある髑髏をつけた金の錫杖をもち、そしてなぜか、丸いフレームの眼鏡をかけていた。
「ホッホッホ。これはおどろきました。このフールフールさまの前にノコノコと現れる人間がいるとは……」
 シルビアはたたんだ羽扇をフールフールに突きつけた。
「アナタがプチャラオ村を襲った悪い魔物ちゃんね!村のみんなを解放しなさいっ!」
 フールフールはさらってきた村人たちを岬のほら穴に作った牢獄へ閉じ込めていた。チェロンの案内で一行はそこにやってきて、ほら穴の真ん中でのうのうとしているインテリドラゴンを見つけたのだった。
 フールフールは一行を見下すと、長いひげを振るわせて嘲笑った。
「ホッホッホ。そんなことのためにわざわざ危険を冒しここまで来たのですか。とんだオバカさんがいたものです」
頭巾の後ろの皮革質の小さめの翼が、時々羽ばたいた。
「……いいでしょう。そのバカげた勇気を評して村人を解放してさしあげます!ですが……タダで帰してもらえると思ったらそうは問屋がおろしません」
シルビアはうさんくさそうに目を細めた。
 フールフールはパーティに向かって片方の前足をつきだし、てのひらを上にして四本の爪で招いた。
「アナタのいちばん大切なモノをゆずってくだされば村人を解放しましょう。悪い話ではないと思いますが、いかがですか?」
大きな口が開き、よだれがたれそうな顔だった。
 グレイグの隣で、んっとイレブンがつぶやいた。
「おじいさま、ユグノアの首飾りならもしかして」
「……人の命には代えられんの」
王家伝来の宝物であるユグノアの首飾りは、イレブンにとっては母の形見にあたることは別としても、かなり大きな涙滴型の翡翠であり、値打ちものだった。イレブンは大事な物入れからその首飾りを取りだそうとした。
 そのとき、片方の手を突きだしてシルビアはイレブンを遮った。
「イレブンちゃんっ、その必要はないわっ!」
「シルビア!」
「これ以上イレブンちゃんに大切なモノを失わせはしないわ」
生国と故郷を共に喪失した少年勇者に向けるまなざしは優しかった。
「ここはアタシの出番」
きっぱり言うと、シルビアは学者気取りのドラゴンの前に進み出た。
 グレイグは声もかけられずにその後姿を見送った。同時に、かすかな期待もあった。シルビアにとって“いちばん大切なモノ”とは何なのか。「何を持って一番大切とするか」は、その人物の人物証明に他ならない。
 どこかせつなげな瞳でシルビアはフールフールに向き直った。貴婦人よろしく閉じた扇を肩にあててつぶやいた。
「アタシがずっとずっとあたためてきたとっても大切なモノ……。この魔物にあげるわ」
フールフールは嬉しそうに笑った。
「ホッホッホ!人間にしてはものわかりがよくて助かりますよ!ではさっそくいただきましょうか」
つかつかとシルビアは近寄った。広げた扇子の上に何かのせ、フールフールに手渡す直前、扇で視線を遮った。
「ハイ、これ。大切に使ってね……」
するりと扇を引き、シルビアがあとずさる。
「どれどれ……」
フールフールは目を閉じてくんくんと匂いを嗅いだ。
「お、おおっ、なんとかぐわしい香り……っ!こ、これは……っ!」
言いながら手にしたものをのぞきこんだ。それはどう見ても……乾燥した馬のフンだった。
 ぎょっとしてフールフールは、ほら穴の地べたに馬糞をたたきつけた。
「……ってうまのふんじゃないですかァ!!」
「あっかんべーっ」
シルビアだった。
「アンタなんか、うまのふんがお似合いよ!」
すっかりリズムに乗ってシルビアは踊っていた。大きな目はこバカにしたような寄り目になり、悪い顔で笑う。背中を向け、派手な二重背負い羽根ごと腰をフリフリして見せた。
――やりおった!
敵をここまで挑発するのは愚かだと、頭ではグレイグにもわかっている。だが、なんとも痛快だった。イレブンは我慢できずに噴き出し、ロウやチェロン、ミシェルたち、捕まった村人たちは腹を抱えていた。
 フールフールの目が吊り上った。拳を握りしめて魔物は叫んだ。
「ワタシを怒らせましたね……。このフールフールさまをここまでコケにするようなオバカさんは……これでもくらいなさいっ!!」
いきなりフールフールは手にした錫杖をつきつけた。マホトーンがほとばしった。グレイグたちは呪文を封じ込められてしまった。
「泣いてわびようが絶対に許しません!アナタたちの大切な命……チカラづくで奪ってあげましょう!」
 にや、とシルビアが笑った。
「みんなーっ、いっくわよー!!」
よしっと答えてイレブンが飛び出した。
 とたんに歓声が巻き起こった。グレイグは驚いて背後を見た。パレードボーイズが腕を振り上げ、口笛を吹きまくって応援している。奥の牢獄からもさかんな声援があがった。
「がんばれーっ、やっちまえーっ」
「負けるなっ」
 岬のほら穴に足を踏み入れたときの、お通夜のように沈んだ空気はどこへ行ったのか。今はまるでお祭りだった。
 ギガスラッシュを決めたイレブンが一度下がった。フールフールは怒りのあまりベギラゴンをたたきつけてきた。
「おう、けっこう痛いもんだ」
一人につき百近いダメージだと言うのに、どうして自分はこれほど高揚しているのだろう。グレイグは戦列に戻り、シルビアと並んだ。
「おい、ここまで挑発するヤツがあるか」
シルビアはまったく悪びれなかった。
「いやン、オトメのかわいい悪戯を責めないで」
グレイグは天を仰いで笑った。
「面白かったから、許す!」
「アラ、そう……えっ!?」
一瞬シルビアが呆気にとられた。何を思ったか、くす、と笑うと耳元にささやいた。
「そこの男前!あの嫌味なドラゴンぶった切ってちょうだい!」
「お安い御用だ」
グレイグは大剣の柄を握りなおした。
 フールフールはスクルトしていた。だがグレイグはかまわずに斬りかかった。ドラゴン斬り、はやぶさ斬り、無心攻撃と矢継ぎ早に攻め立てた。イレブンも同じくギガスラッシュを連発していた。華やかなパレードの服に華麗な攻撃技がよく映える。
「あはははは」
美少女のような顔立ちの勇者は剣を舞わせながら楽しそうに笑っていた。
「おーっと、こりゃまずいぞい?」
周りを見てロウがつぶやいた。
 回復を後回しにして楽しく攻撃を続けていれば当然のことながらHPは減っていく。グレイグ、イレブン、ロウのいずれも回復魔法の心得があるが、呪文を封じられていた。
「まっかせて~?」
シルビアだった。グレイグは振り向いてぎょっとした。
「お前、一けたになってるぞ!」
さきほどからフールフールが眠りの魔法を使ってくるたびにシルビアがツッコミを入れて起こしていた。状態解除が忙しすぎて自分の回復まで手が回らなかったらしい。HPは真っ赤だった。奇妙な浮かれ方をしていたグレイグの頭がさっと醒めた。
シルビアはにやりとして縦笛を取り出した。踊るような足取りで陽気なメロディをかなでると、きれいに一回転して両手を広げた。
 満身創痍、あと一撃で死ぬような状態で見せる、なんとも命知らずな満面の笑み。カラ元気のはずだが、振り上げた顎、力強く広げた指の先にいたるまで、覚悟を決めたような凄みがあった。
「ハッスルダ~ンス!」
ギャラリーから派手な声援があがった。色とりどりの紙吹雪がはでな照明のなかに舞い踊る幻を、はっきりとグレイグは見た。
「お前というやつは……」
 さあ、とシルビアが言った。
「ようやくマホトーン解除よっ。みんなガンガンいきましょーっ」
「イレブンや、せっかくじゃから、グランドネビュラを試してみるとするかの」
「ぼくは準備できてます!」
孫に負けずに闘志満々のロウが身体にぐっと力をこめた。
「大師さまーっ、見てますかーっ」
憧れだと言う美人師匠のために、ロウは華々しい十字をぶちあげた。

 フールフールはかっと目を見開いて天を仰ぎ、身を震わせた。
「ウ、ウソだァ!このワタシが負けるなんて……!グアアアア……っ!」
 シルビアは片手の羽扇を持ったまま勢いよく腕を組み、胸を反らせた。
「……他人のモノを欲しがるゲス野郎にはお似合いの末路よ」
ばさりと扇をさげたとき、パーティの後ろからチェロンが飛び出した。
「みんな~っケガないか!ハネのみんなと助けに来ただ!」
岬のほら穴の奥の鉄格子つきの部屋から、捕らわれていた村人たちが、最初おずおずと、それからいそいそと出てきた。
 若い女が膝に手をついて腰をかがめ、チェロンの髪をなでた。
「チェロン、ゆうかんなのね!閉じ込められていただけでみんなケガはないわ。ありがとう!」
チェロンは照れて後頭部をかきながらも、うれしそうに笑った。
 品のいい老女がすすみでた。
「……旅の方。助けてくださってありがとうございます。なんとお礼をしたらいいか……」
 シルビアは彼女の前でたたんだ扇を振った。
「いいってことよん!世界中のみんなを笑顔にすることがアタシの使命だからね!」
“ひとを笑顔にする”と、出会ってからこちら、シルビアは何度そう言っただろう。だがグレイグは、先ほどのフールフール戦を思い返していた。浮かれていたというか、不思議な高揚感にグレイグはずっと包まれていた。
――あれが“笑い”のチカラというものか。
シルビアとナカマたちは解放された村人もそれとなく励ましていた。
 口々に礼を言う村人にパーティが囲まれている間、チェロンはほら穴の地べたに膝をついてさかんに何かを探していた。そこは、フールフールがプチャラオ村からかき集めた大事なモノが積み上げられている場所だった。
「あった!!」
チェロンが見つけたのは、美しい浅葱色の数珠を連ね、中央に紫の貴石を飾った首飾りだった。
「母ちゃんのペンダント!!…………あっ」
ペンダントトップは、半分砕けていた。
「そんな……母ちゃんのペンダント……壊れちまってる。これじゃあ父ちゃん、すごく悲しむだ……」

 その日のうちに一行はプチャラオ村へ戻ってきた。行きと違って帰りは女性や高齢者が多く混じっているので、ゆっくりした道行だった。帰りつくころには、とっぷりと日が暮れていた。
 捕まっていた家族が戻ってくると村の雰囲気は一変した。手を取り合って泣き笑いをする夫婦、ものも言えずにただ互いを抱きしめる親子等々、感動の再会だった。
 しばらくすると、どこかほっとしたような、なごやかな雰囲気に村は包まれた。魔王の手下はもういない。ありふれた日常のありがたみを噛みしめて人々はくつろいでいた。
 だが、村の中で一軒だけ例外があった。バハトラ家だった。
家の前では、グレイグたちが見守る中、チェロン一人、しょんぼりしていた。
「ペンダント壊れちまってたし、父ちゃんすんげえ怒るだろな……」
「大丈夫よ!」
とシルビアが明るく声をかけた。
「さ、行ってらっしゃい!アタシもここで待ってるわ」
「……うん、ありがとうだ。オラ、こええけど父ちゃんに会ってくるだ」
 チェロンは家の扉に手をかけ、そっと開いた。
 バハトラは家に居た。木のテーブルの上には封をした酒の甕が置いてあった。だがバハトラは酒に手を付けず、両手をテーブルに置いて座ったまま、宙を見つめていた。扉の開く音がした。バハトラは扉の方を見て、椅子から立ち上がった。
 チェロンは数歩近寄った。
「……父ちゃん、いま帰っただ」
チェロンはバハトラに歩み寄ると手の中のものを見せた。
「ごめん、父ちゃんがいちばん大切にしてた母ちゃんのペンダント、壊れちゃっただ……」
バハトラがうめいた。
「ペンダント、だと……?」
バハトラは呆然としていた。が、すぐに拳を握りしめた。
「この……バカたれがぁ!!!」
ぶたれる!そう思ったのかチェロンは身をすくめた。げんこつは、落ちてこなかった。チェロンは不思議そうに目を開け、驚いた顔になった。
 バハトラは涙ぐんでいた。
「どんだけ……」
力なくつぶやいてバハトラはチェロンの前にぺたんとすわりこんだ。一人息子の肩に両手をかけてバハトラは言葉を絞り出した。
「どんだけ心配したと思ってただ!おめえの命より大切なモノなんてねえべ!」
男泣きの顔を隠すように、バハトラはチェロンを抱きしめ、顔を小さな肩に押し付けた。
「……だけど父ちゃん、母ちゃんのペンダントがいちばん大切だって」
チェロンの疑問をバハトラは遮った。
「そんなのウソに決まってる」
チェロンはびくっとした。バハトラは顔を起こし、真正面から目を合わせた。
「あの魔物に質問されたとき悪い予感がしてとっさにウソをついただ。……おめえを守るために」
「ホント……?」
チェロンは複雑な顔をしていた。嬉しいのと、申し訳ないのと、泣きたいのと、笑いたいのと、そんな感情がまじりあっていた。
「父ちゃんオラのことなんてどうでもいいのかと、すっかりカン違いしてた。心配かけてホントにごめん」
言葉の最後は、あふれてきた涙にまぎれてしまった。バハトラはうなずき、自分に似た髪をやさしく撫でてやった。

 上から見るプチャラオ村は提灯の赤い灯に飾られて美しかった。どこの家でも、炊事の煙があがっている。久々の一家団欒をどの家も楽しんでいるのだろう。ミシェルはそう思い、満足感の中に少しだけ寂しさも味わっていた。
「どうしてるかな。パパとママ、妹も……」
 石段を踏んで誰か上がってきた。
「オネエさま?」
華やかな背負い羽根が心なしか下を向いているように見える。シルビアはせつない表情だった。
「まさかチェロンちゃんは……」
シルビアはちょっと笑った。
「あの子は大丈夫。バハトラちゃんと仲直りしたわ」
「よかった!」
心からミシェルはそう言った。
 シルビアは、プワチャット王国の遺跡を見下ろす崖に立って、風に吹かれていた。
「バハトラちゃんたら、フールフールから大事なものは何だと聞かれたとき、まずいと思ってわざとペンダントだと答えたんですって。チェロンちゃんを守ろうとしたのよ。それをチェロンちゃんが誤解したもんだから……。でもお互いに話をして、誤解を解いたみたいよ。チェロンちゃんのほうからお父さんに聞いてみればよかったのね。一番大事なのは何かって」
日頃のシルビアにも似合わずポツポツと話すようすに、ミシェルは心当たりがあった。
「オネエさまったら、御自分にあてて考えてるんでしょ?オネエさまがチェロンちゃんで、それでバハトラちゃんは」
シルビアは片手をほほにあてた。
「やーねぇ。ミシェルちゃん、なんでもわかっちゃうんだから」
「オネエさま、御家族のこととなると正直なんですもん」
はぁ、とシルビアはため息をついた。
「“そんなのウソに決まってる”ですって。あんな風に理想的にいきゃしないってわかってるのに、ちょっと夢見ちゃったの。アタシもパパに受け入れてもらえるかしらって」
シルビアは、岩のひとつに浅く腰掛け、片手で片方の膝を引き寄せた。膝がしらに額を寄せてつぶやくシルビアは、まるで叱られた子供のように見えた。
「オネエさま」
 本人はアタシと言い、ミシェルはオネエさまと呼んでいるが、シルビアは大の男で身長もあれば筋肉もある。だが、母を早くに失い父の愛情を渇仰するその姿はひどくいじらしく、ミシェルは抱きしめてあげたくなった。
「オネエさま、何か考えてるのね」
シルビアは顔を上げた。
「わかる?」
「アタシはオネエさまのことなら何でもわかっちゃうし、いつでも味方よ?話してみて?」
ややためらってから、シルビアは口を開いた。
「アタシ……、最初から決めてたの。もう一度イレブンちゃんに会えたら、パレードをやめようって」
ミシェルは思わず息を呑んだ。
「まさか、解散しちゃうの?」
静かにシルビアがうなずくのを、呆然とミシェルは見ていた。
「あんなに楽しくやってきたのに……ジャンとエミールと、それからパオロも、ううん、帰る場所のない子がたくさんいるのに」
「そうよね。だからみんなには、ソルティコでアタシのこと、待っててもらおうと思うの」
一言ずつはっきりとシルビアはそう言った。ミシェルはその意味を悟ってゾクゾクした。
「まさか、オネエさま、お館さまにパレードを預けるつもり?」
「いけないかしら。世界で一番頼りになるところよ?」
「それはわかってますけど、それじゃ」
シルビアはうなずいた。
「アタシが行って、直接パパに頭を下げて、頼んでみる」
 ミシェルの気持ちは引き裂かれそうになっていた。シルビアの決意を尊重してあげたい、でも、パレードがなくなるのは耐えられなかった。
「無理です、ムリムリ」
ミシェルは思わずシルビアに詰め寄った。
「オネエさま、グレイグさんにだって正体ばらせないでしょ?生まれ変わって自由になったんでしょ?」
「そうよ、生まれ変わったつもりだったわ。でも、心の底でモヤモヤしてる何かがあるのもわかってた」
シルビアは、昔よくしてくれたように、そっと髪をなでてくれた。
「それとね、グレイグに正体を言わなかったのは、過去を切り離したかったからじゃないの。グレイグには、昔のアタシを昔のまま覚えていて欲しかったからなの」
「どうして?」
「どうしてかしらねえ。あの頃は世界がキラキラしてたわ。青春ってやつ?」
照れたような顔でシルビアは笑った。
「ベタなこと言っちゃったわ。でも思い出が大切すぎて、壊したくなかったの」
その思い出の一部を、ミシェルは共有している。白い壁と青い海の、光り輝くような南国のリゾート都市、いつも笑っていた少年たち、腕を磨き、競い合う騎士見習いの若者たち。
「けど、もう、こだわってるわけにはいかないの。パパに会いに行くわ。受け入れてもらえるかも、いいえ、受け入れてもらえなくても、頼み込むわ。話し合わなくちゃ、伝わらないでしょ?」
「でも、パレードを捨ててまで行くなんて……そうまでする値打ちがあるのっ?」
やさしく、しかしきっぱりと、シルビアは言いきった。
「あるの。イレブンちゃんですもの」
 風に乗ってプチャラオ村の石段を、誰かが上がってくる足音が聞こえた。さっと座っていた岩から立ち上がり、シルビアは眼下に視線を走らせた。
 ミシェルが手すりをつかんで下の方をのぞきこむと、体格のいい剣士と華やかな衣装の少年がやってくるのが見えた。ちょうど話していた当の本人だった。
「イレブンちゃん……ああ、やっぱりそうよ。パレードを始めてからこっち、アタシの騎士道を忘れてたんだわ」
石段の下のようすをうかがっていたシルビアが大きなため息を吐いて振り向いた。
「ねえ、ミシェルちゃん、アタシ、イレブンちゃんにひとつ聞いてみたいことがあるの。答えによっては」
シルビアは長いまつ毛の大きな目を一度伏せて、また開いた。
「明日にでもイレブンちゃんについて行くわ」
まっすぐなまなざしの前に、ミシェルはほとんど言葉を失った。