オウム返しの使い魔 6.使い魔誕生

 エルヘブンの四人の女長老たちは、常日頃頭巾を目深にかぶってその素顔をほとんど人に見せない。その彼女たちが一斉に、かっとまなこを見開いたように見えた。
「使い魔の技法が……もう、ないですと?」
 パパスとエリオスは、しおしおと頭を垂れた。
「余が使い魔の技法書を開封した時に技法書そのものが消えてしまったのだ。ただ、技法そのものは余が習得したぞ」
 女長老たちは、わなわなと身を震わせ、口もきけないようすだった。
 四長老の前には大巫女の略装をまとったマーサがいた。エリオスは彼女に微笑みかけた。
「巫女姫、そして刀自さま方、貴重な手がかりを我らに下し置かれたにもかかわらず、使い魔の技法書を持ち帰れなかったことは、余としても慙愧に耐えぬ」
 芝居がかった身振りで手を差し伸べ、朗々と語るようすは明らかに自己陶酔だった。
「せめてもの償いに、この身のかぎりを尽くしてマーサ殿のために使い魔を造りたい。この申し出、受けていただけぬだろうか」
 憤懣やるかたないという口調で、長老キャリダスが答えた。
「当たり前です!新たな大巫女のための使い魔を育てるべく、技法書を求めたのですからね。協力していただきますぞ?!」
 おおっ、とエリオスはオーバーアクション気味に振り返った。
「賢明なる長老よ、その寛大なる御心を、このラインハットのエリオス、心から賞賛いたしますぞ」
 サンチョは軽く咳払いをした。
「完全に自分に酔っておられますなあ」
 サンチョはあきれ顔だった。
「しかも、なぜか長老さまがあのお方を許したことになってはいませんか?」
 パパスも咳払いをした。
「まあ、丸く収まるならそれでいいとするか」
 ふふふふ、と軽やかな笑い声がした。エルヘブンの大巫女、マーサだった。
「あら、ごめんなさい。私ったら」
 職名こそ重々しいが、マーサはうら若い乙女であり、もともと活発で明るい性格だった。
「麗しの巫女姫!その笑顔は世界の闇を祓うことだろう。なんと清らかにして愛らしい」
 調子に乗るエリオスに手招きして、ふわりとマーサは席を立った。
「使い魔の技法を見せていただきますわ。どうぞ、こちらへ」
「地の果てまでも、喜んで」
 彼らがいるのはエルヘブンの頂上にある四人の長老の部屋だった。部屋の奥にある小さな扉を開くと、ガラスのドーム天井を持つ円形の部屋があった。明かり取りは天井のみで窓はなく、エルヘブンらしい神聖さの漂う厳粛な空間だった。周囲の壁には棚がぐるりと作りつけられ、箱や瓶に詰めたさまざまな素材が整然と並んでいた。中央には、丸い天板のある一本足のテーブルがあった。
「材料はここにあるものでそろいますか?」
 うむ、とエリオスは興味津々と丸い部屋を眺めまわした。
「これと、これ。あとは、ああ、これだ」
 エリオスは両手に素材をいくつか抱えた。
「長老方、何か丈夫な壺はないだろうか?」
 四長老は顔を見合わせ、何かつぶやきあった。一人が空中に向かって声をかけた。
「アニマ、空いている壺を持ってきておくれ」
 はい、と子供のような高い声が答えた。と同時に、目の前の空気が流れ、色づき、かたまり、あっというまに品のいい童子の姿になった。童子は胸に薄紅色の壺を抱えていた。
「マーサ殿へさしあげておくれ」
 アニマというらしい童子は、言われた通り壺を捧げた。
「ありがとう、良い子ね、アニマ」
 マーサはツボを受け取ると、童子はふっと消えた。
「アニマはキャリダスさまの使い魔なのです」
 エリオスは目を見張った。
「なんと!神出鬼没の召使か。思ったとおり役に立つのだな」
 こほん、とキャリダスが咳払いをした。
「百年ほど注意深く育てれば、このようになりますがな」
 驚いてパパスがつぶやいた。
「百年とは」
 ふ、とつぶやいて、キャリダスは胸を張った。
「この使い魔の真の名は別にあります。が、わしは『アニマ』と呼んでおります。“使い魔”という意味ですが、古い言葉で、風、心、息吹、命などの意味をあわせ持つ言葉でしての」
 人工使い魔、という意味がパパスにも少しわかってきた。
「真の名は?」
「それは、言えません」
と言ったのはマーサだった。
「人工使い魔は、原則として名付け親の命令しか受け付けません。けれど名付け親以外の者が真の名を呼んで命じたら、簡単な命令に限って使い魔はいうことをききます」
「他人が使い魔を使役することができてしまうので?」
とサンチョが言った。
「おそらくそうなるの。ただし、使い魔が嫌がるような、例えば再度壺へ入って封印を受けよ、などという命令は、名付け親以外の他人には、たとえ真の名前を知っていてもムリじゃろう」
と長老は答えた。
「再封印されることもあるのか?」
とパパスは聞いてみた。
「聞き分けのないやんちゃな使い魔を懲らしめるために、まれに壺へ閉じ込めることがあっての」
 長老は咳払いをした。
「このエルヘブンでは、そもそも持ち主=名付け親以外の者が使い魔を従わせようとした例はあまりないのじゃ。そもそも使い魔は、ゆめおろそかに育ててはならぬ。犬を飼うように、場合によっては我が子を育てるように、慈しみかつ厳しく育てなくてはなりませぬ」
 マーサがはにかんだ。
「私も、今日生まれる使い魔をずっと育てることになります。長老さまのアニマのように立派な使い魔になるとよいのですが」
「巫女姫、あなたは使い魔にどんな名を授けるおつもりか?」
 エリオスが言った。サンチョがとがめた。
「エリオスさま!それを聞いたらダメだと言われたばかりでしょうに」
「聞いてみただけだ、うるさい奴め」
 ころころとマーサが笑った。
「本当のことを言うと、思いつかないのです、私」
「それはよろしくない。余が使い魔を造り上げたら、すぐに名づけをしなくてはならぬ。名前を付けて完成なのだが」
「困りましたわ」
 白魚の指でほほを抑え、マーサは小首をかしげた。
「おお、愛らしいなあ。おい、殿、何か名前の案はないか」
 いきなり言われてパパスは面食らった。
「名前だと?ううむ、いきなり言われても出てこんな」
「余には腹案があるぞ?なにせ、余の妃が今身ごもっておるのだ、男女両方の名を考えてある」
 そのときどういうわけか、パパスはむっとした。
「私だって、そのくらいは」
 さりげなくマーサが二人の間に割って入った。
「どんなお名前かしら。ここに書いてくださいまし。そこから一つ選んで名付けに使わせていただきますわ」
 そう言って、石板を差し出した。パパスとエリオスはチョークでそこにいくつか名前を書きこんだ。
「これで準備はできましたわ」
 マーサはうれしそうにエリオスを見返った。
「お願いします」
「おまかせあれ!」
 自信満々にそう言い、エリオスは、円形の部屋の中央にある小さな丸テーブルの天板に複雑な模様を描き始めた。どうやら魔法陣らしく、できあがるとその模様の中央に薄紅色の壺を置いた。洋梨のような胴の、形のよい壺だった。
 エリオスは自分が集めた素材を壺へ入れ始めた。棚にあった小さな秤で金色にかがやく砂を計り、壺へさらさらと落としこんで、エリオスは何かブツブツと唱えていた。
「パパスさま、あれはなんでしょうかね?」
「見当もつかん」
 パパス主従はつぶやいたが、長老たちとマーサにはわかるらしく、じっとエリオスのすることを眺めている。素材一種ごとに異なる呪文をつぶやき、慎重に投与を繰り返した。
 ついに素材の投与が終わった。エリオスは素材も秤も棚へ戻し、壺だけが丸テーブルの中央に残った。両手を壺の口にあてがい、エリオスはじっとしていた。
 パパスは声をかけようとしてためらった。いつも軽々しい態度を取り、芝居がかっているエリオスの顔に、汗が浮いている。その表情は真剣だった。マーサも四長老も固唾を飲んでそのようすを見守っていた。
「全知全能なる神よ……」
 途中から呪文の言葉はパパスにとって聞きなれない異国の古代語になった。
 詠唱が終わった。そっとエリオスは壺の口を封じていた手を持ちあげた。手のひらには壺の縁がくっきりと痕をのこしていた。
「アニマ!」
と長老キャリダスが、自分の使い魔を呼んだ。
「天井の光をふさいでおくれ。そして灯を」
 まるで黒い布で天井のガラスを覆ったかのように、部屋が暗くなった。そして中空にぽっと光が灯った。
「パ、パパスさま」
「しっ」
 パパス主従が見ている前で、壺の口からほの白い湯気のようなものがわきあがった。
 ただし湯気と異なって上へのぼっていくわけではなく、壺の口のまわりを漂った。
「パパス殿、御家中、部屋を出ますぞ」
 いきなり言われてパパスたちは驚いた。長老たちは有無を言わせずにパパスとサンチョを部屋から押し出し、自分たちも出て来た。魔法のアトリエには、マーサとエリオスだけが残った。
「これから、使い魔の名づけを行うのです。その名は、マーサ殿が使い魔を操るために必要なもの。余人に知られてはならないのです」
 サンチョはややむっとした顔だった。
「それは先ほどうかがいましたが、でも、エリオスさまはよろしいんですか?」
「製作者ですから、仕方ありません」
 そう答えた瞬間、部屋の中から、風の吹き荒れるような音が響いた。パパスたちはぎょっとしたが、ほとんどすぐに作業室の扉が開いた。
「長老方、成功したようです」
 扉を開けたのはエリオスだった。部屋を出て大きく扉を開いた。はにかみながら、大巫女マーサが現れた。
「長老さま、この子です」
 そう言って、両手を前に差し出した。パパスたちは目を凝らした。さきほどの湯気、というより白い気体がマーサの手の上に漂っていた。
「おうおう」
 長老たちは目を細めた。
「生まれたばかりのアニマ(使い魔)を見たのは、久方ぶりじゃ」
「賢こそうじゃの」
「人なつこい性質じゃと育てやすいのじゃが」
 ふふん、とエリオスが小鼻から息をふきだした。
「はじめてにしては、うまくいっただろう?」
 パパスは落ち着いていた。
「おめでとう、殿下」
 サンチョは肩をすくめた。
「正直、大失敗という落ちかと思っていましたよ」
「失礼な男だな。マーサ殿に近寄ることを許す。よく見せていただけ」
「なんでエリオスさまが許しを出してるんです?」
とは言ったが、サンチョはおそるおそるマーサに近寄った。
「サンチョさん、ご覧ください」
 サンチョはぐっと顔を近づけた。
「どれどれ?」
 その時だった。マーサの、乙女らしい高い声が、つぶやいた。
「ドレドレ?」
 四長老が色めき立った。
「聞きましたか。生まれたてのアニマがしゃべりましたよ」
「マーサの声をまねたようじゃ」
「賢い、賢い」
 パパスはそのようすを見ていた。
「今のは、いったい?」
 うふふ、とマーサが微笑んだ。
「人工使い魔は、本来オウム返ししかできないのです。この子が生まれてはじめて聞いたのは名付けをする私の声でしたから、私の声を使ってしゃべるのでしょう」
「マーサさま、こやつは私の言ったことをそのまま繰り返していたようですが」
「アニマはそうやって語彙を増やしていくのですわ。長老さまの百歳のアニマは、たくさんの語彙をいろいろな人の声で話します」
「育て方ひとつじゃ」
と長老キャリダスが言った。
 またアニマがしゃべった。
「ヒトツジャ」
 今度はエリオスの声だった。
「殿下の声も覚えているのか」
「余はこんな声か?なんだか聞きなれぬぞ」
「いやいや、エリオスさまのお声にそっくりですぞ?」
 長老アネイタムは、相好を崩した。
「それにしてもめでたい。そうじゃ、下界に人を出して、ルラムーン草を取り寄せましょうかの」
「気の早いこと」
 他の長老たちがくすくす笑った。
「ルラムーン草はアニマに食べさせるのです。一定量を食べると、この半透明の姿の他に、別の姿を持てるようになります。それも、身の回りにいる生き物の姿を見て、まねるのです」
「うちのアニマは最初、猫であったよ」
と満足そうにキャリダスは言った。
「よく姿が見えず、しかも仮の呼び名が同じ『アニマ』とは、こんがらがりそうですな」
とサンチョがつぶやいた。
 そうですわね、と無邪気にマーサはつぶやいた。
「長老さま、今日生まれたアニマは、『小アニマ』と呼ぶことにしましょう」
「ではそういうことにしようかね」
 マーサは手の上の白い気体を眺めた。
「ルラムーン草を手に入れたら、この姿も変わるでしょう。私は小鳥がいいわ。『小アニマ』、楽しみね」
うら若い巫女の笑顔は持って生まれた明るさに慈愛の彩りを加え、まるで輝くようだった。その横顔を、パパスはあきもせずいつまでも眺めていた。

 暗い壺の中で生まれた使い魔は存在しない目を見開いて外界を眺めていた。
 その使い魔、「小アニマ」は、生まれてからひと月もたっていなかった。その間に小アニマの環境はめまぐるしく変わった。
 最初は壺の中、それから大巫女マーサの私室。そして、マーサが公務でエルヘブンの町中へ出る時は、彼女の周りにまとわりついて同行した。
 とはいっても、まだルラムーン草の量が足りず、何かの形をとることはできなかった。半透明のガス状の生き物、それが小アニマだった。
 小アニマは、主にマーサの声で、エルヘブンの人々の言ったことを繰り返して日々を過ごした。少女のような年齢のマーサは、それを聞いてコロコロと笑ってくれた。
 やがて、小アニマが誰にも気づかれないままマーサと共にいることに四長老も、エルヘブンの民も慣れてしまった。使い魔とはそういうものなのだ。
 だから小アニマは、マーサが公務以外で部屋を出てエルヘブンでただひとつの宿屋へ走って行った時も、いっしょにいた。
「私と生きてくださいますか」
「どうか、共にグランバニアへ」
 若い恋人同士がそう誓い合ったとき、小アニマはこっそりそこにいた。
 小アニマは、目を見開いた。今いるのは海の上だった。大きな帆船は主帆にたっぷりと風をはらみ、一路グランバニアの港へ向かっていた。
「なんて広い……。私はなんてちっぽけなのでしょう」
 マーサがつぶやいた。
(ワタシハ・ナンテ・チッポケ・ナノデショウ)
 自分の語彙に加えるために、小アニマはその声を記憶した。
 はははっと明るい笑い声がした。エリオスが甲板の上を歩いてくるのだった。
「船酔いはありませぬか、姫君?」
 マーサは明るい笑顔を向けた。
「はい、おかげさまで!エリオスさまはいかがですか?」
「どうやら船には強い性質らしく、別条ありません。が、サンチョのヤツ、だいぶまいっているらしい。船室でげぇげぇと、おっと、これは失礼」
「サンチョさん、お気の毒に」
 こほんとエリオスは咳払いをした。
「今、殿がサンチョを見舞っています。もう少しで上がってくるでしょう」
 エリオスはにやりとした。
「美しいそのお顔が、パパス殿のことを考える時に一段と愛らしくなられる」
 マーサは手でほほをおさえた。
「あら、私、ごめんなさい」
「何も謝ることなどない。ですが後学のため、ひとつ教えていただけませぬか。グランバニアのパパス殿の、どのあたりが姫のお眼鏡にかなったので?」
 ぽっとマーサが赤くなった。
「エルヘブンのような田舎でずっと育ったものですから、あのような殿方を見たのは初めてだったのです」
「あのような、と言われると?」
 マーサは、てのひらで左右のほほを包んではじらった。
「ブロンズの肌と黒髪の男の方には、初めて会いました。それにあの不思議な瞳……。あの人にじっと見つめられると、不思議な気持ちになるのです。この人なら私を受け入れてくれる、なんて、根拠はないのですけど」
「余に言わせれば、マーサ殿の方がよほど不思議な瞳をしておられるのだが」
 そのつぶやきは、波の音に紛れてマーサの耳には届かなかった。
「気が付いたら、あの方は男らしく手が大きくて、背中も広いのです。とても強くて、それなのに少しはにかみ屋で、優しくて。あの方を見ていると心が暖かくなりますの」
「つまり守ってほしいとお思いになったわけで」
「少し、違います。あの方がもし、私をかえりみてくださらないとしても、私は全力であの方をお守りしたい、できることは何でもしてさしあげたい、そう思いました」
 エリオスは肩をすくめた。
「またなんともごちそうさまだ、なあ、殿?」
 いつのまにか、パパスが甲板へ上がってきていたのだった。
 顔を赤くして、ぎくしゃくとパパスは寄ってきた。
「すまん、盗み聞きをするつもりではなかったのだが」
「それにしてはしっかり聞いていたようだが?おお、そうだ、サンチョの具合が悪いのだったな。余が水でも持っていってやるとしよう。お二方はゆるりとされるがよい」
 ひどくうれしそうにエリオスは行ってしまった。
「マーサ殿」
 エリオスにつられて告白めいたことを言わされ、ほほを薔薇色に染めていたが、マーサは持ち前の潔さで吹っ切った。マーサは微笑んだ。
「マーサ、と呼んでくださいまし」
 もともと剛毅快活なパパスには珍しく赤くなり、ためらい、咳払いをくりかえし、やっとパパスは言った。
「マ、マー……サ」
 嬉しそうに目を細め、マーサは答えた。
「はい」
「ううっ」
 マーサは、甲板に人が少ないのをいいことにパパスに寄り添った。不器用な手がきゃしゃな肩をおそるおそる抱きよせた。
「これほどの幸せがあっていいものだろうか」
 マーサは嬉しそうにパパスの胸にほほを押し付けた。
 甲板の別の隅では、寝込んでいるはずのサンチョが、見舞いに行ったはずのエリオスと一緒にそのようすを眺めていた。
「そこだっ、押し倒せっ」
「何を言ってるんです、エリオスさま。これからグランバニアへ戻って、そこでお二人が晴れて祝言をあげてからですぞ」
「恋の賞味期限はあっというまに過ぎ去るのだ。盛り上がった時を逃す手はないぞ。余はいつもそうしてきた」
「いつも、って、まったく。そうやって熱心に女漁りに励むなんぞ、私だったら身がもちませんよ」
「蝶は花から花へと渡りあるくものだぞ」
「花と言ったってどのご婦人にも父上兄上がいるでしょうに。渡り歩くと言いますが、大切なお嬢さん方を袖にされたら、表面はともかく、内心はむかつくでしょうなあ。振られたご婦人の恨みもあるでしょう。身の危険は感じませんか?」
 フン、とエリオスは鼻から息を吐きだした。
「そんなものが怖くて、宮廷で生きていられるか」
「あいにくとグランバニアの宮廷は清く正しいのですっ」
「しっ、声を落とせ!」
 その船旅が終わるまでに、小アニマはパパスとマーサ、そしてエリオス、サンチョの声をすっかり覚えてしまった。