E.F.Bのためのメモ

「E.F.B~恒久の氷結~」 〔byパンドリストP様〕二次創作……になる前のメモ

原曲歌詞
(by不特定多数vippers)
イメージ
涙の雨 黄昏は微笑み
闇に溶け込む 罪と罰
Response to a lie...
華麗に咲く 紅い薔薇は
命の華 無情の棘
薄暗い湖?
カメラは青い水面すれすれを疾走していく
中央の十字架の柱へ近づく
十字架に重ねられた白い足は棘で戒められ、
血が滴り落ちて幻想の紅薔薇になり
水中へ溶けて消える
傷付いた翼は 
十字架に縛られ
光や希望は失われた
Response to a lie...
視点は十字架に沿って上がり、まわりこむ
白い翼が黒い棘で十字架につなぎとめられている。
白い服、白い翼の小天使(リツ)が黒い棘で縛られ、涙を流している。
誇り高き魂は 
永遠となり
狂気に満ちた 
悪夢を生み堕とす
画面はセピア色(回想シーン)
天から堕ちて行く大天使 驚愕の表情のアップ
翼がボロボロになり飛べない
雲海の下はてしなく落下していく
堕ちる天使はけし粒のよう
絶望と哀しみを 
心に秘めて
苦痛に乱れる 
負の記憶
And turned all fort blitz warm...
画面はダーク 上半身を氷に閉じ込められた↑の天使。目はうつろになり口元には狂った笑いを浮かべている。
リツの泣き顔が重なる。リツは堕とされた大天使(ルシフェル)のために嘆く。縛られているためにうつむいている。

 暗青色の水面に、ひっきりなしに波紋ができていた。水面は広大だった。しのつく雨は絶え間なく降り注ぎ、見渡す限りの湖面に百万のミルククラウンを作りあげる。それはすぐに砕け、波紋となって暗い湖の表面を同心円模様で覆っていた。
 それは地底の湖か、あるいは信じられないほど巨大な井戸の底のように見えた。水面近くに闇は蟠り、大気はそもそも黄昏の色をしていた。
 青みがかった鋼の色をした水面は波紋のほかは波もなく、ただはてしなく広がっている。波紋から波紋へ糸のように細い輪は広がり、干渉しあって消える。一番外側へ広がった輪のさらに前方はるかに、異物が見えた。
 遠くから見ると異物は水面に突き出した棒切れだった。が、距離を詰めていくと、かなり高い柱であることがわかった。
 その後ろに水脈を引くような勢いでそれは水面すれすれを疾走する。視界の中央に柱が大きく迫ってきた。
 それは大きなカーブを描いて水面を回り込んだ。柱ではない。黒々として金属的な光沢を持つそれは、十字架だった。
 架上には一人の囚人がとらわれているようだった。きゃしゃな体つきの白い人影だった。十字架中央の柱に、その人影は縛り付けられている。本来横木には左右の腕が置かれるはずだが、腕はその人物の体幹ごと柱に縛られていた。鎖でもなく、縄でもない。凶悪な太いとげを持つ荊が肩、腹、腰、足を柱ごととりまいて締め付けていた。
 横木には背から生じた翼がやはり荊で固定されている。咎人をことさら苦しめたいかのように、荊は水面の底深くから十字架へと巻き上がり、細身の身体をぎりぎりと締め上げた。
 未成の細い身体である。色白の肌には白い薄物をまとうのみ、髪はプラチナでくせのない長髪、肩を過ぎる長さがあった。が、男女どちらの特徴もなく、荊に痛めつけられている翼は純白だった。架上に戒められているのは、一人の小天使だった。
 天使はうつむいていた。荊の刺はその身体に食い込んでいる。天使が嗚咽を漏らすたびに身体はかすかに身じろぎがする。そのたびに刺は皮膚にいよいよ深く食い込んで鮮やかな赤い血の色をその肌ににじませた。
 天使の身体のあちこちから流れた血液が、愛らしい足のつま先の下で一筋の流れとなり、柱を伝って水面へ流れ込む。水面に触れたとたん、それは一瞬、紅の薔薇となって花開き、すぐに溶けて湖へ飲み込まれていった。

 その男は激しい驚愕の表情を浮かべたまま、墜落していった。
 容姿の優れた男だった。人を惹きつける明るさ、華、そして覇気をあわせもっていた。
 体格にもめぐまれていた。胸は厚く、肩は広く、足は長く、上背もある。彼の仲間はその姿とともに、声をも愛していた。朗々として滑舌にすぐれ、力強い。天を指して神の言葉を語るとき、地を示して人の和を説くとき、仲間たちはうっとりと聞きほれたものだった。
 卓越したカリスマは、その周囲に友達や同調者、ほとんど信者に近い者たちを集めずにはおかない。
 それはある日、そういった者たちの目の前でとうとつに起こった。
 神の怒りに触れた……それを見ていた者は、そうとしか考えられなかった。
 衆に優れたその男が、厚い白雲の縁から弾かれるように飛び出したのだ。仲間たちはあわててその場へ駆け寄った。
 端麗な顔立ちが驚きにゆがみ、その手は雲をつかもうとむなしく天へつきだされている。
 背に負ったはずの翼を彼は開こうとした。が、白翼は空気に触れたところから砂と化して崩れていく。
 焦りと絶望に男の顔はゆがんだ。
 位の高い大天使として、彼は左右三枚、合わせて6枚の翼を持っている。だが大天使の証である六翼がすべてぼろぼろに崩れ去り、信じた神からの救いの手はない。その男は、そして雲の上の天使たちは、ひとつの裏切りが行われたことを知った。
「ルーシフェール!」
 小天使が飛び出そうとした。その腕を他の天使がつかんでとめた。
 堕天使は落下していく。純白の雲上の世界から傲慢の罪を得て一人はじき出され、はるか地上へ、さらにその下の世界へと。
 もしその堕天の情景を遠くから見ているものがあったなら、あれはいったい何だといぶかしんだことだろう。天界から地獄の落差はあまりに大きい。垂直に落下していく姿は芥子粒のようにしか見えないのだった。

 大罪に数えられるものは七つという。その中でもっとも重いとされるのが、傲慢の罪だった。
 思い上がること。
 己の力は神をもしのいだと、愚かにも思い込むこと。
 神よりも、秀でることそれ自体。
 “傲慢”は大罪であった。光そのものであった大天使が恐ろしい刑罰を受けなければならないほどに。
 彼の獄舎は地獄の最底辺だった。神の恩寵はもとより届かない世界である。そこには大地はなくぶ厚い氷の層があるだけだった。光もなく、ぬくもりもなく、大気そのものが刃となって皮膚を切り裂いていく。あらゆるものが凍りつき、死の静寂がその場所を覆っていた。
 堕天使の身体は、胸から下を厚い氷に閉じ込められていた。明るかった瞳はうつろに見開かれたままだった。唇はだらしなく半開きになったまま、血と涙と唾液がいりまじって彼のあごから流れ落ち、すぐに凍りつく。このまま最後の審判が近づくまで、彼はこうして留め置かれることになっていた。
 動かないはずの身体が、一瞬みじろぎした。呆けた瞳に光のようなものが宿った。
 サタンが、顔をあげた。

原曲歌詞
(by 不特定多数vippers)
イメージ
涙の海 静寂は微睡み
闇に蠢く 咎と律
Response to a lie...
幽かに射す 蒼い灯火(あかり)
零下の華 無情の光
青い水面に大きな波紋が起きる。
水面不定形の何か(透明なルシフェル)がうごめき、リツを守るように立ちあがる。
上空から指すかすかな光に反射してやっとそれがいることがわかる。
凍てついた心は
運命に縛られ
――願いや理想は失われた
Response to a lie...
場面は明るい雲の上 はっとして顔を上げる四大天使:ラファエルの驚愕、ミカエルは苦渋、ウリエルも目を見開く  ガブリエルが無表情に神意を告げる
(リツ=小天使はおとり)回想:天使長ルシフェル
罪深き魂は 
煉獄へ堕ち
恐怖に満ちた 
輪廻を繰り返す
天軍主ミカエル出陣 白雲のふちに立って、大剣を抜き放つ
地獄の底では堕天使が上を見上げて不敵に笑う 
武器を手に大天使たちが次々と雲からダイブ
ミカエルの腰には終末のラッパがある
絶望と哀しみに
心を閉ざし
孤独に震える負の記憶
Everlasting force, do it there...
雲を割って降下していく天使の一軍
カメラは大天使たち個々の苦渋の表情から群れの真横、俯瞰、背後と回り込む
★渡り鳥の大群のようなスケールで

 黒い十字架の湖に震えが走った。さきほどから小天使を見守っているそれ、もう己が何者かすらわからなくなった哀れな魂が振動している。暗く青い湖に波紋が生じた。それは他の小さな波紋を圧倒する力で次々と波を広げていく。不気味なさざなみが生まれ、広大な水面全体を覆った。
 闇に沈んだようなその湖面には、ごくわずかながら光源があったようだった。水中に撒き散らされる細かい水滴がかすかに蒼く、ちらちらと輝いている。その輝きはしだいにひとかたまりに収束していった。
 盲いた者のようにそれはゆっくりと、まるで手探りをしているかのように動き出した。
 ざざ、と湖面が音を立てる。十字架の白い天使がその音に気づいたのか、眼を開いてあたりを見回した。

 身の内を悪寒が貫く。
 大天使ミカエルは、はっとして息を飲み込んだ。清浄のなかの清浄、光輝の中の光輝の世界であるこの天界において、悪寒に震えるなどかつてなかったことだった。現在の天使たちの長、ミカエルは、思わず腰に手を伸ばした。ベルトから吊っているのは、細長い楽器だった。この世の週末を告げるラッパである。
ミカエルは立って辺りを見回した。
 雲の上にあってなお、天界は地上でいう気候とは無縁の世界である。主の膝元にもっとも近い清らかな空間だった。雲の大地は白い光に照らされ、ミカエルをはじめ4名の大天使をかしらに多くの御使いたちが神の栄光を知らしめる為に日々の営みにつとめていた。
 穢れも屈託も知らぬ幼い小天使たちは何もわからずにただ愛らしい表情のままだった。
 そのなかにひとつ、不安にさいなまれる顔があった。癒しの天使ラファエルだった。絹のような繊細な髪を彼は長く伸ばしている。聖女めいた優しげな面立ちにラファエルは言いようの無い不安を浮かべていた。
 ミカエルは彼に向かって小さくうなずいて見せた。
「天軍主」
誰かがミカエルを呼んだ。髪の短い精悍な雰囲気の男、破壊の天使ウリエルである。4大天使のなかではもっとも冷静でむしろ表情に乏しいこの男が、あからさまな苦渋の表情を浮かべていた。
 ウリエルが口を開きかけるのをミカエルはしぐさでとめた。
「御心をうかがわなくてはならぬ」
三人の視線は自然と4人目のの大天使ガブリエルに向かった。ガブリエルは四大天使のなかで最も小柄で少年めいた姿かたちをもっていた。王侯に仕える育ちのいい小姓のように前髪を外側へはねた独特の髪形をしている。お告げの天使として知られるガブリエルは、その唇から主の意志を告げる役目を負っていた。
「あれがあらわれた」
ガブリエルの視線は動かない。無表情のまま大天使は天界の主の言葉を伝えた。
「天の軍勢を率いて、ただちに討ちはたせ」
「御心のままに」
ミカエルはうやうやしく答えた。
 お告げを終えたガブリエルが、彼本来の表情に戻りミカエルを不安そうに見上げている。ミカエルは首を振った。
「こういう時が来ると、わかっていたはずだ」
一瞬、泣きそうな目でガブリエルは背の高い天使長を見上げた。
 ミカエルは眼を閉じた。
 ミカエルの前任の天使長ルシフェルの、人を惹きつけずにはおかないカリスマに、彼自身憧れをもっていた。光そのものである笑顔を、熱っぽく説く声を、ミカエルはよく覚えていた。
 しかし。
 ミカエルは意を決して雲の縁に歩み寄った。事情を知らぬ小天使たちは、雰囲気を察して雲の内奥にある宮へ逃げ込みおそるおそるこちらをうかがっている。そのかわりに武器を手にした天の軍勢が集まって来た。
 天軍主。ミカエルこそ、創造主が魔王を懲らすために召集する天の軍勢を率いる役目を負う、剣の天使だった。
 下官が捧げる剣をミカエルは手に取った。白雲の縁に立ち、下界を一望し、鞘から燃える炎の剣を彼は抜き放った。
「続け!」
サンダルが白雲を蹴った。巨大な翼が音を立てて開いた。自らの体を空中へ投げ出したミカエルは、高い霊性と翼の双方で風をとらえた。彼の背後からまず大天使たちが、それから天の兵士たちが次々とダイブしていく。天の軍勢は囮をつないである黒い十字架の湖をめがけてまっすぐに降下していった。

 そのとき地獄を上から見下ろしていたものがあれば、恐ろしいものを見たに違いない。もっとも罪深きもの、あらゆる悪の王たるサタンが、醜悪な顔をまっすぐ上に、天に向けて、なんとも邪悪な笑みを浮かべたのだから。にやりと笑った青黒い唇から牙がのぞき、憎しみと怒りにきらめく瞳が迫りくる天使の群れを地獄の底からねめつけたのだった。

 天の軍勢の前に鳥たちはうやうやしく進路を譲った。もとよりそれは、壮大な渡り鳥の大群にも等しいスケールだった。
 先頭切って飛んでいくミカエルは手に抜き身の剣をかざしたままだった。深い悲しみが彫の深い顔立ちに憂いを与えてはいるが、己に課せられた責務をミカエルは心得ていた。
 背に矢筒を背負い弓を手にして斜め後ろをラファエルとガブリエルが行く。かつて仲間であったもの、それも尊敬する先達でありリーダーであったものを討とうとすることに哀しみをおぼえないわけではない。しかし目に浮かんだ涙も激しい飛翔のうちに飛んで消えて行った。
 一人ウリエルは後方に位置していた。哀しみも絶望もウリエルは共有しているが、ルシフェルの実力を知っている彼はもうひとつ、強い懸念も抱いていた。
 神意によりミカエルに従って降下する天兵は、天界の三分の一にのぼる。剣なり槍なり弓なりにひとかどの腕前を持つものばかりだった。簡単な甲冑を身につけ、背からはむろん大きな翼を生じている。大きく羽ばたいて進む姿は雄々しく豪快だった。
 彼らは先頭から長く連なっていた。鳥などが併走していれば、何枚もの白い翼が力強い音をたてて同時に羽ばたき、武器防具の刃が白銀に輝くのを目撃したことだろう。それが鳩などではなくもし鷹だとしても、ミカエルが飛来してから群れ全体が通り過ぎるまでを視野におさめきることはできなかったかもしれなかった。
 長大な天使の列は、背面に天界の光を浴びて旋回するように降りて行く。数百という数であるのに一つの生命体のように見事な動きだった。
 天軍主ミカエルが、何かを見つけて眉を動かした。剣の切っ先を下げて部下たちに合図を送る。新たな勢いを得て天使の群れは猛禽のように地上へ突入していった。

原曲歌詞(by 不特定多数vippers) イメージ
  上空を見上げるルシフェルとリツ:敵が迫ることを認識している。
極寒の地の氷の神よ、
我に力を与えたまえ。
歌声は氷柱、氷柱は剣。
身を貫きし氷の刃よ、
今嵐となり我が障壁を壊さん!
ルシフェルとリツの唇が同時に動く。
上から半透明の白い巨大な剣がゆっくり下りてくる(両手持ちのごつい大剣)
囚われの堕天使――
La La La...
中央でダイヤモンドダストとなって爆発
青い粒子はきらめき、渦を巻く。やがて激しさを増す

 鳥の大群が渡っていくような羽音が地底の青い湖に響き渡った。水面から立ちあがった幻は中央の十字架にたどりつき、縛られている小天使を守るように背後からそっと抱いた。
 かすかな光に照らされて明滅する幻影を小天使は首をまわして見ようとした。喉にまわされた棘のとげがくいこみ、また血がにじみだした。幻の存在は、半透明の指で小天使のほほを撫でた。
 それは醜悪なサタンの貌ではなく整った顔立ちの若者だった。悲しげな表情で幻は小天使を抱きしめた。
 天使の羽音は近づいてくる。堕天使の幻影と十字架の囚人はその音に耳をすませ、空中を見上げた。
「……」
声なき声が、何か囁いたようだった。小天使は首を振ろうとしたが、棘にさえぎられてそれもできなかった。
「(さあ)」
もう一度うながされて小天使はやっと顔をあげた。その眼に涙があふれ出た。
小天使の淡い桃色の唇が背後の堕天使の幻と同調して動きだした。

極寒の地の氷の神よ、
我に力を与えたまえ。
歌声は氷柱、氷柱は剣。
身を貫きし氷の刃よ、
今嵐となり我が障壁を壊さん!

 呪文と同時に蒼い薄闇の中に現れ出たものがあった。巨大な剣のように見えた。柄はシンプルな十字型、戦士が両手でつかんで振りまわす両刃の大剣である。実体ではない。それは乳白色の半透明に輝いていた。
 巨人の得物のようなその剣は切っ先を下に向けて宙に浮いたまましばらく明滅していた。位置は棘の十字架の真上である。見上げる小天使の上に幻の剣は静かに降下してきた。
 次の瞬間、それはいきなり爆発し、空中で雲散霧消した。きらきらと光る瑠璃の破片のようなものがあたり一面に漂う。やがてそれは渦を巻いて動き出した。
半透明の堕天使の幻は声もなく笑った。

原曲歌詞(by 不特定多数vippers) イメージ
気高き魂は 
言霊を得て
瘴気に満ちた 
悪夢を振り解く
黒い棘が凍結して砕ける。天使の翼は溶け落ち白いロングヘアは鮮血の赤に、白い衣は喪服(黒のセーラーブラウス、三段スカート、ベール付きの帽子)へと変化する。瞳はマジョーラカラーリツのデフォルトスタイルの完成まで
絶望と哀しみに 
氷結(こおり)を纏い
彷徨う魔力(ちから) 解き放つ
エターナルフォースブリザード……
青い奔流は迫りくる天使の一軍に正面からぶち当たる。驚きあせる天使たちの顔のアップ 雑魚天使は次々と凍結して落下していく。大天使はさらに武器を掲げてリツに迫る。円盤状の魔法陣がリツの周囲に生まれる。目が吊り目がちになり、顔には暗黒の微笑み。哄笑とともに魔力が高まり、究極魔法が発動する。

 輝く粒子の渦は棘の十字架を巻きこんだ。
 黒い棘の表面に霜がびっしりとつき、たちまち凍りついた。冷気は湖面にもつたわり、十字架の周囲に薄氷が張った。
 びし、と音をたてて棘の一部が砕け散った。すでに戒めの棘は小天使を縛り上げる力を失ったかのようだった。
 囚人は放たれた。
 それはもう小天使ではなかった。
 横木にくくりつけられた白い翼が砂と化してこぼれおちた。
 淡いプラチナの長髪は、鮮血の赤に染まった。
 薄い水色の瞳も、瞳孔から色を変えていく。緑とも紫とも紅ともつかない入り混じった複雑な色合いで、角度によって異なって見えた。
 そのまなじりがきっと吊りあがった。壮大な羽音が近づいてくる。天使の軍勢が到着したのだった。
 薄闇の中を炎の剣を構えたミカエルが突進してくる。
「遅かったか!」
大天使の唇から痛恨の叫びがもれた。
 堕天使の幻はかつての仲間に嘲笑を浴びせると、小天使だった者に覆いかぶさり、そのなかへ吸い込まれるように消えてしまった。
「やむなし!」
ウリエルが叫んだ。
「あれはすでに一個の魔性!重ねて貫くべし!」
 まさしくそれは魔性であった。清浄な白い薄衣が彼らの目の前で黒く染まっていく。黒いセーラーブラウス、白のペチコートに重ねた黒の三段スカート。
「あれは、喪服か」
ミカエルはつぶやいた。その声を聞き取ったかのようにどこからともなく黒サテンのトークハットが現れて彼女の髪にかぶさり、あてつけのように黒ベールを顔の半ばに垂らした。
「御心のままに!」
闇の中から炎の剣が襲いかかった。喪服の少女は恐れてはいなかった。十字架上空に浮かんだまま、邪悪な微笑みを浮かべた。
 小さな手が剣を留めるかのように上がった。その手につられてさきほどからこの空間を満たしていた蒼い粒子が激しく渦巻いた。
「おおっ」
 悲鳴は天の軍勢の中からあがった。すさまじい勢いで冷気をぶつけられ、武器を構えた天使たちが瞬間的に凍りついたのだった。ミカエルさえ剣を掲げてその陰で顔を覆い、やりすごすしかなかった。彼の周囲に大天使たちが集まっている。甲冑では寒さを伏せぐことはできない。創造主から剣に下賜された炎ですら、けし飛びそうだった。
「あはははは……」
狂った笑い声が響いた。
「このていどでもう耐えられないのか。意外にもろいな」
魔性の少女は勝ち誇っていた。
「退けぬ!」
四大天使は一斉に飛んだ。喪服の少女の前後左右に散ったのだった。それぞれの武器を掲げて彼らはいちどきに襲いかかった。
「はっ」
少女はあからさまに嘲笑した。甲をたれたまま、舞い手のように優雅に両手を開いて肩の高さにあげた。周囲に青く輝く魔法文字が円を描いて現れた。次の瞬間、手のひらを外側に向けて気合いを放った。
「とくと味わえ、エターナル・フォース・ブリザード!」