絶体絶命こんぼうの舞い

DQ版深夜の真剣文字書き60分一本勝負(第六回) by tonnbo_trumpet

 とあるダンジョンの深い階層で、お互いにじっとにらみ合う者たちがいた。
 その場所は、階段のある大きめの部屋と短い通路でつながった小さな部屋があるところだった。通路を通してその小さな部屋には宝箱があるのが見える。小部屋の中央にしつらえられた祭壇の上に宝箱が大事そうに安置されているのだった。
 問題は、祭壇部屋へ向かう通路を、とあるモンスターがふさいでいることだった。
「他の奴ならなんとかするが」
この深さまで並みいるモンスターを退けて潜ってきたトレジャーハンターがつぶやいた。彼らはたいていの敵には慣れているし、ひるみもしない。
「相手が悪いや」
もう一人がつぶやいた。トレジャーハンターたちがうなずいた。
 爆弾岩である。ふだんは青みがかった灰色をしたいびつな球状の岩で、目と口がついていた。
「爆弾岩のHPは70プラマイ2くらい。だが、あいつ、HPを減らしてるぞ」
祭壇部屋の真ん前に居座っている爆弾岩は、濃いめの紫色になっていた。しかも、先ほどから汗をだらだら垂らしているが、その場から身動きしない。
「HPが30を切ると、爆弾岩は動かなくなるからな。そして10を切ったとたんに」
大爆発する。
 ちっと最初の男が舌打ちした。痩身に灰白色の髪と髭のベテランハンターである。
「こいつ、あれじゃないか?さっき階段降りたすぐのとこにいたあれだろ。おまえがさんざん矢を射かけて、あともう一発でとどめってとこで逃げられたやつだ」
二人目の男はそれより若く、がっしりした躰に赤毛を短く刈り込んだ男だった。
「しかたねえだろう。こいつが向かってきた床にワープ罠があったんだ」
爆弾岩はワープ罠に乗っかってしまい、ここへとばされた。それがなんと、お宝部屋の入り口だった。
「ちくしょう……矢も石も使い切っちまった」
「誰か、投げつけられるようなアイテム持ってないか」
トレジャーハンターたちは4~5人でチームを作っていた。が、あいにくダンジョン深部へたどりつく前に、消耗品は使い尽くしていた。
「パンも食っちゃったしなあ。装備品を投げるのは抵抗あるし」
「呪われた剣とか錆びた盾とかないか?」
う~ん、と彼らはうなった。もともとトレジャーハンターとは、物欲の強い人間のなる職業なのだ。結局出てきたのはこんぼう一本。
「一本だけじゃ、投げても爆発するかどうかわからないぞ」
「殴るしかないか」
「くそっ、さっきのフロアに場所替えの杖と一時しのぎの杖を見捨ててきた罰があたったか!」
「しかたねえさ。キラーマシンに追われてたんだ」
はあ、とため息が出た。
「しかたねえ」
と髭が言って、やおら腕まくりをした。
「俺がやる。おまえら、骨は拾ってくれよ」
「おい待てよ!」
赤毛が叫んだ。
「くそっ、おまえばっかりにいいかっこうさせられるかよ」
「よせよせ、強がるな、ヒヨッコ」
「うるせえな、早く隠居しろよ」
また始まったよ、とパーティ仲間は遠巻きに眺めた。
「おーい、どうすんだ?あきらめてリレミ……」
冗談じゃねぇ!がダブルで返ってきた。
「よし、こうしよう。俺がまず殴る。次はおまえがやる。順番で行こう」
「運任せってわけか。よし、乗った」
髭と赤毛はうなずきあった。
 髭は仲間に自分の武器を預けて動かない爆弾岩に近寄った。
「成仏せいや」
ばこっと音がした。みな、息をのんで見守った。が、変化はなかった。
「どきな。俺の番だ」
赤毛がやはり素手で爆弾岩の前に立った。HPが10を切るまで何ポイント残っているかはまさに運任せである。
「悪く思うな」
どすっとパンチを放った。爆弾岩は持ちこたえた。
「これで逝くか?」
また髭が拳をたたきつけた。爆弾岩は粘った。
 パーティの仲間たちがざわめいた。
「次のでお陀仏だろう」
「遠くからこのこんぼうぶつけてみるか」
赤毛がふりむいて首を振った。
「それでもこいつががんばったらどうするんだよ」
「だからって、おまえ」
赤毛は仲間の手からこんぼうをひったくった。
「これでケリつけてやる」
無茶すんな、と髭があわてた。
「黙って見てろ!」
赤毛はこんぼうを手に身構えた。
「くらえ、はやぶさ斬り!」
隼のようにすばやく武器をふるい、一度に二回攻撃するこの技は、通常の3/4のダメージを二回与える。
 スコーン、と小気味のいい音が響いた。ぶるっと爆弾岩が身震いした。
「やべっ」
HP14か、15か。もうぎりぎりに違いない。だが、はやぶさ斬りの二回目をやめる方法はない。髭が目玉を剥いた。その視界いっぱいに赤毛の背が映っている。高々とあげた腕がこんぼうを握り、永遠の一秒をかけて爆弾岩の上にふりおろされた。
「!」
全員が爆発を覚悟した。
 音を立ててこんぼうがダンジョンの床にぶちあたった。赤毛が前のめりにたたらを踏んだ。
 爆弾岩は粉々になっていた。
 赤毛はばくばくする心臓を抱えてその場にへたりこんだ。
 たった今放ったのは、会心の一撃。はやぶさ斬りには、一撃目、二撃目ともに会心判定がある。十数ポイントを一度に削りつくされ、爆発する間もなく爆弾岩は倒れたのだった。