雨と太陽の王国 10.光の玉の所在あわせて貴婦人の雅やかなる疑惑を王子が推理すること

 ルプガナで借りた船に乗って、ロイたちは今、竜王の島へ渡ろうとしていた。
 アレフガルド各地の情況は好転している。あいかわらずハーゴン配下のモンスターはうろついているが、組織だって攻撃するのではなく、散発的に襲ってくるだけになっていた。
 ラルス16世のころからこのていどの危険にはアレフガルドの市民は慣れていた。要はしっかりと町の守りを固めていればいいわけだ。ラダトームに集まった市民は、そろそろ自分の町へ戻る準備を進めている。
 ロイたちはコーネリアス隊長らに見送られてラダトームを後にした。きとう師は縄付きのまま、竜王城地下のダンジョンへ引きずっていくつもりである。
 どういうわけか、きとう師はアムにはなついたようだった。おとなしく言うことをきくので、もっぱらアムに世話を任せている。
「で、光の玉は、結局どこにあるんだ?」
甲板で潮風に吹かれながらロイは聞いた。ロトの剣は、自分の力量さえ確かなら、もうすぐ見つかるはずだったが、光の玉のほうは所在不明である。なんとなく、アムに悪いような気がしていた。
「だからさ。ハーゴンがムーンブルグを襲撃して光の玉を持ってったんだ。ムーンブルグがどこよりも早く襲われたのも、そのあたりが原因かもしれないね」
「お前の推測の通りなら、ハーゴンは光の玉に触ることもできないんじゃないのかよ」
「ハーゴンは大神官の資格を持ってるんだよ?」
手すりにもたれてかもめの群れを見上げ、サリューはつぶやいた。
「それに、もしかしたら、ロトの血を引く者を仲間に入れたのかもしれないな」
「バカな」
「ロトの血を引く人間って、あんがい多いんだよ。あのね、言わないほうがいいかなと思ったんだけどさ、敵前逃亡の王様、タリウス殿も、れっきとしたロトの末裔なんだ」
「あ?」
タリウスの先祖はラルス16世の弟、タリウス1世だった。当然、タリウス王家は、アレフとは無関係である。
「どうしてそうなるんだ?」
「じゃ、説明するね。ラルス王家そのものがロトの末裔なんだよ」
サリューは目を閉じた。
「んっと、ロトの娘フロリンダを開祖とする巫女の一族がいたろ。その最後の巫女の名が、アストリッド。彼女は他の巫女よりずっと短い期間しか巫女を勤めていない。不思議に思ってその年代の事項をあさっていたら、思わぬところから出てきたんだ」
「なにが?どこから?」
「歴代王室系図。アストリッドがほこらの巫女を辞任した年月日は、ラルス12世が乙女アストリッドと結婚して王妃として立てた日付と一致する。この日、このとき、ロトの血脈はラルス王家に合流したわけだ」
「ラルス王家の一員が巫女をみそめて結婚しちまったのか」
「王妃アストリッドは、ラルス12世のために王子と王女を産んだ。気の毒に、第一王子は若くして戦死してる。王女が残って、王家を継いだみたい。たぶん、女王であると同時に光の玉の守り手になったんだね」
「ラルス16世はその女王の直系の子孫になるのか。じゃあ、ラルスの弟タリウスと、ラルスの娘ローラ姫もその家系だな」
「そうだよ。ローラ姫は、まずまちがいなく光の玉の巫女だったはず。ところが竜王は、光の玉も巫女も一緒に奪っていった。しかたなくラルス16世は、見習い僧侶の若者に光の玉を取り戻すことを依頼する羽目になる」
「あれ、そうするとおれたちは」
「アレフからいっても、ローラ姫からいっても、ロトの末裔ってことになるね」
「誇りに思う、かな」
サリューは栗色の細い髪の間に長い指を入れてかりかりとかいた。
「結局、光の玉は、ハーゴンが隠してるわけ。あいつを倒さなきゃ、手にはいらないんだよ」
「アムは、それでもいいって言ってたじゃないか」
 ハーゴンを倒す?上等よ。親の仇、アイテム泥棒、天下にあだなす大罪人。やろうじゃないの。“悪い知らせ”を聞かされたとき、アムは平然とそう言ったものだ。
「彼女は強いね」
さりげなくサリューは付け加えた。
「惚れ直した?」
ああ、と言いかけてロイは思わず顔が熱くなった。
「あっはぁ。じゃ、アムのことで、おもしろいこと教えてあげようか」
「うるせぇ、関係ねぇ!」
「聞きたいって意味だね?じゃあ話してあげよう。ラルス16世はね、危機的状況に陥ったとき、なんども精霊ルビスにうかがいをたててるんだけど、聖霊女神はまったくお答えにならなかった。少なくとも宮廷付きの僧侶たちは、神託を得ていないらしくて、何も王に報告してないんだ」
「……で?」
「ルビス様、御不在。いったいどこへ行かれたのか。おでかけならば、どんな理由があったのか」
「知るか」
「こんなのはどうかな。ルビスさまは、愛しい殿に会いに行かれたっていうのは」
「はあ?どこのどいつだよ」
「ぼくは女性心理に詳しいわけじゃないけど、女の人が自分の窮地を救ってくれた男性に恋心を抱くのはわりと一般的だよね」
「どんな男が精霊女神の窮地を救えるっていうんだ?」
「彼女が石にされたことはなかったかい?大魔王ゾーマによって」
お、とロイはつぶやいた。
「それを助けたのは誰だった?」