ゴールド金貨25枚の謎 3.謎の両替男

 というわけで、パーティーも半ばを過ぎ、グループごとにテーブルについてデザートを楽しむことになったとき、リアラの真横にはネビルがはりつき、リアラ自身は真正面にミランダをにらむという態勢だった。リアラと同じテーブルについたのは、ほかには商人のオランと、リアラの妹リルシィ。
 主人役のセルジオは、パーティーの主賓、ヘンリーとマリアを別のテーブルに招いてなにやら密談していた。
 ミランダはしょっちゅうネビルとリアラの結婚をほのめかす、ネビルは自己陶酔気味の目つきでよりかかってくる。リアラはキレそうになっていた。
 両替男のことを思い出したのは、そのときだった。
「オラン小父様、今日、不思議なことがあったんですのよ。この謎を解いてくださったら、デザートのおかわりをさしあげますわ」
商人組合の理事オランは、入手の困難な氷で冷やしたムースにシロップをかけたデザートに舌鼓を打った。
「ああ、これはおいしいねえ」
「おもしろそうなお話ね。お姉さま、聞かせて?」
とっさに妹のリルシィが、リアラの出したキューを受けてくれた。
「25枚のゴールド金貨を両替に来る男の話なの」

「たしかに、不思議ですこと」
話を聞いたリルシィがそう言った。
「オラクルベリーで商売をしていたら、一日に25ゴールド差しくらい、何回か受け取るでしょう。なんで手元にないんでしょうね」
オランはおもしろそうに目をくるくる動かした。
「そうだねえ、あたしが思いつくのは、、売っているものの値段が24ゴールド以下の、そう、子ども相手の駄菓子売りか何かぐらいだが」
「それでも一日の売り上げが25ゴールドちょっとというのはあまり考えられませんわ。なんで他の売り上げも25ゴールド差しにしなかったんでしょう?どうして一本だけ25ゴールド差しが必要だったんでしょうか」
リルシィは猫なで声をだした。
「ネビル兄さんなら、こんなことすぐおわかりになりますわね?」
リンダとリルシィは対照的な性格をしているが、実は仲がいい。二人の共通の趣味のひとつが、ネビルをからかうことだった。
 案の定、ふっと鼻息を立てて、ネビルがふんぞりかえった。
「ああ、リルシィ、君の姉上は思った通り、優しい人だ。私の頭脳を証明するチャンスをつくってくれたんだから」
「そのとおりですわ。がんばって、お兄様」
お兄さま、のあたりで声の調子を高める。リアラはちらっとリルシィをにらんだ。
「こんなの、謎でもなんでもない。若い娘が両替をしていて、男がしょっちゅう窓口に来る。決まってるよ、リルシィ、その男は一目でいいから美しいリアラ嬢の顔を見、声を聞き、同じ空気を呼吸する喜びを味わいたかったんだ。ああ、愚かな男だ」
思い入れたっぷりにネビルはリアラを見つめた。
「私という者がいるのに」
リアラはできるだけ横を見ないようにした。
「そうなの、リア姉さま?」
「はずれ」
ぴしゃっとリアラは言った。
「このあいだ伯母さんもいらしたでしょ?あたし目当てなんていう態度じゃなかったですよね。やけに急いでたし」
「ええ、そういえば、そうねえ」
ネビルが口を開くより早く、オランが咳払いをした。
「色恋沙汰というよりも、これは贋金じゃないかな。私の若いころに、オラクルベリーで贋金騒ぎがあってね。たしか贋金と金差しを交換にきた男がいたよ」
リアラはドレスの内側に縫い付けた小物入れから、両替男から受け取った問題の金貨を一枚さぐり出して、妹に渡した。
「どう思う、リル?」
リルシィは金貨をつまみあげ、裏、表、裏、とたしかめると、重みを確かめるように目を閉じた。再び目を開いたときには、迷いはなかった。
「これは本物よ、姉さま」
リアラはうなずいて、オランに向かってはっきり言った。
「この子が本物だというのなら、まずまちがいありませんわ、小父様」
オランはにんまりした。
「セルジオ商会の大番頭さんの秘蔵っ子だけあるね。さすがリルシィ嬢さんだ。頭がいいだけじゃなく、しばらく見ないうちにきれいなお嬢さんになりなすったしねぇ。うちの息子でよかったら、お嫁に来ておくれよ」
幼いころからかわいがってくれた父の友人の言葉に、リルシィは珍しく頬を染めた。
 コホンと咳払いをしてリルシィが言った。
「リア姉さま、私、考えたんですけど」
クールなこの妹の頭をリアラは信頼している。
「その方、紐がほしかったのでは?ほら、お金を編むのには丈夫な紐を使うでしょ?」
リアラはうなった。それは、考えていなかった。
「たしかに、あの紐は丈夫よ。でも、オラクルベリーに同じ紐を扱う店はあるわ。あたしが仕入れてるからまちがいないわ」
そのときだった。ネビルが、胃でも痛いかのようなしかめ面をリアラに向けた。
「リアラ」
「え、なに?」
「ぼくにはすべてわかった」
ネビルは真剣な顔だった。
「なにが?」
ネビルはいきなりリアラの手をとった。
「ちょっとっ」
ここで張り倒すわけには行かない。リアラはあせった。
「ぼくの考えている通りなら、セルジオ商会が襲われるよ」
「そんな、ばかな」
「聞いてくれ、リアラ。君が見た男は、盗人どもの下見だ。絶対に間違いない!セルジオ商会の様子を探りにきたんだよ」
「はぁ?」
「だいじょうぶ、ぼくが必ず守ってあげるからね」
ネビルは勝手に盛り上がっていた。
「こうしてはいられない。すぐに守りを固めなくては!」
そのとき、わははっ、と声を上げてヘンリーが笑った。