炎のサントハイム 10.私は覚えておこう

私は覚えておこう

 デイルは、デスパレスにルーラをした。
…だが、致命傷を負っていたデイルの体は、サントハイム近くの森で失速した。
ガラガラと天井を突き破り、落ちたところは廃墟となった教会だった。
目はすでにかすんでいる。周りの風景も見えない。徐々に薄れていく血液。…だが、その中で炎を見た。
黒き炎を纏う銀の魔王が、デイルの目の前にいた。
「…ピ、ピサロ様…戻って、いら、しゃったの、ですね…」
デイルには周りが見えなかった。…だから、ここがデスパレスの玉座だと信じて疑わなかった。
「わたく、したちは…ずっと待っておりました…こうし、てここに帰っていらっしゃった、以上… 魔族は、安泰です…」
ピサロは何も言わなかった。傷ついた魔族の姿を、ただ上から見下ろしていた。
「ああ、もうし、わけありません…サントハイムの、侵略に、失敗してしまいました… お役に立てず、申し訳、ありません…」
ピサロは静かに口を開いた。自分の帰りを待っている一人のエルフの娘の顔を、浮かべながら。
「いや…お前は私のために、ここで潰えた。…私は覚えておこう。安心して死ぬがいい。」
そう言って、ピサロはデイルの体に手を向ける。
「ああ…もったいない、お言葉でございます…ピサロ様…」
ピサロの手から魔力の黒き炎が発せられる。
「…ピサロ様の、ご武運…お祈り…もうし・・・」
そうして、デイルは黒き炎に骨も残さず焼かれた。それを見届け…ピサロはエルフの里に戻るため、ルーラを唱えた。