バレエドラゴンクエスト感想2018

 先日(2018年5月12日)、バレエドラゴンクエストを観てきました。とんぼは、以前は劇場へ通ったこともありますが、歌舞伎と近代演劇が主でバレエはあまり見たことがなかったので、いろいろ新鮮だったし、楽しかったです。
 そういうわけで、かなり基本的、初歩的なことも書いてると思いますが、これも感激のあまりということでご容赦ください。

ダンス

 改めて見て、バレエの動きとは心地よいものだと思いしりました。曲に合わせて動きが付く、その快感。だいぶ前ですが動画投稿サイト等で、とんぼも知っている曲に振付をして踊っているのを見たとき、楽しそうだと思ったものでした。今回の舞台で踊ってくれたのは、STARDANCERSバレエ団のみなさんでした。踊るために鍛えた体の繰り出す動き、音のメリハリ、サビにあわせたアクションは、見ていて快いのです。
 とんぼの大好きな曲に「王宮のトランペット」がありますが、この曲に動きが付いたところを始めて見ました。男性舞踊手たちが、動きで力強さや勇敢さを表現してくれました。
 プロのダンサーの人たちのジャンプの滞空時間は、長いです。そして着地が柔らかいです。
 特に女性舞踊手の場合、衣装やつま先立ちとあいまって、羽のようなイメージでした。
 バレエドラゴンクエストは、二幕の物語になっています。当然どの場面もシナリオの一部であり、セリフはないのにとても雄弁でした。戦闘シーンとは、無言劇でもありました。
 コミック化されたDQの場合、よく巨大なラスボスめがけて勇者は剣をふりあげ、ジャンプして打ちかかります。ステージで白の勇者の飛翔を見ながら、自分が今、ライブでその瞬間を見ているんだと気が付きました。あ、これだ、と。
 数行前に、訓練された動きは美しい、と書きましたが、冒頭、お城の舞踏会では、その諧調が一瞬、乱れるところがあります。若き勇者と可憐な王女が、舞踏会のまっさいちゅう、うっかり顔を合わせてしまった瞬間です。その狼狽した動作、表情、雰囲気、と言った乱調が、恋の始まりを意味する饒舌な無言劇でした。
 魔王に捕まってしまうこの王女様ですが、二幕めの最後、ラスボス戦のさなか、白と黒の二人の勇者の間に両手を広げて毅然として割って入るシーンがあります。ここは、赤子の頃に魔王にさらわれ、悪の手下として洗脳された黒の勇者が正義に立ち戻り、双子の兄弟である白の勇者といっしょに魔王と戦う決意をする、というとても複雑なストーリーです。王女は二人の勇者それぞれに兄弟殺しをさせまいと、折れそうなほどほっそりした体を張って止めに入ります。見ている方は、彼女の動きの必死さを助けに、この複雑なシナリオを追っていました。
 そう言えば一幕目の途中から、武器商人が登場します。実はとんぼはDQ関連初プレイが「不思議なダンジョントルネコの大冒険」でした。そのころからバレエドラゴンクエストのCDとかポスターは見たことがあって、この青と白の縦じまの服に赤い袖なし上着を重ね、背中に大きな荷物を背負ったキャラを「トルネコ」と認識してました。
 この武器商人は、トルネコと同じくお腹ぽってりのかっぷくのよい男性、という設定だと思うのですが、軽々と跳ね、回り、実に多彩に動きます。彼こそパントマイムを駆使して、女戦士や王女に媚び、ちょっとがめつく、小心者でおっちょこちょい、でも心根はいい男として活躍していました。

美術・衣装

 この武器商人が登場するのは一幕目の酒場です。当日のプログラムによれば昨年新しくデザインが興されたそうで、近未来風、ということになっています。プログラムではデザイン関連で黒澤映画やスターウォーズへの言及もありました。パイプやメーターっぽいものが多く、なんとなくスチームパンクというジャンルかなと思いました。
 冒頭のお城の場面の、いかにもクラシックな華やかさ(貴族の若者やピンクのドレスの令嬢たちが国王と王妃の前に集い豪華な群舞、その前で主要登場人物のソロが繰り広げられる)とうってかわって、網タイツ&ガードルの黒系キャバレー風衣装の女給(「バーメイド」)たちが、柄の悪い客たちの相手をしながらいちゃいちゃと踊り始めます。
 このときに曲が「楽しいカジノ」(@DQ4)になるのが、すごく楽しかったです。この“なんでもあり”感はドラクエの真髄のひとつではないかしらん。
 ついでですが、この直後酒場にやってくるのが女戦士で、「ジプシーダンス」で激しい踊りを見せてくれました。このひとのために拍手が巻き起こったほど素晴らしかった……。プログラムにも、美術と衣装担当者のお気に入りだと別扱いになっていた、ちょっと裃をイメージした感じの石榴色のコスチュームがぴったりでした。
 ドラクエ語で言うなら豪傑の女戦士ですね。初登場で三人のあらくれを率いているので、とんぼはなんとなくドラゴンクエストビルダーズのマイラ・ガライヤ編に登場したアネゴことアメルダをイメージしました。女戦士はツンデレさんで、白の勇者が王女と結ばれることになった後、勇者の額にキスをくれて粋に去っていきます。
 関係ありませんが、劇中、白の勇者の少年時代である、少年勇者が登場しました。伝説の勇者から剣を教えてもらうお芝居がかわいくて、とんぼはDQ5のパパスと5主を連想しました。あのあたり、かわいい少年勇者に拍手したかったです。
 話が前後しましたが、女戦士の後にトルネコ登場です。曲は「おてんば姫」からの音楽の流れで、「武器商人トルネコ」のイントロ聞いて、来るぞー、と思いわくわくしました。
今回のステージは衣装がどれも素敵でした。プログラムに載ってたのでうれしいです。時間があったら、ドール用に作ってみたいです。
 今プログラムを見たら、美術と衣装の担当はDick Birdさんと紹介されていました。舞台美術もこの方のようです。とんぼは相棒と一緒に見に行ったのですが、特に相棒が舞台の奥行に感心していました。
ステージはお城、荒野、酒場、ダンジョンの四種類。それぞれ金銀銅鉄のイメージだそうですが、直線と曲線をたくみに組み合わせた舞台背景に照明との取り合わせで、シナリオが要求するシーンをすべて表現するのはお見事でした。とんぼは酒場と、それから錆びた鉄でできた巨大ドラゴンという魔王城(ダンジョン)が好きです。
 どの場合もステージの一番奥の一段高いところに小さなステージ(兼登退場口)があり、聖母の登場や魔王の退場など効果的な使われ方をされていました。またステージの前の方もスクリーンで仕切ってその内と外で芝居が進行したりします。
 魔王を倒した後、パーティは白の勇者を残して去ろうとします。スクリーンの外で仲間が別れを告げ、去っていく。それを見送った勇者の背後で暗かったスクリーンの背後が明るくなり、王女と結婚式。こういう、小説で書くのがまず難しいようなシーンを見るとほんと凄いなと思います。
 そう言えば、ラスボス=でかい、というイメージをどうやら刷り込まれているようです。そのため魔王はもっと大きくてもいいかもと思ってしまいました。王女をさらう魔王と言うことでつい竜王をイメージします。相棒は“変身しないかな”と言っていましたが、しませんでした。あたりまえです。魔王のコスチュームが微妙に地味で、鎧ならもっと爬虫類とか恐竜っぽいのもありなのではと思いました。

 だらだら書いていたら長くなりましたので、このあとは少しだけ。
 ライト・照明というのも、小説では表現しにくいもののひとつです。敵方が悪の威力を振るう時は緑の光がステージを覆います。また白の勇者が伝説の剣を抜いたとき、天空の兜を装備した時、暗めステージの中で白い光が勇者を、勇者だけを照らし出しました。この兜装備が、最後のレベルアップで、このあと白の勇者はパワーを身につけます。襲ってくるモンスターたちに向かって手をはらうしぐさをすると、相手はやられてしまう。この時に白い強い光がほんの短い時間注がれます。
「アルスめ、勇者の証であるライデインに開眼しおった!」(「ロトの紋章」vol2 藤原カムイ1992 p125)みたいな感じで、これもDQのエッセンスかもしれない。

 やはり生オケはいいです。プログラムにある使用楽曲の一覧を読んでいくだけで心が浮きたちました。「そして伝説へ……」が卑怯なほどかっこよかったです。
 
 とりとめもなく書いてきましたが、要はとても心地よく酔わせていただきました。バレエドラゴンクエスト、ありがとうございました。