ギガンテスチキンラン 4.第四話

 再びアッシュは、マシン研究所にいた。
 今回マシンメーカーの上に並んでいるのは、マグマ電池、エネルギー物質と、不思議な形をした機械の部品だった。ところどころカクカクと折れ曲がった縦棒と歯車の集まりである。
「これが竜王軍の守る魔城から持ってきたからくりパーツ」
とアッシュは言った。正確に言えば“持ってきた”というよりは魔法の大砲を片手に無理やり押し入って荒くれ含めて四人がかりで機械の警備兵をぼこったあげく強奪してきたパーツだった。
「これを、アイツはどうしろって?」
半信半疑の表情でアメルダが言った。
 アッシュはマシンメーカーの上にメモを一枚、乗せた。
「ラライの説明はこれだ」
ブルーブロックを作り上げてラライの倉庫へ赴き、手に入れてきたものだった。
「ひどい字だね……」
アメルダは眉をひそめた。
「そうか、アイツ、これを書いたときは、もう」
語尾がかすれて消えた。たぶん彼女の心の傷がうずいているに違いない。
 アッシュは無言でシリンダーを取り上げた。これが薄い緑色をしているのは、魔法金属ミスリルでできているためだった。一瞬とはいえ魔力的な爆発に耐えるにはミスリル製のシリンダーしかない。三つのシリンダーにそれぞれエネルギー物質を入れ、やはりミスリル製のピストンでふさいだ。
 ピストンの先に延びるピストンロッドは、今回はコネクションロッドになっていた。スライムの頭のとんがった部分をつまんでぶら下げたような形の部品で、尖った方がピストンに接続されている。
「いいかい、アメルダ」
アメルダが我に返った。
「あ、ああ」
「ここに三つのシリンダーがある。中にエネルギー物質が入ってんのが見える?魔力爆発で直線のパワーを出すことができるから、“魔筒”と呼んでおくよ。三つの魔筒を並べ、それぞれのコネクションロッドをこのからくりパーツの縦棒につなぐ」
コネクションロッド、引き伸ばされたスライム型の部品のふくらんだ方は中に穴が開けてあった。魔筒三つから三本のコネクションロッドが出ている。アッシュはからくりパーツのカクカクした部分にコンロッドを通した。
「これが?何?アイツはこんなもんのためにすべてを捨てたのか?」
台の上にアッシュは魔筒付きのからくりパーツを乗せた。三つのシリンダーを次々に押し込んだ。内部で極小の魔力爆発が次々に起こった。コンロッドが突き出される。だが、クランクピンにつながれたロッドはただの直線運動で終わらずに、クランクシャフトをぐるぐる回し始めた。
「発明家ラライの名誉のために言っとく」
とアッシュは言った。
「これが魔力生成によって回転の力を得るシステム、マシンパーツ。最初の一押しにはマグマ電池を使えばいい。こいつが生み出す最大の回転の力こそ、最強の兵器になるんだ」
アッシュが手を離したあとも、慣性によってクランクはコンロッドを押し上げ、魔筒はパワーを得てクランクを押し下げるプロセスを続けた。
「そうか……これがあれば魔物の親玉を倒す最強の兵器が作れるってワケだ」
そうつぶやいてからアメルダは、しばらく黙ってマシンパーツの動きを眺めていた。それからすぐ後ろにある本棚によりかかり、片手でもう片方の腕のひじをつかんで顔を背けた。
 マイラは、いつものように朝の時間が流れていた。あらくれどもとコルトはまじんSpaあらくれで朝風呂、シェネリは早々に鉄と炉の本格工房で仕事をしている。アメルダは朝いちでマシン研究所へ出勤した。いつもギエラがいっしょなのだが、今朝は空気を読んで外に出ていた。
「それにしてもなさけない話だね。結局最後までアイツの発明にたよっちまった。自分で殺した相手なのにね……」
と、アメルダがつぶやいた。
「相手を間違ってるよ」
アッシュは顔を背けた。
「慰めてほしいなら、筋肉兄貴たちに言えばいい」
「独り言ぐらい言わせておくれ」
とアメルダは言った。
「アイツの研究のことは何度か話したろう?アイツはね、炎と氷を合体させる研究に自分のすべてをささげきっていたんだ。けど、どうやっても発明は完成しなかった。炎と氷の融合なんて人間の力じゃ無理だったんだ。アイツは身も心もボロボロになって……でもアタシはただ見てることしかできなかった」
見るからにプライド高そうだったもんなあ、とアッシュは思った。そんなやつの気持ちに寄り添って励ましてやるなんて、一番苦手な仕事だと自分でも思う。アメルダだからこそできたのだろう。
「そのときさ。あいつの目の前に竜王があらわれたのは」
「なんだって?」
思わずアッシュは聞き返した。
「あいつが銀の竪琴を自分で壊しちまってから何日かあとのことだった。ギエラたちはガライの町の外にいて、アタシだけが残っていた。ラライは研究の不調で荒れてたよ。飲めない酒を無理に呑んで、研究室に閉じこもっていた。どうせふてくされて床に寝ちまうのはわかってたから、アタシは研究室へ毛布をもっていった。
 もう日が暮れて、ガライの町は静かだった。どこを見てもおかしいところは一つもなかったけど、アタシはぞくっとした。何かまずいことが起きる。アタシの勘だけど子供のころからよく当たるのさ。廊下を駆け抜けて研究室のドアをいきなり開いた。
 そこに、ヤツがいた」
「竜王が、来たのか」
隔絶した孤島に建つ難攻不落の竜王城を離れ、すべてのモンスターの頂点に立つロード・ドラゴン、竜王が自ら足を運んだというのか。
「ひと目でわかったよ。ヤツのまわりだけ闇がよどんでいるようだった。て言うより、悪魔の騎士二人を従え、大きな襟の黒いローブをつけて手に竜の形の杖を持った“闇”そのものが立っていた。
『光栄に思うがよいぞ』
笑いながら竜王はそう言った。
『わし自らこの問いを投げかける相手はそう多くはない』
ラライは酔いが冷めたようだった。震えながら竜王を見上げていた。大きな目を細めニヤニヤ笑いながら竜王は話しかけた。
『もし、わしの味方になれば、人知を超えた知恵をおまえに授けてやろう』
ラライはぎくっとした。
『どうした?悪い話ではあるまい。おまえがどれほど悩み、苦しんでいるかわしはよく知っているのだ。あともう少し知恵があれば、とおまえは心の中で何度唱えたかもな』
『本当に?』
かすれた声でラライはつぶやいた。
『本当に知恵を授かるのか?おまえの味方になれば』
やめろーっとアタシは叫んだ。ぎょっとした顔でラライがふりむいた。
『そいつの言うことが信用できるわけないじゃないかっ』
初めて竜王がアタシを見た。
『大事な話をしているのだ。邪魔するでない』
そう言って指先をちょっと動かした。ほんとにそれだけだったのに、いきなりアタシは押しつぶされた。見えないゴーレムがアタシの背中を床へ押し付けて身動き一つ取れない、そんな感じだった。アタシの舌も動かなくなった。
『先にアメルダを放せ』
震えながらラライは要求した。答えはくっくっと笑ういやらしい声だった。
『心配するな。わしらの取引が終われば女は解放してやる。どうじゃ?わしの味方になるか?』
『信用、できるのか』
『わしはとある戦士に同じ問いを投げ、諾と答えを受けた。約束通りわしはその男に与えたぞ、世界ノ半分をなぁ』
何がおかしいのか竜王は笑い声をあげた。
『どうじゃ?わしの味方になるか?』
アタシから見えるのはラライの背中だけだった。でも、ラライが、こくんと首を倒すのをアタシは見ちまった。
『よろしい!ではわしらの友情の証としてその竪琴をもらうぞ』
ラライはためらった。
『もう、壊れてる』
『構わん』
竜王は軽く顎を上げて、ラライを見下ろしながらそう言った。お付きの騎士に手渡した。取り上げてしまえばもう興味もなさそうだった。
『さあ、わしからの贈り物を受け取るがよい!そなたに人知を超えた知恵を与えよう!』
手にした杖の先端で、竜王はラライの顔を指した。アタシの目には、何か白い光のようなものが杖に生まれ、ラライの顔に吸い込まれていたように見えた。
『わっ、あっ』
突然ラライが自分の頭を抱えた。
『な、なんだ』
ラライの顔に、笑いが浮かんだ。変に上ずった妙な笑顔だった。ふらっとラライは立ち上がった。竜王のことなんか、ましてやアタシのことなんか目に入らないようだった。メモを取るといきなり何か書き始めた。
『気に入ったようだな』
邪悪な笑みを浮かべて竜王はそう言った。
『約束は守ろう。ではさらばだ』
いきなりアタシは動けるようになった。竜王めがけて飛び出した。けど、竜王も悪魔の騎士もその場から消えうせてしまった。
『ラライ!』
ラライは図面を書きながらつぶやいていた。
『あんなに悩んで作り出せなかったのに今は頭がさえわたっている!発想がわいてくる!こんなことなら、こんなことなら、もっと早く、もっともっと早くこうするべきだった!』
『どうしちまったんだ、ラライ!竜王軍を倒すための発明なのに、竜王の味方になっちまったら元も子もないだろう!』
『なんていい気分なんだ。ロビンはどこだ?実験の用意をしてくれ』
『ふざけてんじゃないよ!』
 後ろの廊下からあわてた足音が迫ってきた。
『アネゴ、大変だ!』
ガロンたちだった。
『町が……』
そのときやっと気づいた。さきほどまで静かだったガライの町中が大騒ぎになっていた。あちこちで火の手が見えた。
『何があった!』
ガロンの顔は青ざめていた。
『ガライの町へ帰ってきてみたら、キラーマシンが一斉に人を攻撃してるんだ』
やっとラライが図面から顔を上げた。
『なんだと……』
『見ろ!』
ベイパーが研究室の窓を開けはなった。
『近接戦闘機能、あくてぃぶ。侵入者ヲ排除シマス』
町のあちこちから、そう繰り返す機械の声が聞こえていた。
 眼下には殺戮の光景が繰り広げられていた。大きな剣とボウガンを手にしたキラーマシンが何体も、単眼を赤く光らせて避難民に迫っていく。的確な場所から放火しているのもいた。アッシュ、あんたもキラーマシンやメタルハンターと戦っただろう?あいつらが人間の敵に回ったのは、あのときからなんだ。
『とにかくみんなを逃がそう!』
アタシがそういうとあらくれたちは動き出した。
『物資はあきらめて!人の命を優先!』
『了解!』
『心得た!』
あらくれたちはさっと出て行った。
『ラライ、ここにいちゃ危ない。逃げよう!』
ラライは呆然としていた。どこからか、竜王の笑い声が響いてきた。
『わあっ、はっ、はっ、はっ、はっ、わっはっ、はっ、はっ、はっ……』
『こんなことが……』
ラライはそうつぶやいた。
『わかってたんじゃないのかい!』
アタシはそう言った。
『竜王は約束を守る。でも、必ず不幸な結果になるんだ』
 研究室のドアが開いた。のそっとロビンが入ってきた。
『ラライさま……逃ゲテくだサイ……ガライノ町……もうダメ……私は……殺シテシマイそうダ……』
ロビンはようすが変だった。両手が震えていた。
『こんなことが……』
もう一度ラライはつぶやいた。一瞬、ラライは泣き出すかとアタシは思った。が、その代わりにラライは笑い出した。
『うひゃひゃひゃひゃ、うひゃひゃひゃ、うひゃひゃひゃ、うひゃ、ひゃひゃひゃひゃ……!』
無防備に立ったまま、両手を広げ、両目から涙を流しながら、ラライは笑い続けた。
『ラライ』
アタシはラライが逃げられないことを知った。崩壊していくガライの町からも、犯してしまった自分の罪からも。
『かわいそうに』
笑い続けるラライの背中を、アタシは抱きしめた。
『行こうよ。一緒に。誰にも手の届かないところに』
アタシはナイフを取り出した。笑うラライの身体が腕の中ではねていたのを覚えている。両手でナイフの柄をつかみ、ラライの心臓へ突き刺した」
 長い独り言の間、アッシュは黙って聞いていた。
「あとは言い訳になるね。アタシはまだ、生きてる。ガロンの話じゃ、アタシはラライの死体のそばで、手首を切ろうとしたらしい。それを止めて、ラライを葬ってくれたのはあいつらさ。こんなアタシがアネゴだなんて、情けない話だろう」
「別に」
とアッシュは答えた。
「そう。同情してほしいわけじゃないんだ。ただ、勘違いしてほしくないのさ。アタシがアイツを殺したのは……」
「ラライを助けたかった。だろう?」
アメルダは、目を見開いた。
「俺にも、そうやって“助けた”やつがいる。名は、ウルス。リムルダールのゲンローワの弟子だった」
「なんで」
言いかけてアメルダは口をつぐんだ。
「お互い、言い訳なし。それでいいよな」

 身を切るような冷気が吹きすぎた。
「いつつ!」
ギガンテスチキンランは、すでに五回のアタックを成し遂げていた。赤いマシンはギガンテスに突撃、その場でタメ、すぐに離れて弧を描いては再度の突撃というパターンを繰り返していた。
「むっつ!」
 マシンを操るビルダーには余裕らしきものが生まれていた。突撃の瞬間に歓声を彼は放っていた。
「ななつ!」
ギガンテスの回りにはキラーマシンやブリザードといったモンスターがひしめいていた。10回と決めた以上、彼らをマシンで粉砕することはできない。これは回数アタックなのだ。マシンは器用に彼らを避けてまわりこんだ。
 七回目のアタックの直後、マシンパーツをできるかぎりふかし、アッシュは前方へとびだした。と、ちょうどそのとき、青いスライムがぽてんぽてんと現れた。スライムもあせっただろうが、アッシュもひっと声をあげた。
 激突することができないのなら回避するしかない。もし徐行運転でぶつかったなら、その場で降車となる。無理矢理にハンドルをねじまげてアッシュは避けた。耳障りな音をたててタイヤがきしみ、青く澄んだ氷の平原に黒い痕をつけた。
 ラライの目にはアッシュが片手をグリップから離して吹き出した汗を拭うのが見えた。その真横に棍棒が降り下ろされた。
「ちっ」
ぎりぎりの回避の結果、うまくギガンテスから距離を取れなかったのだ。アッシュは速度にものを言わせて距離をとることを選んだ。氷原の周辺に建てられた小さな氷山の群れの間をスラロームの要領ですりぬけていく。
 遠ざかるその姿に向かってギガンテスが棍棒を振り上げて威嚇した。ぎりぎりまで距離を取ってからアッシュは極小半径の弧を描いてマシンの方向を転換した。両手でグリップを握り、頭を低く伏せた。が、目はゴーグルの奥でギガンテスを捕らえていた。
 間合いを測って棍棒が降り下ろされる。真っ赤なマシンはまっすぐにギガンテスを目指す。ラライは息をのんだ。落ちかかる棍棒を避けてマシンはギガンテスの足元へ飛び込んだ。
「やっつ!」
すでにギガンテスのHPは五分の一になっていた。怒りのあまりギガンテスは棍棒でやみくもに周囲の氷原をたたき始めた。青みがかった透明な氷が飛び散った。
 大量の氷ブロックに追いたてられてアッシュはマシンでギガンテスを遠巻きにして氷原を巡り始めた。
 ふとラライは嫌なことに気付いた。
「アッシュ、気を付けろ!そっちは」
アッシュがこちらを見た。指差して教えた方には、海が迫っていた。先ほどの青いスライムと同じく、進行方向にいる背の低いものはドライバーから見えにくい。ギガンテスはあきらかにアッシュが気付かないうちに崖っぷちへ追い詰めようとしていた。
 マシンが方向を変えた。際どいタイミングだった。向きを変えたアッシュが青ざめた。すぐ目の前にギガンテスの巨体があった。赤いマシンは巨大な足の裏の影に半ば入っていた。
 すりぬけて逃げるか、とラライが思った時だった。回転数が上がり、アッシュが顎を引いた。目標はギガンテスの上がっていない方の足だった。
「ここのつ!」
一度激突するとしばらくは動けない。ギガンテスが踏みつぶすのが早いか、マシンの動き出すのが早いか。だが、激しく舞い散る氷に紛れてラライからはよく見えなかった。一つ目の下の大きな口から牙をむきだしてギガンテスが笑った。巨大な足がまっすぐに落ちて氷原を踏み抜いた。
 その攻撃にあうと一度に30近くポイントを削られ、降車を余儀なくされる。おのれの勝ちを確信してギガンテスがもう一度足を上げようとした。
 ギガンテスの笑顔が凍り付いた。ニヤニヤ笑いがとまった。棍棒が指を離れて氷原へ落ちた。天を仰いだギガンテスは、そのまま氷原へあおむけに倒れた。あたりに地響きが起こった。
 氷が飛び散り、その下の地面がえぐれて土煙が上がる。ラライはしばらく待った。再び静かになった氷原に、真っ赤な色彩が残っていた。
「やつの右足と左足、スタートダッシュを使って連続で衝いたんだ」
片手でゴーグルを額に上げ、肩で息をしながらアッシュがそう言った。
「これで10回だ」
ビルダーの顔に不敵な表情が戻ってきた。
 ああ、とラライは言った。
「認めよう。ギガンテスチキンラン、達成だ」

 マイラの拠点は静かな夕暮れを迎えようとしていた。アメルダはシェネリと一緒に、先日完成した“あこがれの秘湯”で一日の汗を洗い流した。獅子の口から湯の流れ込む音が心地よいほてりを誘った。
 風呂上がりにはガロンのバーで一杯やってから寝ようか、などと、アメルダは考えている。
「こんなに幸せでいいのかね、アタシだけ」
自分の手で殺した男の顔を思いながら、アメルダはつぶやいた。
 ホテルあらくれの隣には、女子専用宿舎が立っていた。なかは二部屋でそれぞれ個室になっていた。
「なんだい、こりゃ?」
アッシュが来ていて、自分の部屋の中に大きな肖像画をかけているところだった。
「2~3枚あるんで、ひとつ持って来たんだ」
とアッシュは言った。
「なんでアタシが部屋にアタシの絵を飾らなきゃならないんだ。持って帰っておくれ」
「いいじゃん。これで拠点のポイントが上がるんだから、おかせてよ」
「しょうがないねえ」
「じゃ、決まりね。お休み」
そう言ってビルダーが出ていき、ドアがしまった。
 夜が深くなっていった。アメルダの眠りの中に小声の会話が漂ってきた。
「ほ、ほんとうにやるのか、ボクが」
「おまえなんでもひとつ願いを聞くって言ったろ?」
「だからって……」
「今なら素直になれるだろ?なんのための竪琴だ!しっかりしろよ」
「素直って言われてもだね」
ちっと舌打ちする音がした。
「成仏できないほどアメルダに惚れてんだろうが!」
「ボ、ボクは」
「最初っからバレバレなんだよ。マシンメーカーの制作メモのはじっこにおまえ、アメルダの似顔絵描いてハートでかこっといて今さら」
わーっ、と誰かが叫んだ。
「バカッ見るな、見るな!」
「俺以外見てないって。落ち着け。似顔絵だけじゃたらなくて、おまえ、アメルダの絵を描いただろ」
「う、ああ」
「そのひとつを、彼女の部屋に飾っておいた。おまえが生前持っていたものは、おまえの歌を持ち主に伝えることができるんだ。今歌えば、彼女に届くはずだ」
「……うまくいくかな」
「行くか行かないか、やってみりゃいいじゃん」
 アメルダが、誰だいまったく、うるさいね、とつぶやこうとしたときだった。室内の肖像画が、ほのかに光り始めた。懐かしい声が、やさしく豊かな、どこかもの悲しい歌を歌いはじめた。