お帰り 第二話

 国境の関所とラインハットの城下町を結ぶ街道には、途中に二ケ所、飛脚宿が作られている。主に王家の伝令を運ぶ急ぎの飛脚のための宿屋で、必ず換え馬が用意されていた。
「急な御用ですか?」
飛脚宿の長は、眠そうな目の大男だった。
「オレスト将軍からの命令書です。馬を一頭使いたいのですが」
ヘンリーは役人らしい事務的な態度で、偽の命令書を手渡した。長は書類に目を通し、特に疑いもしないようすで顔を上げた。
「はあ、宰相府の用件で?もちろん、馬なら用意がありますよ。どれにしますか」
「気性のおとなしいのがいいんですが」
コリンズは飛脚宿の外にいた。父が馬を一頭引き出してくるのを見て、思わずつぶやいた。
「え、おれのは?」
「おまえ、満足に乗れるのか?」
コリンズはむくれた。
 六歳の誕生日にコリンズは自分の子馬をもらい、乗馬を習っていた。
「こないだいっしょに馬場に出ただろ?乗れるよ」
「おれが本気出したら、ついてこられなかったじゃないか」
「だからって」
「いい子だな、メディナ」
 馬の名前を呼び、長い首をなでてやると、ヘンリーはさっさと鞍を取り付け、手綱を調整した。
「おれの前に乗りな」
それじゃまるで、抱っこしてもらうみたいで、恥ずかしかった。コリンズはつぶやいた。
「そんな子供っぽいの」
「ごちゃごちゃ言うんなら帰れ」
「やだ」
コリンズは仕方なく、二人乗りで我慢することにした。ヘンリーは馬首を西へ向けた。
「トレミアの方へ行くんでしょ?」
「なんで知ってんだ?」
 城の中庭で昨日、コリンズは警備隊長のトムに剣の稽古をつけてもらっていた。素振りを終わって一息入れたとき、トムの部下が入ってきて、何か相談しているようだった。コリンズは井戸で水を飲むふりをして聞き耳を立てた。
「トレミアの西……物音?……入らずの岩山……伝説の……」
切れ切れに聞こえる単語をつなぎ合わせて、コリンズは好奇心をかきたてられた。
「ヘンリー様に申し上げる前に、オレスト閣下におうかがいしておけ。伝説を頭から信じているわけではないが、うっかり話すとご自分で行くと言い出しかねないから」
そこまで聞けばコリンズには十分だった。それで準備を整えて、コリンズは父が城を脱走するのを待ち受けていたのである。
 ヘンリーは街道を離れて馬を西へ進めると、自分から話してくれた。
「ラインハットの西の国境は、ボルダ川と、トレミアの向こうの岩山だ。おそろしく険しくて、昔から入らずの岩山と言われ、誰一人山を越えた者がいない」
コリンズは顔をあお向けて尋ねた。
「じゃ、中に何があるの?」
「伝説によるとな、洞窟があるんだそうだ。大昔レヌール王国の王様が、洞窟の中から邪悪な魔物を呼び出したが、逆に自分が食われてしまって、おかげで王国は滅びたという」
「なんで魔物なんか呼んだの?」
ヘンリーは軽く肩をゆすった。
「レヌール王国の領土を半分奪った憎い敵を呪うためだそうだ」
「ふーん」
「ふーんじゃない、その敵の名はコリンズってんだぞ」
「えっ、なんで!」
「レヌリア大陸の東をごっそり削り取ったのは、我がラインハットのご先祖だからさ。それがコリンズ一世で、おまえはその人から名前をもらったんだ。だから王様になったらコリンズ二世になるわけだ」
「なんか、へん」
「なに、そのうち慣れるさ。伝説には続きがあって、最後のレヌール王の魂はまだ岩山を漂って、ラインハットの末裔を呪っているそうだ。歴代ラインハットの王族は、あの岩山には近づいてもいけないことになっている」
「くっだんねぇ!」
「おれもそう思うよ。ついでに今おれがした話は、全部古代史の本にでてるぞ。おまえ、一回も読んでないな?」
「細かいこと気にするなよ」
言ったとたんコリンズは頭をはたかれた。
 トレミアの村を通過すると、西日が強くなってきた。道中遠くにあった岩山が、今は空を切り取るような壁となって聳え立ち、その上から夕日が不吉なほど赤く輝いている。
 どこからか大きな物音が響いた。コリンズはきょろきょろした。腹にこたえるような低い音だった。ヘンリーが馬を止めた。トレミア領のはずれにある、岩山のふもとの草地である。
「モンスターや獣じゃない、風の音ともちがう、何が鳴ってるんだ?」
「これ、地鳴りっていうの?」
「あの岩山のむこうだな」
ヘンリーとコリンズは馬を降りて、ぼうぼうと生い茂った草むらの中を歩いた。草地から突然立ちあがるような巨岩の塊が長大な壁となっている。その壁の中から地鳴りが聞こえていた。
 一定の間隔を置いて繰り返す。鳴動は規則的だった。命を持たないはずの岩が鳴いていた。
「すげぇ、中を見たいな」
コリンズは好奇心の権化になっていた。
「断崖絶壁だが、でも、よく探せば登山口があるかもしれない。そんなものがあるとすれば、地元民が知ってるかもしれないな。コリンズ、今夜はトレミア泊まりだ」
「うん」
ヘンリーは先にコリンズを鞍の上にのせた。
 そのとき、晩春にしては妙に冷たい一陣の風が吹き、岩壁にあたってくだけた、とコリンズには思えた。
「コリンズ!」
ヘンリーの声は緊張していた。
「な、なに」
「しっかりつかまっていろ」
あぶみに足をかけてヘンリーは一気に馬に乗り、馬腹を蹴った。黒い馬は勢いよく飛び出した。
「トレミアまでかけぬける!」
コリンズはヘンリーの体ごしに振り向いた。
 日が落ちて暗くなった草地の上を、コウモリの翼を背負った白いヒヒが三頭、鋭い爪を高く掲げて、飛び跳ねるように追いすがってくる!

 その馬は、たしかメディナと言った。コリンズはぎゅっと目を閉じて、賢くて気性の穏やかなメディナのために祈った。
 コリンズとヘンリーが隠れている岩陰のすぐ向こうで、シルバーデビルがいやな音を立て、哀れなメディナの体を食らっている。
 最初の一頭がメディナの後足に飛びついて転倒させたのだ。ヘンリーはとっさにコリンズを抱えて岩山のくぼみへ逃れた。怪物たちは倒れたメディナの血の匂いにひかれたのか、コリンズたちを追いかけようとしなかった。
 だが、この浅いくぼみは行き止まりだった。やつらの目にとまらずには、どこへも行くことができない。口から腹まで白い毛皮をメディナの血で朱に染めて、一匹のヒヒが立ちあがり、きょろきょろしていた。コリンズは息をひそめた。
 ヘンリーは黙って考え込んでいた。どうするの、などとわめいて彼の思考を妨げる悪趣味はコリンズにはない。戦力外のコリンズにとって、ヘンリーの経験だけが生き残る手段のすべてだった。
 けして直接戦ってはいけない魔物というのがある。自分よりすばやさが高く、複数で現れる種類だ。こちらが一度攻撃する間に、たこなぐりにあって大ダメージをくらってしまう。逃げてもいけない、回復するひまさえない。シルバーデビルがまさにそれだった。
 たとえば今二人のうちどちらかが犠牲になってやつらの注意をひきつけたとしても、残りの一人が生き延びられる可能性は、低い。
「いつも、これだ。生きるか、死ぬか。おまけに泣き所を抱えている」
ヘンリーがつぶやいた。その唇が、薄笑いを浮かべていた。
 シルバーデビルのうちの一頭が、獲物を探して動き出した。ウサギでも見つけたらしく、岩山を回りこんで姿が見えなくなった。
「残りは二頭だ。一頭、誘い出してみるか」
ヘンリーは服のベルトを手で押さえ、バックルの裏側から何か引き出そうとしていた。それは、きれいな銀色の細い鎖だった。長い。ヘンリーが腕をいっぱいに伸ばすほど引き出しても、まだ出てきた。
「それ、何?」
鎖をすべて引き出すと、ヘンリーは袖口を振って、手のひらに何かを振り出した。手のひらに収まるほどの、柳の葉のような形をした黒っぽいものである。
「おれのお守りだよ」
ヘンリーは“柳の葉”を両手で持って、折り曲げるような動作をした。かちり、と音がして、その“葉”が二つになった。ちょうつがいのようなもので、二枚の“葉”が重ねられていたらしい。一枚は、どうやら鞘のようだった。そしてもう一枚は青く光る薄い刃だった。
「前に持っていた鎖が切れちまったんで、新しく城下の武器工房に特注したんだ」
細い鎖の先端には、ねじがついている。ヘンリーはねじをはずして、薄い刃を直角に取り付けた。鎖の反対側は、指輪よりやや大きめの輪で終わっていた。その輪を左手の中指に通して鎖の中ほど軽くつかみ、ヘンリーは洞窟の入り口に身を寄せた。
「そんなの、見たことないよ」
「じゃ、おぼえとけ。おれのお守り。チェーンクロス・改だ」

 思いがけないご馳走に、シルバーデビルは気をよくしていた。この岩山の周囲の縄張りでは、彼の種族は最強だったし、そのことを楽しんでもいた。
 視界の隅に奇妙なものが入ったとき、だからシルバーデビルは、警戒する必要があるとは、露も思わなかった。
 それは真っ赤だった。岩山の上から来る、日没の最後の光で、それはメタリックレッドの輝きを放った。
 シルバーデビルは食い飽きた馬の死骸から離れ、その赤いものに近づいた。 それは、つと遠ざかった。白い毛皮の腕を長く伸ばし、シルバーデビルはそれを抑えようとした。また逃げた。
 赤いものは、なにやら、丸い形をしている。実はそれが、ラインハット貴族が大きな帽子に羽飾りをとめるためのバッジだ、などとは、シルバーデビルには知る由もなかった。バッジはすっと動いた。見る見るうちに、遠ざかっていく。
後ろ足に力を込めて、シルバーデビルは跳んだ。赤い丸いものしかもう眼に入らない。するすると逃げるそれを、シルバーデビルは追い続けた。
 ついにシルバーデビルは、ぱし、とバッジを草の中に抑えた。器用につまみあげて、しげしげとのぞきこむ。シルバーデビルは首をひねった。命があるようには、見えなかった。
 青く光る刃が、唸りを上げて襲ってきたのは、その直後だった。

 頭の上を水が流れている、というのは、不思議な気分だった。ラインハット国境、ボルダ川の下をくぐる、トンネルの中である。洞窟の壁は思ったより乾いていて、けっこう明るかった。
 国境を出入りする人々が列を作って歩き、すれちがっていく。普通の街道とあまり変わらなかった。
「水の音がする」
馬車の御者席の隣で、カイがぽつりと言った。声が響いた。
「カイには聞こえるんだね」
と、手綱を握るルークが言った。
「初めて通ったとき、ぼくも聞いたよ」
「初めてのときって?おじいちゃまと?」
「うん」
ルークはふふ、と笑った。
「ほら、出口だ。父さんとぼくと、歩いてここを出て、川を見に行ったんだ。肩車してもらったから、今入ってきた向こう側までよく見えた」
「いいなあ」
アイルが言うと、ルークは微笑んだ。
「アイルにも、してあげようか」
「うん!」
「今日はもう夕方だからあまり見えないけど、今度、きっとね」
 まもなくトンネルが尽きた。関所をくぐったときに西日が傾いていたのだが、出口を通ると本当に暗くなっていた。
「今晩にはラインハットに着けるかな」
「初めて行くのよね」
馬車は街道に沿って進もうとしていた。馬車を引くパトリシアの手綱を、急にルークが引いた。馬車は止まった。
「どうしたの、お父さん?」
 大陸を横断する街道は、ラインハット平野の中をうねうねと続いていた。川風が吹き上がり、快かった。どこへ向かうのか、鳥の群れが影絵のようになって飛んでいく。
「呼ばれている気がして」
「声なんかしないよ?」
「ああ、そうだよね」
アイルたちの乗った馬車を、旅人たちが次々と追い越して行った。
「早く行こう、お父さん」
「ああ」
と言いはしたが、ルークは、考え込むような表情で、あたりを見回した。空気の匂いをかいでいるような顔になった。
 その人が、アイルの知っている、やさしいお父さんなのだとは、わかっている。 が、こんなときの父は、何か別のものだった。カイが、おちつかなげに身じろぎし、アイルの服の袖をつかんだ。
 空気が緊張を帯びてぴりぴりする。ルークの目が険しくなった。
「パトリシア、行けっ」
小さく声を掛けて、ルークは馬車を動かした。
「どこへ行くの?」
まっすぐに前方を見据えて馬車を駆り、ルークは答えた。
「西の、岩山のほうだ。行かなくちゃ」
どうしてなのかは、聞いてもむだだとアイルは知っていた。が、父が行かなくてはならないと感じた以上、何かが起こっているのだった。馬車は次第にスピードを増した。

 シルバーデビルのうちおびき寄せた一頭は、ヘンリーが遠くから何度も攻撃し、呪文で弱らせてから、コリンズが上から石を転がして頭を潰して仕留めた。二頭目も同じようにしたのだが、一頭目よりも早く迫ってきて、しかたなくヘンリーは、飾りに身に着けているサーベルでとどめを刺さなくてはならなかった。あまり攻撃力のないサーベルはシルバーデビルの腹に突き刺さって折れた。
「うっ」
小さくうめいて、ヘンリーがうずくまった。
 シルバーデビルの体液が全身に飛び散っている。ケープも帽子も失い、上着は裂けて青黒い血を浴び、ひどいありさまだった。
 コリンズはぞっとした。ヘンリーのブーツにかかっているのは、モンスターの体液ではなく、真紅色だった。
「急げ!今のうちにトレミアへたどり着けばなんとかなる」
「でも、父上、足にけがしてるじゃないか!」
「二頭めに、爪でえぐられた。情けねぇ」
ヘンリー親子は、岩のくぼみを出て歩き出した。トレミアの村は、どちらの方角だったろうか。草の根に足をとられたのか、ヘンリーがよろめいた。
 コリンズは思わずヘンリーの腕を取った。つかまって、と言おうとしてコリンズは硬直した。
「父上、あいつだ!」
シルバーデビルの群れが岩山の角を回って姿を現していた。先頭は、胸が赤黒くなっている。メディナの血だった。さきほどふらっと離れていった一頭に違いなかった。
「くそっ」
ヘンリーが弱弱しくつぶやいた。
 そのときだった。草地を吹き渡る風が、勢いを増した。
「ヘンリー!」
誰かが大声で叫んだ。いきなりヘンリーはコリンズの腕をつかむと、その場へ引きずり倒した。コリンズはしたたか頭をぶつけた。その頭上を、唸りを上げて通り過ぎていくものがあった。
「たつまき?」
「風の魔法だ。巻きこまれるなよ」
 風のうなりが耳をつんざき、草地の向こうにいたシルバーデビルの群れに竜巻が襲いかかっていく。白い毛皮の四肢がばらばらに吹っ飛ぶのが見えた。
コリンズは恐る恐る草地の上に顔を出した。
「ヘンリー」
そう言いながら、紫のターバンを巻いた人が走ってくるのが見えた。父よりも少し若い、と、コリンズは思った。お城の兵士たちのようにしっかりと武装しているわけではないのだが、見るからに強靭だった。武器は杖一本。だが、さきほどの風の魔法を使ったのは、この人だった。空気の焦げるような魔法の匂いが、この旅人から漂っていた。
 めったにないことに、ヘンリーは、明らかに呆然としていた。目が大きく見開かれている。
 不思議な旅人は草地に杖を横たえ、片手をそっとヘンリーの脇に回し、その上体をゆっくりと引き上げた。大人の男性のヘンリーの体が、いとも簡単に引き上げられていく。自分の体でヘンリーを支えると、心配そうに彼は話しかけた。
「だいじょうぶ?会えたとたんに怒られそうだな。やるときはやると言うことになってたよね」
コリンズはその口調が心にひっかかった。
 先ほどこの人は、父のことをヘンリーと呼びはしなかっただろうか。この国の王でさえ、敬意を込めて兄上と呼ぶ彼のことを。
 単になれなれしいと言えない、不思議な口調だった。まるで何の遠慮もへだてもないように聞こえた。
 ヘンリーが、今にも切れそうな意識を意地で保っているのがコリンズにはわかった。その人を見上げ、血のにじむ唇でヘンリーは微笑んだ。
「バカ言え、おれがおまえの魔法発動のタイミングを見切れなかったことがあったか?」
コリンズは、はっきりと嫉妬を感じた。ヘンリーは彼の親密さを受け入れ、同じ心安さで返していた。今まで父上と“共謀”できたのは、叔父上のほかはおれだけだったのに!
「お帰り、ルーク、腕を上げたんだな。ありがとう」
そう言ってヘンリーは珍しいほど無防備に目を閉じた。安心しきっているのが、コリンズにはよくわかった。ヘンリーのそんな表情は、自分のほかは、母のマリアくらいしか見たことがないのではないだろうかとコリンズは思った。
「ヘンリー。いいよ。少し眠っていて。傷は直しておくから」
ターバンの人、ルークはそうささやいて、慣れた仕草で回復の呪文を唱えた。
 ルークの後ろから、コリンズと同じぐらいの年齢の少年がやってきた。髪の色が違うが、ターバンの人によく似ていて、親子だろうとコリンズは思った。
 少年は、草地の上に足を止めてふりかえった。真後ろから真っ赤な怪鳥が一羽、少年に向かって突っ込んできた。ヘンリーは気絶しているし、ターバンの人は気づいていない。コリンズは思わず声をあげそうになった。
 少年は、腕を肩に回し、刀の柄に手を掛けた、とコリンズには見えた。
 何か鋭いものが空気を切り裂いた。
 コリンズは目を見張った。
 真紅の羽根が舞い散った。変わった形の刀身をした剣をふりきったまま、少年は軽く息を継いだ。すぐに剣を鞘に収め、落ちて足元に横たわる火食い鳥には目もくれずに、こちらへむかってきた。
「すげぇ」
コリンズはつぶやいた。その声が聞こえのか、少年がコリンズのほうへ視線を向け、照れくさそうに笑った。こいつ強いけど、偉そうにしないんだ、とコリンズは思った。
 そのとき、はにかむ少年の後ろに誰かがいることにコリンズは気づいた。よく似た顔立ちの、女の子である。
 金の髪を、顔の両側でリボンで結んでとめている。青いきれいな瞳だった。女の子は、ルークと呼ばれた紫のターバンの人をじっと見つめていた。その顔に嫉妬めいた感情を見つけて、コリンズはどきりとした。
 この子もショックなんだ、とコリンズは思った。きっと、あの人は、今までこの女の子のものだったんだ。父上がおれのものだったように。
 コリンズの気持ちに気がついたかのように、少女はコリンズのほうを見た。
 目が、合った。
 コリンズの人生に、グランバニアの王女カイリファが姿を現した瞬間だった。