ホメロス戦記・七人の傭兵 5.武器の出どころ

 一行が村長の家まで階段を上がってきたころには、とっぷりと日が暮れていた。
 イレブンとロウは、その前に負傷したテオをロウの自宅兼提灯づくりの作業場へ連れて行って寝かせていた。
「テオ殿、ちょっと狭いが、楽にしていてくれ。あとでかゆなど作るからの。すぐに戻る」
「イレブンをよろしくお願いいたします」
「わかっておるとも」
 そんな会話を聞きながら、イレブンはこれから始まることを考えてドキドキしていた。
 村長の家の入り口は建物の角で朱色の太い柱二本の間にあり、両脇に提灯をつるしてあった。内部はどことなく役場のような雰囲気があり、片方にカウンター、その前に板敷きの広間がある。広間には村の人たちが大勢集まっていた。
「おお、お武家様方!」
 ギサック村長が迎えてくれた。
「昼間のお話は、どのように?」
 村人たちも息を詰めてホメロスの結論を待っているようだった。
 グレイグとホメロスは村長に促されて村人たちの前に出た。他の傭兵たち、すなわちシルビア、カミュ、マルティナ、そしてロウとイレブンも二人の周りに立った。マルティナについてきたメダ女の制服の少女二人は、入り口近くにいてようすを眺めているようだった。
「結論から言う」
 ホメロスは真顔だった。
「プチャラオ村を守ることは可能だ。ただし」
 わっと沸き立ちそうな人々を、ホメロスは手で鎮めた。
「準備、土木作業、戦闘等において、全面的に諸君の協力が要る」
「ホメロス様でしたな?私らはあれからずっと、ここで話し合っていました」
と村長は言った。
「ほとんどは賛成派で、村を守るために戦いたいと思っています。が、慎重派もいます。慎重派は、具体的にどのように村を守るおつもりなのかを明かしていただきたいと思っているようです」
「計画を聞いて、無理だと思ったら逃げる。そういうことか?」
 ギサック村長も真顔だった。
「そうです。だからこそ、ここで教えていただければ、つまり」
 ふるいにかけられるんだ、とイレブンは気付いた。慎重派が村から逃げた後は、あるていど戦意の高い村人だけが残る。
 ホメロスは頷いた。
「よかろう。戦いが始まってからこんなはずじゃなかったと言われるよりはよほどましだ。村長、村の地図はないか?」
「ほんの略図ていどのものしかないのですが」
 ひょいとシルビアが手を差し出した。
「これ使って?」
 手品のように差し出したのは、大きな紙を丸めたものだった。
「アタシたちの一座は興行先が決まると必ず下調べをするの。主に、サーカステントをどこに張るかを決めるためにね。調査したのはアタシのナカマたち。あの子たちは熟練してるし、信じてくれていいわ」
 ホメロスは地図を受け取り、村長の家のテーブルに広げた。
 イレブンは近寄ってのぞき見た。紙は細長く、その幅いっぱいにプチャラオ村の地図は描かれていた。大小いくつかの広場の大きさ、それらをつなぐ階段の幅までが几帳面に書き込まれていた。
「悪くない」
とホメロスはつぶやき、懐から乗馬用のムチを取り出した。
「この村の出入り口はここしかない」
 ムチの先端は、プチャラオ村の入り口を指していた。
「あとはすべて岩山に囲まれていて、よじ登るのはほとんど不可能だ。我々は、敵を村へ誘い込む」
「村の外で戦うんじゃないんか!」
 村人の一人が声を上げた。ホメロスは淡々と説明した。
「プワチャット平原で戦うのは分が悪すぎる。広い平地では、敵は数を頼みに我々を四方八方から取り囲んで一斉に攻撃することができてしまう。ふくろだたきだ」
 村人たちはごくりと唾をのんだ。
「じゃ、じゃあ、村へ入れてどうするだ」
 再びムチが地図を指した。
「この村の形を見てくれ。一番下の大きめの広場から上は基本的に一本道だ。昼間来たベンガルやごろつきなら、狭い階段に二人並んで立てればいいほうだ」
「それじゃあ、おらたづも、二人並んで戦えばいいだか?」
 ホメロスは親指でグレイグを指した。
「無理だ。モンスターと正面切って一対一で近接戦闘できるのは、そこのデカブツくらいのものだ」
「でも、村にモンスターを入れて、しかも戦わないなんて」
 ホメロスは村人をさえぎった。
「戦わないとは言っていない。敵を一本道に誘導し、細長い二列縦隊の隊形を強いる。そこで敵の数をできるだけ減らしながら、防衛側は戦いつつ後退する。つまり、村の上のほうへ登っていく」
 ホメロスのムチは地図に描かれた階段に沿って動いていった。
「登り切ってからは下りになる。一番下の平地へたどり着いたら、伏兵が一斉に立ち上がって敵を包囲し、押し包んで討ちとる。こちらがふくろだたきにするのだ」
 地図に見入っていたギサック村長が顔を上げた。
「あの、岩山と遺跡に囲まれた平地ですか?あそこは、農地ですよ!?」
「そうだな。だから、防衛戦の準備と並行して作物の収穫を行い、安全な場所へ格納する」
 ギサックは、ほっとした顔になった。
「なるほど、忙しくなりますね。でも作物さえ無事なら、なんとかなります」
「問題は、どうやって敵の数を減らすかだ。方法はいくつか考えたが、まず距離を取って(アウトレンジ)、大量の弓矢で敵を射すくめる(飽和攻撃)。それから」
 ホメロスの説明にあわせてムチが地図の上をあっちこっち動き回る。傍から見ているイレブンにさえ、防衛側の動きが目に見えるようだった。
「……以上だ。簡単なことではない。我々傭兵は七人いるが、それだけの人数では不可能だ。可能にするには、今説明したように、村の諸君の仕事ぶりにかかっている。作物の収穫、村の補強、誘導路づくり、仕掛け、武器の訓練。それをすべて十日でこなす必要がある」
 村人たちはがやがやと話し始めた。やがてギサック村長が結論を出した。
「ホメロス様、収穫なら我々の本業です。ふつう三日四日かけてやることですが、明日一日で終わらせましょう。私が責任者となり、バハトラとリキチが班長をつとめます」
「では、その一日を使って、そうだな」
 ホメロスは地図に視線を落として考え込んだ。
「誘導路を決め、必要な資材を手に入れ、武器を調達して」
「アーラ、一人で全部やる気なの?」
 シルビアだった。
「アタシを副官にするって言ったじゃないの。仕事を分担しましょ」
 そうだったな、とホメロスはつぶやいた。
「では、仕事を全員に割り振る。グレイグはカミュ、ロウ殿といっしょに村を探して武器を調達してくれ。主に槍と弓矢を使うからそのつもりで」
「わかった!」
「シルビア、俺と一緒に敵をどう誘導するかを決めてくれ。イレブンは簡単でいいからこの地図の写しを作ってそこに誘導路を描き入れてくれ。マルティナ嬢、その写しに従って村の資材を接収してくれ。実際には村長を通すから、どこに何があるかを見てきてくれ。木材、土嚢等が必要だ」
 シルビアが、皆を鼓舞するように陽気な声をあげた。
「アタシ、がんばるわ?マルティナちゃんもイレブンちゃんもよろしくね?」
 では、と言いながら村長が立ち上がった。
「貧しい村ですが、ボンサックの宿ならば皆様をお泊めできるでしょう。ご案内しますので、今夜はゆっくりお休みください」

 いとけない少女たちの姿をした過去の亡霊は、ロトゼタシアの古語で話し始めた。それは魔法学に必須の古代言語で、かつてホメロスが生きた世界ですら、完全に習得した者は希だった。
「さまよえる無明の魔神よ」
 ベロニカはホメロスの知る当時のまま、セーニャは当時よりはるかに幼い姿をしている。七つぐらい、身につけているメダル女学院の制服をあてはめるなら、初等部の一年生の姿だった。
 姉妹はかすかに声質の異なる同じ声で、同時に話した。
「こうしてあなたとお会いできる日をお待ちしておりました。私たちは輪廻転生をつかさどる命の大樹の娘。これからは力を尽くしてあなたを導きましょう」
「導くだと?」
 思わずホメロスは同じ魔法言語で答えた。クレイモランでの修行のたまものだった。
「あら、動揺してるの、魔軍司令さま?」
「わたくしたちだけでお話できませんか?」
 間違いなく彼女たちは、自分と同じ、記憶を持った転生者だった。ホメロスはためらった。が、ラムダ姉妹の話は聞いておくべきだと思った。
「いろいろと面倒だ。今の言葉で話すぞ」
 村長宅での説明を終え、一行は宿屋に泊まっている。深夜、ホメロスは二階フロントそばのスペースでメダ女姉妹と落ち合ったときにそう言った。
「それでいいわ」
とベロニカが答えた。幼い少女の華奢な身体、あどけない顔立ちだが、ベロニカの目には老成した叡智があった。
「おまえたちは何をどこまで覚えているのだ?」
 姉妹は声をそろえた。
「私たちが生きた、ふたとおりの人生をすべて」
「記憶を保持したままの転生者にあったのは、初めてだ」
とホメロスは言った。
「ホメロスさまは、何度も転生していらっしゃるのですね」
 小さく首をかしげてセーニャが言った。それは質問ではなく、確認のようだった。
「俺の主観では数百年になる」
そう答えてホメロスは目を閉じた。
「ロトゼタシアに生まれ変わったこともあれば、まったく見知らぬ環境に生まれたこともあった。戦士や貴族、王族だったこともあれば、商人や農夫、奴隷だったこともあった。ひとつ共通しているのは、俺は必ずグレイグに、そして勇者に巡り合うということだ」
 姉妹は顔を見合わせてうなずいた。
「それで?」
「俺とグレイグとは必ず同い年で生まれ、幼なじみとして育つ。人生のどこかの時点で試練を与えられ、そこでかつての人生をなぞるように物事は動く」
 ベロニカはホメロスを見上げた。
「今回もそうだということ?」
「その通り。今回は、気味が悪いほどかつての人生と似ている。俺とグレイグはやはりデルカダールに騎士として仕えていたが、今回は内乱が頻発して早々に国は亡びた。王妃は王女出産直後に母子ともども国を脱出していた。俺たちはデルカダール再建のためにマルティナ王女を探していた、というわけだ」
「マルティナさんは王妃様の親友にかくまわれてメダ女で育ったのよ。あたしたち去年メダ女に入ってすぐにマルティナさんに出会ったわ。それはそうと、今まで勇者とグレイグ以外には、転生者はいなかった?」
「それもさまざまだ。何人か巡り合ったこともある。が、年齢はまちまちだ。マルティナ姫が俺とグレイグより年上だったこともあった」
「めぐり合う……私とお姉さまもですか?」
 ホメロスは記憶をたどった。
「いや、そういえば、ないな」
 どうしてこんなことを話しているのか、自分でもわからない。昔の記憶を少しでも共有している相手を得て、思いを吐き出したいという欲求に動かされているのかもしれなかった。
「俺はかつてすべてを裏切って闇に堕ちた。今、何度も生まれ変わり、そのたびにグレイグと出会い、嫉妬に焼かれる。この転生はきっと俺に与えられた罰なのだろう」
 ホメロスは頭を振った。
「だが、さすがに飽いた。どうすればこの転生が終わるのかわからん」
 とん、と音がした。とたんにホメロスの腕の一部が暖かくなった。セーニャが隣に来て、小さな両手をホメロスの腕にあてていた。
「それは罰などではありません。それは、それは!」
「待って、セーニャ」
 感情が激している妹の肩をベロニカがさすった。
「その話の前に、確認しておきたいわ。ここは本当にロトゼタシアなの?」
「地形はそっくりだが、別物と考えるべきだろうな。なにしろ空に命の大樹がないのだから」
 姉妹は真顔だった。
「この世界にもラムダの里があって、勇者ローシュ、賢者セニカの伝説もある、でも勇者の赤い星はない」
「サマディーもありますけど、星の番人の名はないのです」
「そうか。忘れられた塔はおそらく存在しないのだろう」
とホメロスは続けた。
「考えてみれば、おかしな話だ。この世界、仮にアナザー・ロトゼタシアと呼ぶが、ここには邪神ニズゼルファも魔王ウルノーガもいない。モンスターさえまれだ。ならば平和かというと、人間同士が争いあって本当のロトゼタシアよりも荒廃し、ずっと戦乱が続いている。これが笑わずにいられるか」
 ちょっと待って、とベロニカが言った。
「あたしたち、見ての通りこの世界に生まれてから七年くらいしかたってないの。モンスターがあまりいないっていうのは、本当なのね?世界中どこもそうなの?」
「そうだ。それがどうした?」
 ベロニカは真顔だった。
「あんた、この世界で魔法は使える?」
 ホメロスは眉をひそめた。
「おまえたちは?」
 セーニャはようやく落ち着いたようだった。
「ホイミだけなら、どうにか。でも、ひどく効きが悪いです」
「やはりな」
とホメロスはつぶやき、自分の手を眺めた。
「俺もMPを持っているが、恐ろしく力が制限されている」
「やっぱりね。あたしもよ。前の世界なら苦もなく集められた炎のチカラがここじゃさっぱりなの」
いまいましげな顔でベロニカが言った。
「アナザー・ロトゼタシアの国土は魔力が枯渇しているようだな。命の大樹がないせいかもしれない」
「厄介だわ」
「単に厄介なだけではないぞ」
とホメロスは言った。
「このプチャラオ村の戦いは、ほとんど魔法を使わずに戦わなくてはならないだろう。しかも、命の大樹がないせいか経験値を貯めることもできない。つまり、全員レベル1だ。こんな世界に生まれ変わったのは初めてだ」
「レベルアップしないなんて、どうすればいいんでしょう」
 心もとなげにセーニャがつぶやいた。
「まあ仕方がない。学習による知識や訓練で習得した技術はそのまま自分のものだ。経験値に変換できないだけで」
 ねえ、とベロニカが言った。
「最初にあたしたちが言ったことを覚えてる?あたしたち、あんたを導くために来たの」
 そう、彼女たちはたしかにそう言った。
「聞いてちょうだい。あんたを何度も転生させているのは、たぶんあんた自身だわ」
「俺が?まさか。勇者ではないのか?」
「どうしてそう思うの?」
 ホメロスは説明の言葉に迷った。
「直感としか言いようがない。この世界では勇者こそが脱出用の非常口だ。理由はない。そう感じる」
 姉妹は顔を見合わせた。
「やっぱり勇者が命の大樹の申し子だからかしら。でも、あたしたちの知る限り、勇者はかかわっていないと思う。やっぱり、ホメロス、あんたなんだわ」
「冗談じゃない。誰が好んでつらい人生を何度も何度も」
 待って、とベロニカが手を広げた。
「それよ。そのつらい人生を癒すため」
「馬鹿な!それならなぜ、かつての人生を型通り繰り返すのだ!グレイグとともに育ち、やがて追い抜かれ、ないがしろにされ、妬み、苦しみ……」
 ふいに体側にぬくもりを感じた。セーニャがいて、そっとホメロスの背をさすっていた。少女は、涙目になっていた。
「何百年も、ホメロス様、かわいそうに」
 同情などいらない、とはねのけなかったのは、あまりにも幼い少女だったからだろうか、それともあまりにも率直な言葉に思わぬ温もりを感じたからだろうか。
「正確には繰り返してないわね?環境や出会う人を変えて、いろいろと試行錯誤してるじゃない」
「転生先の環境を俺に選べるはずがない」
 少女たちはそろって首を振った。
「あたしたちは命の大樹の娘だと言ったでしょ。あんた、無意識に自分を癒そうとしてあがいてるんだわ。けど、そのあがきが繰り返された結果、因果がいびつになってきてるの。だからあんたのチカラになるためにあたしたちはこの、ロトゼタシアそっくりの奇妙な世界に生まれたの」
 ホメロスは言い返そうとして、力を抜き、椅子のせもたれに体重を預けて天井を見上げた。
「飽いた。疲れた。力添えなど無用だ。おまえたちに何かできるというなら、際限のない転生をさっさと終わらせて、俺自身を無に帰してくれ」
「だめです、ホメロス様」
 セーニャだった。
「あきらめないでくださいまし!きっと救いはあります」
「悔い改めろというのか。『俺が悪かった、どうか助けてくれ』とでも言わせたいのか、おまえたちは?だとしたら、とんでもないお門違いだぞ」
 ホメロスはつぶやいた。
「何もかも覚悟の上で、国家と親友を裏切った。今さら後悔も反省もない。そんな救いにあずかるくらいなら、いっそすべてを憎みながら無明の咎人として延々と転生してやる」
 言っていることに比して、声には気概も力もこもっていない。ふてくされているだけだと自分でもわかっている。
「それが、俺だ」
 天邪鬼なその宣言は、ただ虚しく宙を漂っていった。

 翌朝グレイグは宿の一室で目を覚ました。村長がうまい飯をたらふく食わせると言っていたのはうそではなかった。このボンサックの宿の若女将がプチャラオ村風の朝飯を食堂にたっぷり用意してくれていた。
 具を入れて炊きこんだ米の飯、タレをかけて焼いた鶏肉、ぴりりと刺激的な瓜の酢漬け、芋やカボチャを入れて煮込み、仕上げに卵でとじた汁物など、グレイグはハフハフ言いながらかきこんだ。
「美味い!生まれ故郷の味とも慣れ親しんだ国の料理とも違うが、俺は気に入った」
 ほっほっとロウが笑い声をあげた。
「それは何よりじゃ、お武家様」
 そう言って、食卓に置かれた小鉢から漬物を一枚、箸でつまみ、口へ入れた。ロウはこの宿の泊りではなく、村にある自分の家にテオとイレブンといっしょに寝起きしているが、朝の早いうちに宿へ来た。若女将がお茶と茶うけでもてなしてくれたのだった。
「俺のことなら、グレイグと呼んでくれ。ロウ殿は箸を上手く使われるのだな」
 茶目っ気たっぷりに片目を閉じて、ロウは答えた。
「子供のころドゥーランダ山で暮らしておっての。そこで覚えたんじゃ。この村の食材や味付けは、お山を思い出すのう」
 ほう、とグレイグは思った。
「ドゥーランダ山といえばドゥルダ流の道場があったはず。ロウ殿はもしや」
 ほっほっほという笑い声が答えだった。
 カミュはその間、ものも言わずに匙を動かし、最後は大きな椀を両手で持って汁の最後の一滴まで飲み干した。
「ふーっ、食った、食った」
「おぬしも気に入ったようじゃな?」
 カミュは満足そうに目を細めた。
「食べたことのない味だが、慣れるとうまいな。モンスターが欲しがるのも無理はねえや」
 いいタイミングで若女将が、丸い盆に茶碗をのせて運んできた。
「悪いな、女将」
「いいえ、もうお食事は皆様だけですから、どうか気楽に」
「そういや、皆は?」
 若女将は微笑んだ。
「村の人は夜明けから刈り取りをやっています。お仲間の皆さんはお食事を済ませて、早々に出かけられました」
「おっと、出遅れたか」
 グレイグはよい香りのする茶碗をとって一口すすった。
「グレイグ殿、確か今日は武器の調達じゃな?」
「ああ。ホメロスは槍と弓矢がいると言っていた。それも村人全員がひとつは持てるだけの量が要るのだ」
 カミュが首を傾げた。
「ここは農村だぞ。武器なんて持ってるやつ、いるのか?」
 言いにくそうにロウが言った。
「ううむ、わしが見た武器持ちはすべて傭兵じゃった」
 そうだろうな、とグレイグは思った。
「ってことは、旅の戦士たちといっしょに武器は全部村外へ持ち出されたんじゃねえか?」
「そういえば、そうだな」
 ホメロスに安請け合いしたことをグレイグは後悔した。
「まあまあ、グレイグ殿。武器が欲しい時、たいていの人が行くところがあるのじゃ。今日はそこへ行ってみては如何」
「どこだ?」
「武器屋じゃよ」