テルパドールの戦い 12.女教皇:啓示

 モンストロッシは、ルークの戦いを観察していた。グランバニアのルークは、魔力も回復アイテムも使えないにしては堅実に戦っていた。思ったより遥かに剣技が冴える。時々間合いをとって冷静に敵を評価しているのがわかった。
 だが、しょせん、人間。モンスターが人間に勝る第一の点は体力だった。ルークは疲れる。夜明けまでこの接戦を続ければルークの上に疲労がつもっていくはずだった。
 飛び出して剣をふるい、さっと下がってルークは間合いを取った。ふと顔をあげ、あたりを見回した。ルークは強化バルバロッサに視線を投げるとくるりと背を向け、走り出した。
「グランバニアのルーク!みっともなく逃げを打つか!」
この庭園から逃げるとすれば階段しかない。
「逃がさんぞ。追いかけろ」
強化バルバロッサは言われる前にルークを追っていた。
 逃すものか、とモンストロッシは考えた。すべての要はグランバニア王ルキウス。彼を確保して天空の勇者に譲歩を迫れば、テルパドール乗っ取りは完成する。ボアレイズはどこにいるかわからないが、こちらが勝ち組だとわかればのこのこ出てくるだろう。第一、新女王のスカウトが終わればボアレイズの役目は終わったも同じだった。
 モンストロッシの考えた通り、ルークは松明に照らされた地下庭園の中を中央の泉に向かって走っていた。が階段へ通じる飛び石には乗らずに岸辺をまわりこんだ。強化バルバロッサが山羊の足を活かして追いすがった。
 ルークは泉を離れ、女神像を尻目に北東へ進んだ。何のつもりだ、とモンストロッシは怪しんだ。そちらに進んでもタイルを菱形にはめて造られた小さな広場があるだけなのだが。
 ルークはまっすぐに広場の中央へ走った。どこかでばしゃ、ばしゃと水音が鳴っていた。広場の真ん中には井戸がひとつ。井戸のそばの人物が網状のものを井戸から引き上げているところだった。
 ラインハットのヘンリー、とモンストロッシは認めた。ボアレイズを殺ったのか?モンストロッシが自問するよりもヘンリーが網にからまった桶から何か取り出してナイフで封を切り、ルークへ投げたほうが早かった。
 ルークは見事に空中で受け、井戸の向こうへ駆け込みざま、口で栓を抜いて吐き出し、中身を喉へ流し込んだ。それはガラスのポットのような容器だった。丸い栓を持つふくらんだ胴体、その中の液体は。
 正体に思い当たった瞬間、モンストロッシはその場につんのめるように停まった。
「おい、戻れ!危ない」
あれは“エルフの飲み薬”。MP回復量は祈りの指輪を凌駕する。前のめりに襲いかかった強化バルバロッサの顔面を風の魔法が襲った。
「バギクロス!」
強化バルバロッサの巨体が煽られ、蹄が浮き、ついにふっとんで尻餅をついた。
「てっきり持ち込めないものだと思ってたよ」
ルークの声だった。
「いや、ダメ元で試したら当たっただけだ」
とヘンリーが答えた。
「天空の兜の神殿、庭園の泉、そして城外のオアシス、全部地下水で一直線につながってんじゃないかと思ったんだ。そしたら泉とオアシスの間にこの井戸があるじゃないか。神殿の中を流れる水にエルフの飲み薬を入れた桶を浮かべて、この井戸に網を張っておいたんだ。結果はご覧の通りだ」
 ようや強化くバルバロッサは身を起こした。
「オマエ、楽ニハ死ネンゾ」
恨みをこめてそう宣言する強化バルバロッサの目の前でヘンリーは悠々ともう一本の飲み薬を開け、飲み干した。
 ヘンリーの片手がゆるい拳をつくり、ルークの手の甲を軽くノックした。ルークはうなずいて強化バルバロッサの前に立ちはだかった。
「ぼくがお相手するよ」
すでに回復魔法を唱えHPの減りは補ったようだった。
「ガアアアァァァァァ」
強化バルバロッサが吠えた。同時に南国の花を蹴散らして襲い掛かった。かさ上げした攻撃力をこめて毛むくじゃらの腕を振り下ろした。
 古の秘宝で強化したバルバロッサは、ルークよりも身長が高い。まっすぐ構えたルークの剣はバルバロッサの腹のあたりを薙ぎ払った。暗い青の体毛の中に白っぽい体液が滲み出し、一文字の汚れとなった。
「キサマ、ヨクモ」
接近していたルークを見下ろし、バルバロッサがわめいた。その腕がルークを狙い、そして、かすりもせずに横へ落ちた。
 モンストロッシは眼を剥いた。
「何をやっている」
強化バルバロッサの動きが奇妙だった。腕を振り上げ、振り下ろすが、ルークがどこにいるかわかっていないような動きを繰り返していた。
 くっくっと笑い声がした。
「なんだ、秘法で強化してるっていうからどんだけかと思ったら、弱点そのまんまじゃねえか」
ヘンリーだった。モンストロッシは激しく舌打ちした。
「何をやった!」
「まずはマヌーサを試したところだ。次はルカナンにしようか。それともメダパニがいいかな?忘れんなよ、俺も魔法使いだ。休み系に特化した魔法の使い手で、MPは回復したばっかだ」
モンストロッシは愕然としていた。ホースデビル系統の一族は、混乱が大の苦手だった。
「おい、そっちはあとだ。鞭をもった方を先にやれ」
強化バルバロッサが鈍重に向きを変えた。
 その顔をグリンガムの鞭が襲った。ふさふさした金の髭が短く切れて飛び散った。
「ガウ!」
「だいたい、バルバロッサを単体で強化するほうがおかしい!」
ヘンリーはまだ笑っていた。
「世界樹の葉で攻撃役をフォローするのが仕事じゃねえか、おまえは。パーティなしで何やってんだ」
「黙れ!」
モンストロッシはメラミを放った。ちっとつぶやいてヘンリーが後退した。
「君の相手はぼくだよ」
静かな声が背後で聞こえた。あっと思ってモンストロッシが振り向いた。ルークが首筋に剣をあてがっていた。
「諦めなさい。もう終わりだ」
自分の喉が鳴るのをモンストロッシは聞いた。
「人間の姿をしている私を殺せるのか、おまえが」
静かな問い返しがあった。
「モンスターを屠ることができるのに、どうして人間で躊躇うと思う?」
言葉が終わると同時に後頭部に強い衝撃があった。
――私のどこが悪かったのだ……。
それがモンストロッシの最後の意識だった。

 ごめん、とルークは言った。
「やっぱり殺せなかった」
気絶したモンストロッシを見下ろして、ヘンリーは肩をすくめた。
「しょうがない。おまえが手を汚すまでもないやつだ」
ルークはあたりを見回した。
「あのバルバロッサは?」
「幻を追いかけて走っていった。戻ってきたら仕留めるさ」
と言ってから、軽く頭を木立の奥の方へ動かした。
「あっちにボアレイズがいる」
「ああ、捕まえたんだね。女王様の居所と戴冠式の冠やなんかがどこにあるか知ってるかな」
「そうだな、聞きに行こう」
そう言ってヘンリーが先に立った。
 庭園の北東の角にヤシの樹がかたまって植えられていた。その一番手前の樹に、大司教ボアレイズが鎖で縛り付けられていた。
「やっと来たな」
まだぎらついた目でボアレイズがそう言った。
「ラインハットのヘンリー、お前の望むものを今、私は与えることができる。それには対価が必要だと言うことはわかるな?」
ルークは、ヘンリーのようすをうかがった。
「君が望むものって、なに?」
ヘンリーは、大きく息を吐き出した。
「おまえも知ってるあれさ」
 どこか遠くで足音が聞こえた。乱暴に葉をかき分けるがさがさと言う音、泉に踏み込んだ水音が続いた。
 ボアレイズはまったく耳に入っていないようすだった。
「女王アイシスはどこにいる?」
とルークは尋ねた。
「おまえには話しかけておらぬよ」
尊大にボアレイズが答えた。
「ヘンリー、おまえが先だ。どうするのだ?」
じっとヘンリーはボアレイズを見据えた。
「念のため、おまえの言う対価が何か聞いておこう」
「まずは身の安全と布教の自由を保障してもらおう。ラインハット領内でよい、どこか適当なところにかくまってもらおうか。もちろん、私の財産もいっしょにだ」
「自由と安全と財産?贅沢なやつだな。しかも『まずは』というからには、もっと上があるんだな?」
「悪いか!私はそれだけの値打ちのあるものを握っているんだぞ」
「ヘンリー?」
そう声をかけると、ヘンリーは自嘲の笑みをもらした。
「ルーク、こいつは俺に取引を持ちかけたんだ。こいつが提供しようとしているのは“言い訳”だ」
ボアレイズが声を張り上げた。
「言い訳ではない、れっきとした理由だ!さあ、私に願え、『パパスの死はラインハットのせいではないと証言してくれ』と。おまえの欲しいものを与えてやる」
 深くヘンリーは息を吐いた。
「いらん」
ただ一言でヘンリーはボアレイズの狂乱を断ち切った。
「なんだと」
ボアレイズは呆然としていた。
「言い訳なんか要らないと言ったんだ」
背後の騒音が大きくなった。幻覚と混乱から我に返った強化バルバロッサが敵を探して戻ってきたようだった。
「断わるだと?おまえにできるわけがない!」
ぴく、とヘンリーの眉が動いた。
「できるさ。この罪の意識は死ぬまで背負っていく」
強化バルバロッサの荒い鼻息がすぐ近くで聞こえる。
「そうだね、ぼくもそうだよ」
とルークは言った。
「許しきれない重さも、ぬぐいきれない罪も、現に存在する」
ルークは剣を抜き放ち、明瞭に言い切った。
「ならばそれさえも、ぼくらの絆だ」
木立を破るように唐突に毛むくじゃらの腕が突き出された。ヘンリーの反応は素早かった。ルークの剣が真後ろへ突き出されたのと同時に三本鞭が宙を舞った。
「グガアァッ」
両腕と首を鞭で拘束された状態で心臓をえぐられて、バルバロッサは痛みに叫び、わめき、暴れ、そして次第に動かなくなっていった。

 事件の一夜が明けたとき、テルパドールの誇る地下庭園はボロボロになっていた。バギクロスを放った直線方向に樹木はなぎ倒され、あちらこちらにメラミによる焦げ跡があった。美しく植えた草花は傭兵のどた靴で無残に踏み荒らされていた。ただ奇跡的に庭園の南西部にある女王の茶会用のテーブルは無事だった。
 金の太い縁取りをもった華やかな赤い絨毯を土台に敷き詰め、その上に白絹のクロスをかけたテーブルを置いてあった。テーブルの上の華奢な燭台やぜいたくな茶道具、ポットやカップの類も無傷だった。
 藤を編んで造られた玉座のような一人掛けの椅子に女王アイシスはゆったりと身を預けていた。石垣の上のガラス窓から日が射して、椅子のそばのヤシの樹の大きな葉を通して影を落としている。それはちらちらと動いていた。
 モンストロッシとボアレイズが逮捕されたあと、その自白を頼りにアイシスの捜索が行われた。起伏に富んだこの庭園の窪みのひとつ、あの秘密の寝室と同じように植物や地形のために外から見えない場所に天幕が張ってあり、その中から捜索隊は眠る女王を発見したのだった。
 翌日、アイシスは目を覚ました。必要な指示を出してしまうと彼女は地下庭園へ降り、そして茶会を行うあずまやへ入った。
女王は椅子の肘掛けに肘をつき、手の甲で顎を支えていた。石垣のガラス窓の向こうへ注がれていた視線がふとあがり、林の中の小道に向けられた。
 テルパドールの兵士数名が、中央に一人の女官を囲んでやってきたのだった。かつて女王腹心の女官だったメティトだった。その両手首は体の前で鎖を掛けられていた。
「お召しによりつれてまいりました」
小声で兵士が言った。
「ありがとう。話がありますので、あなた方はお下がりなさい」
兵士はちょっとためらった。
「窮鼠猫を噛むとも申します。警備の兵士をお側においてはいただけませんか」
アイシスはテーブルの反対側の席に座っていた人物を見た。
「ぼくが女王様をお守りしますので、ご心配なく」
と、グランバニアのルークが言った。兵士たちは納得したようすになり、メティトをその場に残すと一礼して去っていった。
 メティトは真顔で女王を見ていた。
「逃げなかったのね」
とアイシスは言った。
「大司教様の勝ちを信じていましたから」
「今はどう?」
「今でも信じています。この国は光の教えに従うべきです」
メティトは頑なに言い張った。
「そうすればひとは、もっと謙虚にすべてのものに感謝して、日々を穏やかに過ごすことができるでしょう」
ルークは思わず反論しようとした。が、アイシスが手で押し止めた。
「では別のことを聞かせてちょうだい。おまえが宮廷へ奉公に上がったのは、おまえの実家からでしたね。実家では何を学んだの」
「いろいろと」
「最初からおまえは宮廷に勤める女官に必要な知識をほとんど頭に入れていた。それは誰から?」
父が、とメティトは嫌々つぶやいた。
「私には母がいません。父はあちこちから教師を呼んで私の教育にあてました」
「それほど熱心に教育を授けてもらったのに、こんなことをして父上殿に申し訳ないとは思わないの?」
メティトの反応は過激だった。
「あの人は、私が何をどこまでやったって絶対満足しなかった!」
目に涙を浮かべてメティトは反発した。
「どんなにがんばってもあら探しばっかり!それならいっそ、思いっきりがっかりさせてやろうと思ったのよ!」
アイシスは夜の色の瞳でじっとメティトを眺めた。
「哀れな子ね、おまえは」
メティトは唇を噛んだ。
「死刑にでもなんでもすればいいわ」
アイシスは首を振った。
「おまえはこれから十年の間、砂漠の修道院にこもって瞑想と労働をするのです。特に父上殿のために祈りを捧げなさい」
「いやよ、誰が」
アイシスは両手を伸ばしてメティトの両頬を包んだ。びくりとしてメティトは一歩下がろうとしたが、アイシスは捕らえたままだった。
「おまえは、私の娘なのよ」
メティトの目がまるく見開かれた。
「テルパドールの女王は次の女王を指名して王位を譲る。誰もそうとは明言しないけれど、母から娘へと女王位は継承されるのです」
ルークは言葉もなくそのようすを見つめていた。
「二代前の女王はアイシャと言いました。アイシャの娘がリエト、リエトの娘が私、アイシス。私は女王になる前におまえの父上殿に恋し、おまえを産みました。まちがいなく、おまえは私の長女です」
メティトはその場に立ち尽くしていた。
「女王は家族を持つことができません。だからおまえを父上殿に託しました。あの人はおまえの生まれを心得ていて、おまえを厳しく育てました。おまえが受けたのは女王教育にほかなりません」
「私は」
メティトはそれだけ言ってうつむいた。アイシスの手の中に涙の玉が滴り落ちた。
「くやしい。どうして涙なんか出るのよ。あの人が、父が、私をずっと否定してきたのは本当なのに」
「誉めるだけが肯定ではないわ」
ぼそっと言って、アイシスは手を放した。
「哀れな私の娘、メティト。十年という時間がおまえを癒してくれることを願っているわ」
そう言ってテーブルの上にあった鈴を手にとって鳴らした。さきほどの兵士たちが戻ってきて、静かに涙を流すメティトを言葉少なく連れ去った。
 小さなため息を吐いてアイシスは椅子にもたれた。
「お詫びを申し上げなければいけませんね、ルキウス殿」
とアイシスはつぶやいた。
「あの娘のことをもっと私がわかっていたら、こんな事件にあなたを巻き込まずに済んだのかもしれません」
「そんなことは」
一度口ごもってルークは本音を口にした。
「ぼくだって自分の子供たちが本当は何を考えているかなんてわかりません。あの子達が大好きですけど、別の人格を持つ独立した人間ですから」
アイシスがつぶやいた。
「親は子がいくつになっても、それこそ死ぬまで心配し続けるものですが、子のほうもいくつになっても親の期待に沿おうとするものですね、その親の生死に関係なく」
パパスの顔が心に浮かぶ。ちくりとしたトゲがルークの胸を刺した。ヘンリーには、言えなかった。ラインハットがパパスを必死の状況へ追いやった、とヘンリーは考えているし間違ってはいないのだが、父を見くびらないでほしい、とルークは思う。グランバニアのパパスは、旧友の息子を誘拐されてそのまま放置できるような男ではなかったのだから。
 パパスがゲマと対峙したとき手も足も出せなかった本当の原因は、自分、ルークだった。ルークもまた、ヘンリーと同じく、パパスの死に関して罪の意識を一生背負っていくつもりだったし、父の意志を守り続けるつもりだった。
「その通りです」
と、ルークはつぶやいた。アイシスは微笑んだ。
「話を変えましょう。そうですわ、ルキウス殿にひとつお話ししておかなくてはならないことがありますの」
「なんでしょうか」
「さきほど私が話したことを覚えていらっしゃいますか。二代前の女王アイシャですが、彼女は、本当は女王になるはずではなかったのです。アイシャの異父姉、アミラが他国へ嫁いでしまったので指名を受け、即位しました。アミラは自分が女王の娘だとは知らなかったのです」
はあ、とルークは言った。
「アミラという名に心当たりはありませんか」
「えーと、わかりません」
「アミラを見初めてテルパドールから連れ出したのは、グランバニア王コルネリウス。二人の間のお子がパパス殿」
あっとルークは声をたてた。
「では、父はテルパドールとグランバニアのハーフだったのですか?」
「そうなりますね。つまりグランバニア王家は三代続けて国外から妃を得たことになります。アミラ王妃、マーサ王妃、ビアンカ王妃と。ルキウス殿、あなたのお体にはテルパドールの血が流れているのです」
 父のパパスがテルパドールの技術を学んでグランバニア城の築城に活かしたのは、この国が生母の出身国だったからだと、ようやくルークは思い当たった。
「パパス殿はマーサ王妃捜索の一歩としてテルパドールヘおいでになりました。最初からここに天空の兜があることを知っておられたのでしょう」
父は装備も試してみたかもしれない。そして失敗したのだろう。
 実はルークは、父が天空の剣を手に入れた経緯を今にいたるまで知らない。父の遺した手紙にはほとんど言及がなかった。入手元はテルパドールか、そうでなかったとしてもテルパドールで天空の剣の情報を得たのかもしれないとルークは思った。ここは古代の叡智を伝える国なのだ。
「ルキウス殿、このアイシスは、あなたとはまた従姉妹ということになります」
「女王様……ありがとう」
その言葉は素直に口から出てきた。
「ぼくはずっと、自分には家族がないと思って生きてきました。今は妻がいて子供たちがいて、友達や仲間がいて、そして貴女がいる。いつのまにかここまで来たかと思ったら、なんだか、嬉しい」
アイシスは微笑んだ。
「その方たちが、城の上の方であなたの帰りを待っていらっしゃるはずです。これは占いではありません。私は知っているのですわ」
ルークは椅子から立ち上がり、うやうやしく一礼した。
「お茶をごちそうさまでした。ぼくは、帰ります」
人間の世界へ帰ろう、と素直にルークは思った。モンスターの世界に惹かれても、それでも今はまだ、ヒトの世界へ。女王に背を向け、砂漠の中の神秘の庭園を通り抜け、ルークは自分の属するところを目指して、一歩ずつ階段を上っていった。