あなたに夢をあげるから 第一話

「時のオルゴール」 〔by雨傘P 様〕二次創作

 その日は、週に二度ある可燃ごみの日だった。
 結び目を片手につかんでドアを開き、見慣れた廊下をのそのそ歩いてワンルームマンションのゴミ捨て場へ向かった。ほとんど惰性と化したそのゴミ捨ての間、頭の中で考えていたのは今日の仕事のあれこれ、職場の先輩が結婚するのでその祝いを考えること、そろそろガソリンを入れなくてはならないこと、昼飯をどうするか、そもそも食っている時間があるだろうかなどという、ありふれたことばかりだった。
 その日がやや曇りだ(予報じゃ夜から雨だと言ってたな)とか、隣のアパートで犬が吼えている(ネコでもいるのか?ああ、うるせえ)とか、向かいの一軒家の玄関の鉢植えの花がやっと咲いたなどは、見たり聞いたりはしているものの、心の表面をうっすらとかすめていくだけだった。
 ゴミを捨てて空いた両手を腰に当て、サンダルをひきずるようにして部屋へもどった。出勤までにコーヒーをもう一杯飲めるか?今日は渋滞するかもしれないから、それも無理かもしれない。自分の部屋がある階へ戻ってきたとき、考えていたのはどこで缶コーヒーを買おうかということばかりで、廊下の突き当たりに誰か立っていることに最初は気付かなかった。
 それはスーツ姿の若い女性だった。寝ぼけたような目で彼はその女を見た。
このワンルームマンションに住んでいる人間をすべて知っているわけではないが、彼女は住人ではないと思った。もし同じマンションに住んでいるなら、今まで気づかないはずがないような美人だった。
「Excuse me, but ……」
「は?」
 ねぼけた頭がまだ事態を把握できていない。舌がしびれたようになって、え、とか、へ、とか情けない声がもれるだけだった。
 モデルめいた姿勢、にこりともしない美人顔、髪は赤みがかった金髪でうなじを見せてアップにしている。スーツはスタンダードな濃紺だが、カットがいいらしくシルエットがすっきりしている。媚びのないビジネスライクな白いシャツの襟の間からきれいな鎖骨がのぞいていた。
「ちょっ、お兄ちゃん!」
いきなり後ろから怒鳴りつけられた。
「何やってるの、ちょっとぉ!」
あわてて振り向いて、怒鳴りつけている若い娘がまぎれもなく自分の妹だとわかるまで、また数秒かかった。
「めぐみ?なんでここにいるんだ?」
大学を出てから同じ東京にいるとは知っていたし、時々電話もきたが、生身の妹にはずいぶん会っていなかった。が、めぐみは憤慨しているようだった。
「なに、そのかっこ!」
出勤前なので、ジャージに古いTシャツ姿だった。
「ゴミ捨てくらい、何着てたっていいじゃねえか」
正面であの美人がじっと見つめていた。
「この人、知り合いか?」
「そうそう、あんにゃさ、お客様こと連れてきたの。家、掃除してある?」
「いきなりたんまげるらろうが。先に連絡ぐらいしろよ」
「急な用なのよ。あんにゃさの仕事のこと」
ふんっ、と小鼻からめぐみは息を噴き出した。
「あんにゃさはれっきとした刑事で、人探しはプロらてばってゆーたの」
そんなおだてに乗るかと思った。
「おれはへー出るところだぞ」
「いいじゃない!相談に乗ってよ!たった一人の妹が頼んでるんねっか!」
「今日は道路も混んでるし、遅刻しそうら。ほんきに困ってるなら、近くの交番へ行ったほうがよくないか?」
女子中学生のころとまったく変わらない顔でめぐみはぷうとふくれた。
「あんにゃさなら頼りになると思ったのに」
「何言ってるんら。ここんとこ、メール一つよこさなかったくせに」
「あたしは忙しかったの!」
「父さんも母さんもおまえのことが心配になると俺に電話してくるんだぞ?」
話がまずい方角へ行きかけたとめぐみは悟ったらしい。
「知らんねわよ。それより、家、入れてよ。真剣に相談したいことがあるの。このしょ、会社の先輩で、巡音流花さん」
スーツの美人がきれいな唇を開いた。
「巡音です。朝早くから申し訳ありません。お願いしたいことがあってきました」
なんだか、上手な吹き替えつきで洋画見てるような気がする、と彼は思った。じっと眼を見て彼女は訴えた。
「オルゴールを持った男の人を、探していただけませんか?」

 職場に電話して事情を説明すると、彼は椅子の上で座りなおした。正面には巡音流花が座っていた。
「めぐみちゃんのお兄様に無理をお願いすることになりまして、申し訳なく思っております」
話すときじっと見つめるのは彼女の癖なのだろうか。あわてて彼は手を振った。
「“お兄様”っていうのは、どうか、その、“神威さん”くらいで」
流花は不思議そうな顔になった。
「すみません。日本語の細かいニュアンスは、まだつかめないところがあります」
横にいるめぐを見ると、彼女はうなずいた。
「流花さんは帰国子女なの。うちの社の貿易部の期待の星よ」
「お茶くみのおまえとはえらい差だな」
「広報部ことなめるなよ?」
兄妹が顔を合わせるとつい郷里の言葉が飛び出してくる。
「お互い忙しいし、本題に入るからね。流花さんの知り合いの人が、いなくなっちゃったの」
「彼の名は川元雄治さんです。×××というメーカーの営業社員で、うちの会社と取引がありました」
流花はテーブルの上にA4のクリアファイルを置いた。何枚かのメモといっしょにその男の写真も入っていた。背が高く、体格のいい若い男だった。
「あれ」
「何か?」
「勘違いだったらすいません。なんとなく見覚えがあったもので」
 まじめな顔で流花は聞き返した。
「何かスポーツをやってらっしゃいますか?」
「商売柄、柔道を少し」
「雄治さんは大学野球のエースでした」
神威はあっと思った。
「六大学のスターだ。たしか甲子園でも優勝しましたよね」
「はい、でも交通事故でプロになることは断念しなくてはならなかったそうです」
「それは、また、さぞ残念だったでしょうね」
「でも、それはずいぶん前のことです。結局大学を卒業して、このメーカーの社員になり、まじめに仕事をして社内でもそれなりの評価をしてもらっていました」
おそらくもう何度も事情を説明しているのだろう。流花の説明は簡潔でよどみなかった。
「サラリーマンが失踪する原因は、経済的なもの、仕事の行き詰まり、周囲の人間関係がトップ3ですが」
「預金通帳を拝見したことがありますが、きちんと貯金されてました。昇進の話もあったし、職場の方ともいっしょにお食事をしましたが、みなさん仲良しのようでした」
「それでは、なぜ」
と言いかけて、おそるおそる聞きなおした。
「その、巡音さんは、その方の」
人は普通、単に取引先の人間に自分の貯金通帳を見せるだろうか。流花は、予想した通りの答えを言った。
「雄治さんと、結婚するつもりでした」
やっぱな、と思った。
「あんにゃさ、なにがっかりしてるの」
「黙ってろ。失礼ですが、川元氏と巡音さんとの間に、ええと」
「ケンカしたか、ということですか?」
「はあ、そうです。つまり、職場で成功して経済的な悩みもない男性が婚約者を置いて失踪した以上、そこのところは避けて通れないので」
ふ、と彼女はためいきをついた。
「巡音さん」
「流花と呼んでくださいますか」
流花は、手を伸ばして後頭部からコームを抜いた。薔薇色の美しい髪が落ちてきた。
「私はケンカをした覚えはないんです。でも、彼はいなくなる少し前からどこかよそよそしくなっていました。それがいやで、面と向かって理由を問いただしました。私、探りを入れたり、それとなくうまく聞き出したり、ということが苦手なのです」
流花の整った顔がくやしそうに歪んだ。
「だから、彼の家に押しかけていってまっすぐに聞きました。『どうして最近つきあってくれないの?私が何かしたの?』と」
「雄治さんの答えは?」
「なぜか彼は驚いたようでした。『そんなに会ってなかったっけ』みたいなことを言いました。でもうわのそらで、いつも何かを気にしているみたいでした」
「失礼ですが、健康上の理由ということはないですか。または、犯罪に関係することで困っていたような印象は?」
「私」
わずかに流花はためらった。
「実は疑っていたんです。私の知らないところで彼が何か事件に巻き込まれているんじゃないかって。だから、会社の弁護士に相談しに行こうと誘ったんですが」
流花は首を振った。
「急に雄治さんは顔色を変えて、今日は家から外へ出られない、と言いました。あとは何を言ってもダメで、私、最後にはむりやりドアから押し出されてしまいました。そのドアをたたいて、なんで?どうして?!と、私」
流花はうつむいて唇をかみしめた。肩がふるえていた。
 めぐみが彼女に寄り添って、その肩を抱いてそっとたたいた。
「それが、あんに……お兄ちゃん、先月のことなんだって。その日の次の日に、川元さんの会社の人が流花さんを訪ねてきたの。川元さん、もうずいぶん出勤してなかったみたい」
「警察には連絡したのか?」
「会社から連絡が行って、職場の人が警察と一緒に行ってみたら、家には誰もいなかったんだって」
クリアファイルの中の住所らしいメモが入っていた。
「ふーん。あとで管轄に話を聞いてみるか」
流花は、めぐみのさしだしたハンカチを目に押し当てていた。最初無表情で人形のようだと思った印象が一変している。泣きはらした目と、赤くなった鼻のおかげでその表情はずっと生き生きとして見えた。
「すいません」
いっしょうけんめい整えた声でやっと流花は言った。
「いや、くやしかっただろうと思います、女の人なら。当然ですよね」
「くやしかったのは本当ですけど」
と流花は言った。
「あのときもっとうまくやれば、川元さんはあんなにかたくなにならなかったんじゃないかと思って、それが一番くやしかった。私みたいにかわいげのない女じゃなかったら」
「だめだってば」
とめぐみが言った。
「流花さんはかわいいから。普通にかわいいから」
子供にするように流花によりそってめぐみはそっと肩を撫でていた。
「結局、川元氏は失踪したままなわけですね?たとえば、身代金の要求のような連絡はなかったんでしょうか」
「私の知る限りは、ないです。それに、誰かに連れて行かれた、という印象もありません。自分からどこかへ逃げたという感じです」
たぶん連絡をうけた警察署では、川元の生まれた家や友人関係は調べているはずだった。
「川元氏の行きそうなところに心当たりはないですか?たとえば」
「私以外の女性のところですか?」
端的に流花は聞き返した。
「私が知らないだけかもしれないけど、それはないと思います。最後に会ったとき、川元さんは駆け落ちするにしては変でした」
「というと」
「無精ひげが伸びて、衣類もしわだらけでした。あまり眠ってないようにも見えました。女性と会うなら、もうすこしさっぱりしたかっこうだと思います」
う~む、と刑事は考え込んだ。
「ほかに、気づいたことはありませんか」
「オルゴール」
「はい?」
「ドアから押し出されたあと、私はしばらくドアに張り付いて、怒鳴っていたんです。自分の声と声の間にオルゴールの鳴る音が聞こえました」
「曲はわかりますか?」
「いえ、知らない曲だったので。オルゴールのことを思い出してあとから調べた人に伝えたのですが、彼の家にはそういう音が出るものはまったくなかったそうです」
「携帯の着メロでは?」
「携帯は家に置きっぱなしだったそうです。でも、着メロはそれではありませんでした」

 新宿の大通りから横道へ曲がると、あやしげな金融業やいかがわしいショップが軒を並べる細い道がある。通りに一軒、あまりはやっていなさそうなビジネスホテルがあった。
 入口の前に警察の車が停まっていた。ホテルの内部から何か運び出されてくる。その上に青いシートがかけられていた。
「臭いでわかったそうだ」
と、警察の男はぽつりと言った。
「ホテルの人間が警察に連絡してきたんだ。いっしょにドアを開けたのは、おれだよ」
川元雄治の行方を知ることはそれほど難しくなかった。管轄をひととおり問い合わせた結果、川元がその安ホテルで死体となって発見されたことがわかったのだった。
「どんなありさまですか」
「そうひどいもんじゃない。電車にひかれたりおぼれたりした仏様にくらべれば穏やかだよ。実際、骨と皮だった」
「え?死因は」
「たぶん、餓死だ」
二人の前を、川元だったものが運ばれていく。そのようすをホテルの従業員たちが、なんの感動もなく眺めていた。
「自殺じゃないんですね」
ベテランの刑事は妙な顔をした。
「どうやって死ぬんだ?おれが踏み込んだ時、あいつはベッドにすわりこんだままのかっこうで固まっていた。しいて言えば毒でも飲んだのかというところだが、ベッドまわりにはコップもビンもなかった」
「ほんとに何もなかったんですか?」
「ほんとに何も、いや」
刑事は顔をあげた。
「ひとつ妙なものがあったな。仏さんはあぐらをかいてすわってたんだが、足の間に箱があってね。何か入ってるかと思って開けてみたら、いきなり音が鳴ってびっくりした。箱は、オルゴールだったよ」

 きれいに整えたガーデンの先の門の外まで流花は、川元雄治の姉を見送りに出た。その人とは、雄治の葬式で初めて顔を合わせたのだった。ごく常識的な女性で、悪く言えば平凡な女だった。
 ここ数日のできごとはまるで切れ切れの悪夢のようで、流花の記憶はところどころ飛んでいる。神威刑事から連絡を受け、めぐみといっしょに警察へ確認に行き、雄治の勤めていた会社と実家へ連絡して、葬儀の準備を手伝い、自分も会社を休み喪服を見つけてきて通夜と告別式に出席……。本当に全部自分がやったのだろうか、と流花はぼんやりと思った。
 記憶の中ではどの場面にも、黒いスーツを着ためぐみがいっしょにいてくれた。ややこしい交渉のときはやはりダークスーツに喪章の彼女の兄がいて、てきぱきとことを進めてくれた。
 そうやって弔いの行事をいくつもこなして、やっと今日、終幕を迎えたのだった。川元雄治の形見分けと指輪の返却だった。
 今日、雄治の姉がこの巡音家にやってきたのは、流花のほうから“いただいた婚約指輪をお返ししたい”と言ったからだった。本当はもらったプレゼントの類を宅配で送ろうと思ったのだが、雄治の姉は両親が動揺していますので、と言って、わざわざ取りに来てくれることになった。
 帰り際に、川元の家にはいつでもおいでになってください、と小姑になったかもしれない女性は言っていたが、たぶん二度と会うこともないとお互いにわかっていた。流花と川元雄治の関係はこれで完全に終わったのだ。
 雄治の姉は、ほっとしたような表情で帰りのタクシーに乗り込んだ。鎌倉の駅からこの家までは少し距離があるし、この家そのものが小高い丘の上に立っているようなものだった。
 流花の両親はまだ海外にいる。流花自身も、都内にマンションを借りて住んでいるので、この古い家は今無人だった。
 門を入って英国風のよく整備された庭の中に立ち、流花は生まれ育った家を見上げた。
 流花自身は、準喪服だった。グレーのショールカラーのブラウスに、パフスリーブとロングカフスのクラシックな黒いワンピースである。髪は結わずに流し、黒いリボンをヘアバンドにしていた。
 少女のころの流花は、母の趣味でよくこんな、英国の児童文学の主人公のようなシルエットの服を着せられていた。とてもよく似合うわ、と母は言った。おばあさまのお庭にいると、本当に、とっても。
 家は流花の曽祖父が建てたという、古い洋館である。最初は目の覚めるような派手な緑の壁、灰白色のスレート屋根で、丘の上のお城、と近所では呼ばれていたという。今は深いモスグリーンとダークグレーになり、祖母のつくった薔薇のガーデンに溶け込んでいた。
「人生ってこんなものかな」
海からの風が丘の上をさらりと撫でて通り過ぎる。黒いワンピースのすそが風に翻った。なんともあっけないな、と流花は思った。
 だが、川元の死を伝えた神威刑事は沈鬱な表情だったし、他人のことだというのに、めぐみは眼を泣きはらしていた。二人のことを思い出すと心がほんの少し温かくなってくる。放り出してきた仕事のことも心にかかっていた。
「しっかりしないとね」
小さく頭を振り、歩きなれた小道を無意識にたどって流花は家の中へ入った。
応接間の客がすわっていたソファに、オルゴールがひとつ、ぽつんと残っていた。西洋の童話に出てくる宝箱のような、蓋のまるまった小さめの箱だった。
 外張りは暗赤色のベルベットで、留め金は金色をしている。蓋の上には金と黒のリボンを斜めに縫い付けて小さな蝶結びにしてあった。川元雄治が死ぬまでそばに置いていたオルゴール。それが川元家から息子の婚約者だった女性への、ただ一つの形見分けだった。
 なんの気なしに流花はその椅子に座り、箱の蓋を開けた。中身は空だった。宝石箱として使うのだろうか、蓋も箱も内側はすべて鏡貼りだった。
 ふと思いついて流花は箱の底を指で探り、ねじを探し出した。二三度巻いて手を放す。キリキリキリ、と音がした。オルゴールのドラムが動き出したようだった。
「この曲だわ」
と最初に流花は思った。あのとき雄治の家のドア越しに聞いたメロディである。
「どこかで聞いたわ。どこだったかしら」
日本にいたころか。両親について海外で暮らしたころか。鏡に映る自分の顔を見ながら、流花は考え込んだ。
 なんだか、鏡に映る自分の顔が幼くなったような気がした。
「昔のことを思い出すからだわ」
いつからだったろう。すべてがうまくいかなくなったのは。アリスの青いワンピースと白いエプロンは黒い喪服になってしまった。小さいころは当然だと思ってきたことがどんどん崩れ始めて、信頼できるものなんて、もう、ない。
 いつのまにか流花はソファに横になり、真横にオルゴールを置いてじっと見つめていた。内張りの鏡に映る自分が涙を流していることに流花は気づいた。
「どうしてなの。どうしてよ」
小声でつぶやきながらも、流花はオルゴールを見つめ続けていた。

さあ、そこのねじを巻いて 綺麗な蓋を開けば
ほらごらん、紡ぎ出すよ 美しい日々の夢

宝石箱の中は一面鏡張りで
輝かしい貴方の過去 鮮やかに映し出す

ぎこちなく動く 時のオルゴール その旋律
古ぼけた時代の模倣 親しげに惑わせる

懐かしいその響きが 頭から離れないで
ついさっき閉めた蓋を 開いてはまた閉じる

意識しないようにと 誘惑に逆らえば
あがくほど絡みついて 巻き付いた蔦のよう

記憶の宝石箱 開けてオルゴール聴くたびに
想い出は輝きを増し 貴方を過去へ誘う

いつまでも後ろ向きで 前を見ることもない
――意地悪なこの現実を 忘れたい人の物

現在も未来さえも 見ようとしない人が
惹かれては虜囚になる 幻惑の音の箱

はき違えた時間の錯誤 見つめる勇気もない
だけどそれでいい、と 甘くオルゴールは囁く

中には何もなくて からっぽな音を響かせる
ねじの外れた夢を 奏で続けるオルゴール

――考えるのをやめてただひたれば
追憶の中でシアワセになれるのに――

さあ、そこのねじを巻いて 綺麗な蓋を開けば
ほらごらん、紡ぎ出すよ 心地よく甘美な毒(ゆめ)を