DQコンサート感想2003

2021年10月7日、作曲家すぎやまこういち先生の訃報がもたらされました。先生を惜しむ人々の祈りの声がネットにもあふれ、とんぼもファンの一人として愕然としていました。そのとき、このサイトを作って間もないころに初めてドラクエコンサートへ行った時の感想を、当時のサイトの掲示板に書き込んでいた(2003年8月29日)のを思い出して、追悼を込めて「とんぼ日記」に書きました。お元気だったころの先生の思い出です。日記で流れて行ってしまうのが惜しくなって、こちらのページへ載せることにしました。

追記:同年10月23日、TV番組の「題名のない音楽会」で、すぎやま先生の追悼番組が放送されました。とんぼは自宅で視聴して、その感想を2021年の日記に書きました。この感想もこのページへ追加させていただきます。

ドラクエコンサートへ行ってきました。 掲示板より復刻

8/28は、東京芸術劇場でドラゴンクエストコンサートの行われる日でした。とんぼは友人一名といっしょにコンサートへ行ってきました。2000の座席が完売したとかで、劇場は満員でした。青年、壮年から熟年のお客様も多かったのですが、小学生らしい子どもたちもきていまいた。途中でうるさいかな?と思いましたが、少なくとも私の席の周りでは、騒がれて困ることはなかったです。だって、ドラクエですもんね。神奈川フィルハーモニー管弦楽団のみなさんが音あわせをしている間、期待と緊張が会場内でふくらんでいくのが手にとるように分かりました。

噂に聞いていたとおり、コンサート冒頭「序曲のマーチ」、その最初の音が鳴り響いた瞬間、まさに”鳥肌の立つ”状態になりました。今回はDQ5メインということで、天空編の序曲のマーチ、勇壮で華やかで、心をわしづかみにされました。
(とんぼのメモより:漆黒の夜空、晧々たる満月、流れる雲がかかり、一部がうすく白くなる。下界から天空へ急速に上昇する天空城。やがて雲海をわって、城は夜風に乗り、堂々と滑っていく。はるか下では地面がとぎれ、城は暗い海の上を羽ばたいていく。)

すぎやまこういち先生は、思ったとおり、とてもダンディでおちゃめな方でした。舞台の袖からさっそうと登場されたとき、会場はアイドルを迎えたような拍手でした。タクトを手にすれば無敵の先生ですが、マイクを握ると親しみやすい笑顔でお話してくださいました。DQ5のシナリオが家族の絆を描いていることに触れ、「日本中の子どもたちにDQ5で遊んでほしい」とおっしゃったとき、拍手したかったです。舞台の登場で片手を高く上げて、オーケストラを讃えて両手で、どんなポーズも粋に決めていらっしゃいました。

「王宮のトランペット」の話をしてもいいですか?コンサートの曲目は、最初DQMで使われた作品が3つ続いたので(テリ―もキャラバンハートも懐かしかったです)、この、大好きな曲はそのあと、実質的にDQ5作品の最初にきました。すぎやま先生によると、”ピッコロトランペット”という小さなトランペットを使用してバロックの雰囲気を出されたとか。気分はもう、グランバニア城の中でした。とんぼはこの曲を、CDなどでしょっちゅう聞いています。が、なんと新鮮だったことか。トランペットとバイオリンがメロディを受け渡していくのが快かったです。(とんぼのメモより:真っ青な天空の下、今日も城はにぎやかだった。人々が訪れ、生き生きと働いている。”ごきげんよう”、”今日のご予定は”、”お聞き下さいまし”…いろいろなことが起きる。が、いつも変わらぬ勇気をもって歩き続けよう。階段を上れば、城のてっぺんに出る。遠くに海がきらめいている。友は今ごろ、なにをしているだろうか。)

ちょこちょこ出てくるとんぼのメモ、というのは、コンサートが終わった後、なんだか興奮してしまって、すわってメモ帳に感想を書き付けたときのものです。悔しいことに、クラシック音楽の知識がないので、楽器や奏法の名前がわかりませんでした。それで、とんぼにできる範囲で、その曲を聴いたときのイメージを書き留めたものです。「大海原」や「地平の彼方」は、イメージを呼び起こす力が実に強くて、すわったまま心だけが飛んでいくような気分を味わいました。ドラクエのフィールドの音楽はどれも好きですが、5のは特別です。涙がにじんできました。

第一部の最後が、戦闘の音楽でした。少なくともすぎやま先生は、そうおっしゃたんです。チャチャチャチャ、チャチャチャチャ、チャチャチャチャ、チャチャチャチャ、と小刻みにあがっていくアレがはじまって、いっしょに盛り上がっていました。で、まるで主人公の哀れみをあらわすようなゆっくりした部分になって…それからいきなり、私は塔の上にいました!目の前には500年の眠りからさめた巨大な怪獣ブオーンが。(冗談じゃない、セーブとってないよ!)

もちろんCDでも一般の戦闘音楽(戦火を交えて)の直後に中ボス戦(不死身の敵に挑む)が来るので、こうなるのはわかっていてもいいはずだったんですが、本当にふいをつかれた気分でした。「まじで手に汗を握っちゃった」ハンカチでふきふき、隣にいた友人が言ったものです。

長々とすいません。もちろん見所/聞き所はほかにもたくさんありました。アンコールが競馬のファンファーレで(すぎやま先生って、多才な方です)、会場内のお父さんたちが大笑いしていたりとかね。が、とんぼは会場内で、膝の上にスライムのぬいぐるみを乗せている人を見つけてしまいました。とたんにうらやましくなりました。この次コンサートに行くときは、そのときのテーマになるシリーズの主人公のお人形を絶対連れて行くつもりです。

この感想、全部入るのか?字数制限は…

興奮のし過ぎで意味不明だしポエムまがいが混じって冷や汗ものですが、とんぼにとって当時の興奮を思い出すよすがです。これを書いたころは2021年までサイトをやっているとは思ってもみませんでした。このサイトはとんぼにとって、言ってみれば世界をのぞき見る穴で、その穴を窓にまで広げてくれたのはドラクエで、窓の向こうで笑顔をくれた方の一人が、すぎやまこういち先生でした。ありがとうございました。心からご冥福をお祈りいたします。

「題名のない音楽会」感想(2021年10/23)

本日の「題名のない音楽会」は、先日亡くなったすぎやまこういち先生の追悼となっていました。30分の放送時間がとても短く感じられました。なにしろ目がずっと、すぎやま先生に惹きつけられていましたので。

オーケストラへメロディのふくらみを指示するときに、空間を撫でるように手を回す。曲の盛り上がりを欲しい時には上に向けた手のひらをずずっと上げる。曲調を一転させたいときに、肩先から力が入ってタクトがしゅっと動く。オーケストラと、というより、音楽そのものと会話しているようで、すごく楽しそうでした。

すぎやま先生がドラクエメロディに携わるきっかけはファンには有名なのですが、番組の中でその話も出てました。エニックスから「ゲーム音楽やりませんか」というオファーが来たとき、すぎやま先生のお答えが「やるやる」。可愛すぎじゃないですか。現代に生きている人間として楽しいことばかりのはずはないんですが、なぜか先生には、楽しい、おちゃめ、ダンディ、そんな印象があるのです。

そういえばすぎやまメロディの歌謡曲は、すでにスタンダードナンバーだしよく知っていました。でもオーケストラのおかげでしょうか、よく知ってる曲がまるでRPGの背景のように聞こえました。「亜麻色の髪の乙女」はフィールドから町に入ったとき、「学生街の喫茶店」はパーティが異郷をさすらうようす、「恋のフーガ」はサブクエストの中ボス戦みたいな感じでした。

番組ではそのあと、DQ2のED「この道わが旅」をやってくれました。このあいだから何度か聞いていましたが、今日はちょっと気づいたことがありました。途中……旧ダイ大アニメのEDで言うと「履きつぶしてきた靴の数と」のあたり、リズム部分が足音に聞こえるんです。それと同じく「今、夢を熱く燃え滾らせ」(たぶん)のとこのトランペットが、胸にしみわたるようでした。人生は旅、という言葉が素直に納得できました。

番組ラストはDQ3のED「そして伝説へ」。MCさんが泣かしてきます。「すぎやま先生を送り出すのに、これ以上の曲はないと思います」。最初の一音が鳴り渡った瞬間から、これがお別れなんだと噛みしめて、ほとんど泣きながら聞いていました。人生の旅人が一歩一歩、歩みを進め、最後にたどりついたステージで立ち止まり、誇らしげに振り返るようで、ぶわあっと涙があふれてきました。
伝説への最後の音が鳴るとき、タクトがくるりと円を描いて音を引き取り、収めていきました。その瞬間のすぎやま先生の”やった!”みたいな笑顔、やっぱり最後までおちゃめでした。あとはもう、拍手、拍手、拍手……。