★2024年8月、3のリメイク(DQ3HD-2D)にて、新職業として「まもの使い」がくる、と発表がありました。とんぼの眼には、あらゆる魔物使いが5主に変換されます。というわけで、DQ5誕生日なのですが、掟破りの3ネタです。
鮮やかな朱色のとさかのある豹のような大型の猫族が、贅沢な絨毯の上に長々と寝そべっていた。
「何か話があるんだろ?今度はどうした」
かるいためいきまじりに、その部屋の主、ラインハットのヘンリーが尋ねた。
豹、実はキラーパンサーの背には、紫のマントとターバンの男がもたれていた。
「あのさ、ぼく、存在しない記憶があるんだ」
と、グランバニア王ルークはつぶやいた。ヘンリーは自分の椅子に寄りかかり、お茶を一口飲んだ。
「おまえに関しちゃ、何があってもまず驚かない自信がある。話してみな」
「夕べグランバニアの城で、もうベッドに入ってた時、双子が寝室へ来たんだ。寒いからいっしょに寝ていいか、って。それで、おいで、って言ったら二人とも喜んでぼくの両側の布団の中へもぐりこんだ」
「勇者殿と姫君は、七つ?八つか?ま、かわいいもんだな」
「『お父さん、昔のお話してよ』ってねだられてさ」
「おいおい、子供に聞かせていい話と悪い話があるぞ?」
うん、と言ってルークは首を傾げた。
「ぼくが話したのは、一人で旅をしていたころのことなんだ」
●
扉の上のベルがちりんと音を立てた。酒場の扉が開き、背の高い客が一人、入ってきた。
酒場じゅうからいっせいに好奇の視線が集まった。
「ガタイはいいな」
「得物はなんだ?杖だと?」
「魔法使いか?」
「とかいう前に、言葉が通じるのか?」
この町の気候風土では見慣れない姿の男だった。暗赤色の太い袴の上に毛皮の腰巻をつけ、黒い胸当てを装備している。そして、お守りなのか、何かの獣の牙を連ねた飾りを身につけていた。
異国風の男は、頭を動かさないまま、騒がしい客たちに視線だけ投げた。それだけでやかましい値踏みがぴたりととまった。
「……なんだよ、あの目はよ」
「よっぽど修羅場をくぐってきたらしいな」
ひそひそとつぶやく声も途切れがちだった。
「だいたい、なんでムダに男前なんだ……?」
いらっしゃいませ、と妖艶な声がした。
「こちら、初めてのお客さまね。何をお望みかしら?」
白いブラウスと赤いスカートの上にひもで締めあげる胴着をつけた美貌の女主人が、そう声をかけた。
どこかぎこちない、話しなれていない口調で男は言った。
「ここで仕事を紹介していると聞いてきました」
きら、と女主人の目が光った。
「ええ、ここがルイーダの店。旅人達が仲間を求めて集まる出会いと別れの酒場よ」
ルイーダは微笑んだ。
「私がお仕事を見つけてくるわけじゃないの。ここで名前と職業、特技を登録して、仲間にしたいという旅人が現れるのを待つことになるわ。それでいいかしら?」
「いい、です。ぼくの名はルーク。サンタローズのルーク。職業は」
ルイーダをまっすぐ見つめて、ルークは告げた。
「まもの使いです」
●
「……そのあとぼくは、勇者といっしょに旅に出て、すっごい冒険をしたんだ」
無理無理、とヘンリーは言った。
「おまえが一人旅したのって、ラインハットを出てサラボナに着くまでの短い間だろ?第一、いつもモンスターたちがいっしょだから正確には一人旅じゃねえし」
「うん。だから、存在しないんだよ、そんな記憶。それなのに、細かいところまで鮮明なんだ」
「夢だったんじゃないのか?」
ルークは天井を眺めて独り言のようにつぶやいた。
「それじゃ、うちの双子も同じ夢を見たのかな」
はあ?とヘンリーが聞き返した。
「たぶん今夜も双子が来て、お話の続きをせがまれると思う。ああ、ぼくがその話をした相手が同じ夢を見るのか」
片手で口元を押さえてうつむいて、ルークは考え込んだ。
「ヘンリー」
「なんだよ、いきなり」
ルークは立ち上がった。
「きみ、商人て、興味ない?」
「ないことはないが、おれに何をやらせる気だ?」
「ちょっと町を一個つくって、軽く搾取して革命にあって牢屋へぶちこまれてよ」
なんか、ひどい、とヘンリーは思ったが、相棒の真剣さの前ではどうにも抗えなかった。
了(2024年9月27日X上のイベント「DQ5三十二周年記念」のために)