DQ小説同盟感謝祭

DQ小説同盟との出会い

 私がDQ小説同盟に新規会員として登録を申請したのは、2003年の七月でした。自分のサイトを持ち、DQ二次を書き始めて二年後のことです。
 当時、投稿サイトというものは見当たらず、個人個人がサイトを作り、そのサイトを検索するためのサイトがありました。私のサイトもいくつかの検索サイトに登録していました。
 現在はほとんど見当たりませんが、当時そんなサイトをのぞくと、綺麗なバナーが並んでいてたいへん華やかでした。同じ二次創作サイトの中から自分のサイトを選んでアクセスしてもらうために、皆さん、リンク用のバナーに工夫をされていました。
 私は、気後れしました。
 バナー作りが下手だったことも理由のひとつですが、わざわざ来てもらうだけの値打ちが自分のサイトにあるのか、と(今も)思い続けていましたので。
 くよくよと考え始めると思考は悪い方へ回るものです。
 私が書いてるこれ、ほんとにおもしろいのか?
 このネタ、二番煎じかも。
 私のサイト、デザインださくない?
 あのサイト、来訪者カウンタのヒット数たくさん。
 このサイト、お話が明るくておもしろい。
 負けてるよ、私。
 こんな私は、ネット上に棲息していていいんですか?
 私のサイトが検索サイトに登録するなんて、図々しく見えるんじゃないですか?
 くよくよと考えながらサイト間を渡り歩いていたとき、「DQ小説同盟」のバナーを見つけました。
 昔の記憶なのでうろ覚えですが、たいていの同盟はキャラ名やカップル名が入っていた気がします。DQ小説、と名乗るその間口の広さにまず興味を持ちました。
 そこから、規約とか、同盟の方向とか、いろいろ読んでみました。規約にあった文言だったか、それとも盟主さまの文章だったか覚えてないのですが、こんな言葉がありました。
「ドラクエ二次小説の、データベースに」
 データベース。
 その乾いた無機的な質感が、私のくよくよを削ぎ落してくれました。
 あれほどうらやましかったサイトさまも、私のへたれサイトも、表の中の一行ですよ。
 データベース。
 横並びじゃないですか。
 データベース。
 登録しても図々しくない。むしろ、登録するのがあたりまえ。
「やろう」
素直にそう思えました。
 あれから十七年たちました。同盟の一員でいる年月は、快適でした。SNSの類に恐怖心すらもっていましたが、DQワンライに参加したくてtwitterを始めるという、コミュ障の自分史上稀に見る快挙もありました。
 気が付いてみたら、私の中で「DQ小説同盟」はまったく違う姿になっていました。私、とんぼの目から見た「DQ小説同盟」、よかったらいっしょにご覧になってください。

 重い石の扉の先は、天井の高い大広間だった。外観からは予測できないほどの大きさであり、二頭立ての馬車を乗りまわせるほどの広さだった。ドーム天井は遙か頭上にあり、そこから不思議な光が広間全体に注がれていた。
 広間の床に刻まれた模様は、円というより歯車に見えた。同心円を描く床の円周上に十個の祭壇が配置され、それぞれの前に小さな台、その上に古めかしい書物が載っていた。
 物音はほとんどない。清らかな光の粒子が、静かに空中へ浮かび上がる。広間の周辺には見たことのない植物が壁に沿って繁茂している。その葉がかすかな空気の流れに押され、サラサラ揺れるだけだった。
 広間のやや奥に、奇妙な生き物がいた。雪だるまに手足と目鼻をつけたようなそれは、まちがいなくこの村の住人、ヨッチ族だった。
 一人は先ほど別れたばかりのクルッチ、そしてクルッチの三倍は大きな身体をしたもう一人のヨッチ族が、クルッチの言う長老なのだろうと勇者イレブンは思った。
「長老さま、見てくださいッチ!ユーシャさまが来てくれたッチ!」
 眉も髭も白い長老は、重々しく声をはなった。
「勇者さま、ようこそヨッチ村へ。わしはヨッチ族の長老ジョロッチですじゃ。わしらはある使命を果たすために勇者さまを探していたのです。まずは周りにある祭壇をご覧くだされ」
 イレブンは首を巡らせた。すべて、古色蒼然としたこの広間にふさわしい、古びた祭壇だった。それぞれの前の書物は、台の上にページを開いてのせてある。そのページがところどころ黒くなっているのが見えた。
「それぞれの祭壇にあるのは冒険の書。それには異なる世界に生きた伝説の勇者の功績が刻まれております。我々ヨッチ族に与えられた使命は、この冒険の書を守り正しい勇者の功績を後世に伝えること……。そのために我らヨッチ族はこの祭壇の間で冒険の書を大切に保管し、ずっと守ってきたのですじゃ……」

 ご存知、DQ11序盤に登場するヨッチ族の村の奥、祭壇の間です。私の目には、同盟はちょうどこんなふうに見えます。ナンバーシリーズごとに大分類され、その奥に整然と中分類、小分類された無数の世界が広がる、巨大ハブ、宇宙的なポータルです。
 この光さす空間にずっと出入りしてきましが、今、祭壇の間を出て静かに大扉を閉めようとしています。同盟と言い、twitterと言い、参加してみてわかったことは、中に居る人はモンスターではなく良くも悪くもヒトだということでした。
 十七年間、ここでいろいろなことを学びました。ありがとうございました。
(とんぼ 2020年 8月3日)

いいねがあってもなくてもDQ二次創作を語る

1 DQ二次小説を書き始めたきっかけ
とんぼの頭の中に浮かんだ妄想を、消える前に書き留めておきたいと思ったことです。
2 よく書くDQは?
2,5,11、DQB1,2
3 書いていて楽しいキャラ
ペアになっているキャラ。5主とヘンリーとか、ローレとサマルとか。会話があると書きやすいのです。
4 書くのが苦手なキャラ 
↑のような相方のいないキャラは、ある意味書きにくいです。
5 DQ二次創作をして良かったこと
1と被りますが、頭の中に浮かんだ絵とか動画を固定しておけること。それから単純に楽しいこと。
6 DQ二次創作の悩み
日陰の存在であるべきだ、と思うのと同時に、見て見て読んで!と言いたい矛盾
7 短編と長編どちらが得意?
短編のほうが得意だと思うけど、気が付くと蛇足が増えて長編になっている。
8 一人称と三人称どちらをよく使う?
三人称がほとんどですが、語り手の主観が入るので一人称っぽいです。
9 自分の書いた話は読み返す?
いつも忘れているのに、何かのフレーズがきっかけで思い出すと猛烈に読みたくなります。
10 書いた中で気に入っている話は?
ヘンリーやシルビア、サマル君が推理するお話は、書くのはたいへんですが、結果として好きです。自分の好みをぶちこむからでしょうね、たぶん。
11 あなたの思うDQの魅力
老舗RPGなのに、プレイヤーを楽しませようと絶えずいろいろな要素を入れてくること。それによってDQキャラが輝くのです。
12 初めて書いたDQ二次創作をふりかえる
第一作「王宮のトランペット」ですが、長いDQ5のシナリオのどこから書くか、に迷って、結局一番書きたいところ、5主がヘンリーと二人旅をしているシーンからになりました。
13 DQ二次創作の思い出
カゾクニバレタ
14 もらって嬉しかった感想
感想はどれもありがたい。強いてひとつあげるとすれば、「(情景が)目に見えるような」。とんぼの二次はとんぼの脳内妄想を書き留めたものなので、妄想を画像として共有してくださったというのはしみじみ嬉しいです。
15 今後書きたいと思っている話は?
なんと第一作と同じ、5主とヘンリーがいっしょに旅をする話です。
16 自分の書いた中で好きな作品は?
自分の手掛けた作品はどれも好きで思い出たっぷりなんで、決められません。
17 公式DQ小説は読んだ?
5の公式はよく読みました。2も一度だけ。
18 原作と比較して注意して書くことはある?
公式の設定やシナリオから離れないように心掛けています。でも時々、公式ふっとばしてめちゃくちゃやらかすのも大好きです。
19 あなたのDQの二次小説を書く理由
1と同じです。日がたてば忘れ、薄らいで消えていく脳内の妄想を、情景、台詞、表情、衣装、動作等々をそのまま現世につなぎとめたいから。
20 自分のことや作品を自由に語ってください
自分のサイトを造って作品をアップした日、これ以上幸せなことはないと思っていました。基本、コミュ障で人見知りな性格をしておりますが、とんぼは幸せな引っ込み思案です。

復刻版深夜の真剣文字書き60分一本勝負

復活の呪文(8/8)

 左手の甲にはくっきりと、勇者の紋章が輝いている。まだ16歳の少年はシルビア号の手すりをつかんだまま、海を見つめていた。
 シルビア号は、その前の晩ダーハルーネの港から出航した。というよりも、巨大なクラ―ゴンと肉迫するデルカダール王国軍をかわして、命からがら逃げだしてきたのだった。
 機関士アリスが舵を取っている。シルビア号は狭い海峡を抜けて、まっすぐにロトゼタシア内海の北東部へ向かっていた。
「どうした、相棒?」
勇者イレブンは、手すりに片手をかけたまま、わずかに振り向いた。
「ほら、あれ。ぼくたちが通ってきた、旅立ちの祠だ」
 勇者の相棒ことカミュは目を凝らした。夜明けの海の彼方に、岩よりましていどの小島がある。その上に建っているのは、開かずの祠だった。
「ああ、ほんとだ。小さく見えるな。俺たち、あそこからホムラの東まで飛んだのか。なんか、大昔みたいだな」
「そうだね」
と返す声は精彩を欠いていた。
「どうした?」
「あ、うん。あの向こうにイシの村があるんだよね。あのままで」
デルカダール軍によって焼き討ちにあい、ほとんど廃墟と化したままで。カミュは、イレブンの表情を理解した。
「イレブン、なあ」
「わかってるよ。帰りたいって言ってるわけじゃないよ」
嘘つけ、とカミュは思った。焦がれるような目が、チカラの入った顎が、泣きそうな顔が、大声で叫んでいるようなものじゃないか。
「……このまま海を見ていたいんだ」
「おまえ、昨夜は徹夜だろ。寝た方がいいぞ」
「それを言うなら、カミュはつかまってたんじゃないか。休んでてよ」
ぼくを、ほっといて。
 言外の声でそう言われてはカミュには返す言葉がなく、踵を返した。

 シルビアはいそいそと船の食堂を整えていた。
「あらカミュちゃん、今、朝ご飯の用意をしてるの。お皿出してくれない?キッチンの前に食器棚があるわ」
「おう」
それはカミュが子供の頃なじみのあった、北の外界をいく船の食器棚と同じタイプだった。
「なあ、おっさん」
皿を並べながらカミュは聞いた。
「イレブンのヤツ、元気がねえんだ」
「そうみたいね。ホームシック?」
「そのホームがなあ……」
大きな木のボウルにサラダを盛り、ジャグリングでもするかのようにソルトシェーカーとペッパーミルを取ると、派手な仕草でシルビアは味つけを始めた。
「……そうなんですってね。でも、前向きになれ、って言われても、人に言われるんじゃダメなのよ。本人がその気にならなきゃね」
ダーハルーネで手に入れた新鮮な野菜、茹でたて卵に、塩ゆでの鶏肉。黒コショウのツブツブがきれいにかかっていた。
「とは言っても」
くすっとシルビアが笑った。
「まったくカミュちゃんも過保護だわね!見守るのも愛なのよ?」
「けど、なんとか慰めてやりてえんだ」
「じゃ、イレブンちゃんの耳元に、復活の呪文をささやいてあげなさいな」
「フッカツ?」
シルビアは笑うだけでそれ以上答えなかった。

 偉大なるガンバルディの設計によるシルビア号は、三段ベッドの大部屋ではなく、狭いながら個室がたくさんあるつくりになっている。ラムダ姉妹はせっせと個室のベッドをメイクして回っていた。
「イレブンが?元気がない?」
この忙しいのに、と書いてある顔でベロニカが聞き返した。
「そりゃしょうがないわよ。いろいろあったんだし」
「けどな、相棒としては、そこをなんとか」
 隣の個室からセーニャが顔を出した。
「私にはイレブンさまのお気持ちが少しわかるような気がしますわ」
両手にリネン類を抱えて彼女はしんみりと言った。
「そうだ、復活の呪文って、心あたりはあるか?」
ラムダ姉妹は顔を見合わせた。
「お姉さま、ご存知ですか?」
「あたしは知らないわよ?」
「お姉さまにわからないなら、そんなものはないのですわ」
ダメか、とつぶやいてカミュはため息をついた。
「シルビアのおっさんにそう言われたんだ。心配ならアイツの耳に復活の呪文を唱えてやれって」
セーニャは片手をほほにあて、首をかしげた。
「シルビアさまが?なんのことでしょう」
「シルビアさん、今キッチンでご飯つくってるんでしょ?あっ」
ベロニカは何か気づいた顔になった。
「なんだ?」
そういうことね、とベロニカは言った。
「教えてあげるから、ちょっとしゃがみなさい!」
しかたなくカミュは、七歳児の状態の彼女のそばにうずくまって耳打ちを待った。
「はあ?マジか?」
「マジかどうか、やってみればわかるじゃない」

 イレブンは、少し船尾側へ移動していた。船の行く手の方から日が上り、あたりは明るくなっていた。旅立ちの祠はもうほとんど見えなかった。
 カミュは、その後姿を見ながら甲板を歩いていった。
「イレブン」
イレブンは少し肩をそびやかしたが、何も言わなかった。
 カミュはその横に並んだ。
「みんな、食堂にいるぞ。朝飯だ」
 そう、とイレブンがつぶやいた。
「ぼく、食欲無くて」
難儀なヤツだ、と思いながら、カミュはささやいた。
「今朝は俺が作った」
 キュウ、と音がした。イレブンの胃が鳴っていた。
「お前の好きな厚切りベーコンとポテトのチーズ焼きだ」
 もう明るくなった空の下、イレブンの表情が変わっていくのがわかった。
「食おうぜ?お前の村が心配なら、食って、戦って、強くなれ。強くなったら帰ればいい」
こく、とイレブンがうなずいた。
「帰る時は、仲間が一緒だ、もちろん、俺もな」
うん、とイレブンはつぶやいた。大きな目が潤んでいたが、口元は笑っていた。
「来いよ!」
 復活の呪文はよく効いた。相棒の腕を取って、カミュは食堂へ引っぱっていった。

地上最後の質問(8/15)※はい/いいえ

 顔に、冷たい風があたった。
 勇者は両手で自分の腕をさすった。風は目の前の巨大な穴から吹き上げてくる。目を凝らしても、中に何があるのかまったくわからない。完全な暗黒で穴の深さは計り知れない。ただヒュウヒュウと風鳴りがするばかりだった。
 すべての災いの出ずる大穴、と人は言う。もともとその場所は毒の沼地に囲まれた島の地下だった。光の射さないところだが、湿気が多いためか常に薄いもやがかかっている。この空間の中央に災いの穴があり、大岩をもってその穴を封じ、見張りの兵士が二名ついていた。
 兵士の詰め所がそばにあったのだが、半壊している。寝台の前に兵士がぐったりと座り込み、同じ言葉を繰り返していた。
「私の相棒がこの穴に……ああ!」
 勇者は首を振った。アリアハン城祝勝の宴のただなかに、大魔王ゾーマが王を始め人々にむかって直接話しかけたのだ。大魔王の魔力は、封印の大岩を破り大地に亀裂を入れ、この穴を通り抜けたのだろう。そしてその時、兵士の一人はこの穴へ落ちたらしい。
 まず、助からない。言うに言われない言葉を、パーティは了解し合った。
 勇者は無言で立ち上がった。
「一回、アリアハンへ戻ろう」
「おい!」
咎めるような声を上げたのは体格のいい女戦士だった。
「一回って、毎度毎度同じじゃないか。帰ってどうすんだ、え?」
勇者はうつむいた。
 パーティがこの大穴を見に来たのは、この日が初めてではなかった。ラーミアの背に乗って何度もここを訪れ、そしていつも勇者は決断しなかった。
「簡単に決められることじゃないよ」
「だからって!」
女戦士は勇者の肩をつかんだ。
「このままにしておけないだろう!アリアハンの王さまだって心配しているんだぞ」
「放せ」
勇者は振り払おうとした。が、チカラでは戦士が上回る。
「はいかいいえで答えろ!おまえ、大魔王と戦う気があるのか?」
 きっと勇者は顔を上げた。
「その“はい”と“いいえ”の間に、どれだけ幅があると思ってるんだっ」
その口調の激しさに、女賢者と武闘家は顔を見合わせた。
「このままでいいわけがない。でも本気で大魔王を討伐するなら、ここへ飛びこまなきゃいけないんだ。中がどうなっているかなんて、まるっきりわからないところへ!」
女戦士は顔をゆがめた。
「怖気づいたか!」
「ああ、怖いさ!」
言い争う二人を、まあまあ、と女賢者と武闘家が引き離した。
「ちょっと頭を冷やした方がいい。なあ?」
武闘家が戦士を連れていく。勇者は穴のそばに腰を下ろし、立てた両膝の上に両腕を重ねてため息をついた。同じように座り込んで、賢者が話しかけた。
「ほんとはわかってるんでしょ?」
「何をさ」
「あの娘が言ったことよ。あの娘はあんたに、“はい”と“いいえ”の間にあるグレーゾーンを切り捨てる覚悟を持て、って言ってるのよ」
勇者は重ねた腕の上に自分の顔を押し付けた。
「そんなことできるわけがない。ぼくひとりなら何があっても、悲しませるのは母さんとおじいさまだけだ。でも、みんなを巻き添えにはできないよ」
ふう、とまた、ため息が出た。
「いっそルイーダさんのところへ行って、パーティを解散しようか。そうすれば」
「バカじゃないの?」
女賢者は、ばっさりと切り捨てた。
「何ヒタッてんのよ。聞いてる方が恥ずかしいんですけど?」
元遊び人の彼女は、こういうときに何の遠慮もなかった。
「ひとつ。危ないから巻き添えにできないってンなら、アンタ最初っから一人でアリアハンを出りゃよかったじゃないの」
「それは」
「一人じゃナジミの塔にも入れなかったから、あたしらをスカウトしたんでしょ?ふたつ、中はなかなかヤバいでしょうよ。でも落下の衝撃で死ぬかもって言うなら、着地直前にあたしがルーラしてあげるわよ。飛びこんだからって必ず死ぬわけじゃないじゃん」
「でも」
「少なくともようすは観察できるわよね?」
「そうか」
勇者は考え込んだ。
「みっつ」
と言ったまま賢者は口ごもった。
「三つめは何だい?」
女賢者は咳払いをした。
「アンタがひとりで逝ったら、悲しむのはお母さんとじいさまだけじゃない」
それきり彼女は黙り込んだ。
 数秒たってから、やっと勇者は、え?と間抜けな声をたてた。
「え、じゃないわよ。あたしら、みんな」
ペラペラとよく回っていた舌が、突然ぎこちなくなった。
「哀しくてさ、後追いとかするわよ。例えば、この穴へ飛びこんじゃうとか」
 勇者は、まだ答えなかった。その代り、両手で顔をおおった。肩が細かく震えていた。
「おい」
遠慮がちな声をかけて、武闘家が女戦士を連れて帰ってきた。
「そっち、どうだ」
女賢者が立ち上がった。
「うん……。ねえ、どうなのよ」
やっと勇者も立ち上がった。
 彼に向かって、女戦士はわずかに頭を下げた。
「さっきのは悪かった。ちょっと、言い過ぎた」
 勇者はまっすぐに彼女を見た。
「もう一回聞いてくれ。はいかいいえで答えるから」
 はっとした表情でパーティはリーダーを見た。
 女戦士はごくりと喉を鳴らした。
「大魔王と、戦う気が、あるか?」
 勇者は片手のひらを胸につけた。まっすぐに女戦士を見つめる眼、ぐっと引いた顎を見れば、彼の答えは聞かなくてもわかっていた。

おつかれさまでした(8/22)

★「ドラゴンクエストライバルズ・エース」ネタです。パスな方には、すみません。

 山々が取り囲む緑の大地を眼下に見下ろし、雲を超え天を衝く壮大な塔がそびえ立っている。
 それこそが、膨大な冒険の書を所蔵する巨大図書館「塔」であり、冒険の書の記憶から魔物や冒険者を召喚する勇士たちの戦場でもあった。
 塔の一階には広大なロビーがあった。いろいろな職業の勇士や冒険者が激しい戦いの間にここで短い休息をとるのだった。
 クラシックなホテルのような内装で、ロビーの奥には巨大な暖炉がある。冬場にはその前に並べたソファに人が集まり、湯気のたつコーヒーを楽しむ。
 夏場は一転して、街路に面した風通しのいい場所が好まれる。籐椅子のそばの丸テーブルに並ぶのはレモネードや冷やしたお茶だった。
 オーニングをさしかけて日差しを遮った席に、二人の男が腰かけていた。
 陶製の寝椅子のうえにクッションをいくつも並べた席で、ひとりは足を組んでゆったりと座っている。紫のターバンとマントを身に付けた黒髪の若者で、風が吹いて額の汗を冷やすと心地好げに目を閉じて薄くほほえんでいた。
 だが、もう一人の男は、腕を組んだままターバンの男の肩に頭を載せてよりかかり、明らかに眠たそうだった。
「喉が乾いたわ」
そう言いながら、冒険者たちがこちらへ歩いてきた。乾きを訴えたのは赤い頭巾の少女だった。
「ぼくもクタクタ。そこのバーで何か作ってもらって飲もうよ」
緑の服の少年がそう提案した。
「じゃ、俺、席取りしとくわ」
青い服の若者がそう言って、あたりを見回した。
「けっこう混んでるな。ええと」
彼の目が、紫のターバンの若者と合った。ターバンの男は、唇の前に人差し指をたてた。
(ごめんね?)
連れが寝ているので、席を空けてあげられない、の意味だった。
 青の若者は手を振った。
(ああ、疲れてんだな。いいって、いいって)
緑の少年と赤の少女がグラスの載ったトレイをもって後ろからやってきた。すぐに事情を察して、にやっとして奥へ行ってしまった。
(寝かせてあげてよ。ぼくらは別の席を探すから)
ターバンの男は、片手拝みで彼らを見送った。
 別の一団がやってきた。闘技場で一連のバトルが終わったらしい。
「今日はなんか、札の引きがいいのよ。欲しいカードがドンピシャで来るの」
華やかな美少女が浮き浮きと歩いてくる。隣にいた赤い上着の聖堂騎士は肩をすくめた。
「だからってメラゾーマどっかん、ってのは」
騒がしく言い合いながら通りすぎようとして、二人は声をひそめた。
(あら、おつかれね)
(最初はこたえるからな)
ターバンの男はにこにこしたままうなずいた。
(そうそう、初めてなんだよ、彼)
二人はうなずきあった。そのまま忍び足でその場を通っていってしまった。
 風が吹く。街路に植えられた木々から葉擦れの音がした。眠気を誘う静かな午後だった。
 いつのまにか、漆黒の凶風が吹き寄せていた。
「グランバニアの」
赤いサッシュ以外は黒ずくめの魔剣士は、威圧感のある低い声を放った。
「あまり甘やかすな」
グランバニア王ルークは恐れるふうでもなく、そっと首をふった。
( 妻子もちの三十代は疲れやすいんです)
「私がいくつだと思っているのだ」
(あなたは魔族でしょう)
「それがどうした」
ふっとつぶやくと魔王は背を向けた。
「修行が足らんな」
そう言い捨てて歩き去った。
 ルークはその背に向かってささやいた。
(慣れないバトルにヒトは緊張するものなんですよ)
 真下から小さな声で抗議があった。
「緊張なんかするか、バカ」
「ヘンリー、起きてたの?」
そう言って顔をのぞき込もうとすると、ヘンリーの手のひらがルークのあごを下から支えて押し上げた。
「見るな」
横目遣いに見下ろすと、友達の耳のあたりがちょっと赤くなっているのがわかった。この角度から見ると、皮肉な表情や苦労の貫録を伝えるしわが見えなくなるので少年のころの幼い顔に見える。
「やっぱり起きてる」
そう言って、ルークはくすくす笑った。コリンズそっくりの唇が尖った。
「うるせぇ。俺はただ、ちょっと、その」
 ルークは腕を回し、あやすように背をさすった。
「わかったよ。次の召喚が来たら起こしてあげるから休むといい」
ヘンリーは沈黙した。そのままゆっくり体重をあずけてきた。
「あと五分したら起こせ」
「はいはい」
こないだから、戦い続けだったもんねえ、とルークは思った。
(親分、おつかれさま)
と、心の中でつぶやいた。

冒険の書(8/29)

 ローレシア城一階の奥に、城内礼拝堂が設けられている。そこは静かな祈りの場なのだが、その日は特別な客を迎えていた。
 礼拝堂の入り口から祭壇まで、床には美しい彩色タイルで模様が描かれている。タイルを踏んで、濃紺のダブレットに毛皮の縁取りのあるマントをつけ、額に金環をはめた若い男がゆっくりと祭壇まで進んできた。彼の手の上には、青い革張り金の留め金付きの本が載っていた。本の表紙に描かれているのは、霊鳥ラーミアだった。
「正しき神は、正しき者の味方なり」
老いた神父は、そう告げた。
 先日王位を継いだばかりの若きローレシア王は、かすかにあごを引いた。
「ローレシア王ロイアルは、正しき神に冒険の書をお返しする」
 こほん、と神父は咳払いをした。
「冒険の書返納に際して、お尋ね申し上げることがある」
かつての勇者ロイアルは、昂然と顔を上げた。
「なんなりと」
「汝、クエストの間に、勇者にふさわしからぬ振る舞いはなかったか」
儀式的な口調で神父は続けた。
「汝、己の実力を不当に高く評価してはいなかったか」
 勇者たちは神父に己の行動を申告し、委細は冒険の書に記録される。それは勇者と神父の間の守秘義務で守られているので、旅の間のパーティのようすはローレシア城内でも詳しく知るものはほとんどいなかった。
 礼拝堂にはステンドグラスを飾った大きな窓から日がさしていた。クエストを成功させた若き勇者を、祭壇の斜め前で身分の高い壮年の男性が見守っていた。ロイアルの父、ローレシアの先王だった。
 俺は、とロイアルは言い始めた。
「剣だけは誰にも負けたくなくて子供の頃から修行してきた。だが、いざ一人で広野に立ってみると、モンスターに囲まれてあっというまにボコボコにされた」
一人息子を旅に出して以来、父王の笑顔や口数が減ったことを神父は知っていた。無事にロイアルが戻ってきた時、その成長をしみじみと味わっていたことも察せられた。
「一人の旅は危うい。人は本当に弱い。最初にそれを思い知ったことで、俺は少し謙虚になれたと思う」
 神父は再び問いかけた。
「汝、長旅の辛さに己の運命を呪いはしなかったか」
 祭壇をはさんで老神父とロイアルは向き合っている。神父にはロイアルの背後に立つ来賓がよく見えた。一人は、深緑のダブレットに身を包んだ、隣国サマルトリアの王子サーリュージュだった。
「勇者よ、靴をいくつ、履きつぶした?飢えて木の根をかじったことはあったか?乾いた喉でただ歩き続けたことは?もっと楽な道があるはず、やめてしまえばずっと楽なはずと、思いはしなかったか?」
 サリューことサーリュージュがほかならぬロイアルを訪ねてこの城を訪れた時のことを神父は覚えている。どことなく不安定な少年、と見たのだが、今の王子は揺るぎない自信と新たに目ざめた責任のために、貫録さえ感じさせる存在だった。
 ロイアルが答えた。
「飢えも疲労も、果てしない旅の徒労感も俺は知っている。だが、俺には仲間がいた。俺の疲れも飢えも共感してくれる血のつながった仲間がいた。俺が一人だったら、きっと挫折していたことだろう」
 サリューは、口元に微笑みを浮かべ、深くうなずいた。
 三度神父は問いかけた。
「汝、才ある者をうらやみはしなかったか」
 ロイアルの背後、サリューと並んで立つのは、暗赤色のガウンをまとうムーンブルグの王女アマランスだった。
「勇者よ、いかなる思し召しにか、精霊ルビスは汝に魔力を与えなかった。魔法の才ある者たちに、ふくむところはなかったか」
その問いに、はっと息を呑み、きつい目で神父を見たのはロイアルではなく、アマランスだった。
「最初は、辛い思いをした」
とロイアルは答えた。
「俺の剣で断ち切れないモンスターを、魔法はたやすく燃やし尽くす。その理不尽にやるせないときもあった」
ふいにロイアルは微笑んだ。父王に似てニコリともしない無骨者とささやかれているが、彼の笑顔は太陽の輝きをもっていた。
「今は、知っている。なぜ精霊女神が俺に魔力を与えなかったかを。そして魔法の使い手には使い手の努力があることも。妬みも含みもない」
 アマランスは怒らせていた肩を落とし、小さく息を吐いた。この若者は、こうして王になっていくのだろう、と老神父は思った。潔く言いきるロイアルの声には、惹きつけられるような明るさがあった。
「最後に尋ねる。勇者よ、冒険の書を返納して勇者の位を降りる今、汝は何を思うか?」
 ややうつむき、しばらくロイアルは黙っていた。
 冒険の書返納には親族として父王、来賓としてサマルトリアの王子とムーンブルグの王女が立ち会っているが、城内礼拝堂の後ろの方には着飾った貴族名士がつめかけていた。ロイアルの沈黙が長引くにつれてそこからざわめきが起こった。
 ゆっくりロイアルは顔を上げた。
「冒険はいつか終わる。俺は勇者ではなくなる。それでも俺はきっと、クエストの日々を忘れないだろう。ずっと年老いて、死の床にあっても、懐かしく思い出すだろう。あのころたしかに俺は勇者だった、最高の日々だった、と」
そうして最後まで記入を終えた冒険の書を丁寧に祭壇へ置いた。控えめに、慎ましく、やがて堂々と、朗々と、城内礼拝堂に拍手が沸き上がった。