雨と太陽の王国 9.次期アレフガルド王は養子とすること、ならびにそもそも光の玉はいずこにありしか

 その夜、ラダトームは、ついに三たび敵をしりぞけた。
 翌朝コーネリアスは、ロイたちが捕まえたきとう師を見て、最初に襲撃を予告してきたのはこいつだったと証言した。
「おまえが一人でたくらんだのか?」
きとう師はあわてて首を振った。キーキー泣いたり、命乞いをしたりするなかから、なんとか聞き出したことをつなぎ合わせると、大変なことがわかった。
「竜王の子孫だと?」
「と、こいつは言っております」
コーネリアスはきとう師をこづいた。
「ハーゴンの軍勢とは別に、あわよくばラダトームを落として自分のものにしようと竜王の子孫はたくらんだようで。こやつに智恵をつけ、アレフガルド中のモンスターを駆り出して、当城を狙ったようです」
「執念深いったらありゃしない」
「おおせのとおりで」
そう言ってコーネリアスは、笑いをごまかすために空咳をした。すっかり酒気の切れたソールガルが、さも恐ろしげにきとう師を見て、震え上がっていたのである。もともとノリがいいだけの小心者なのだ、とコーネリアスは思った。
「おれたちは旅を続けるが、こいつをお預けしていってよろしいか、ソールガル殿?」
ロイが言うと、ソールガルは泣きそうな顔になった。
「それは!それだけは!」
ずずっと鼻をすする。
「勘弁してくだされ。もう王位なんぞいらん。タリウス様にお返しするわ」
「タリウス様ねぇ。どこへいらしたのやら」
アムはため息交じりだった。
「いまだにお戻りになりませんね」
エセルリー史官長が言った。彼女は長い戦いの間、ほとんど休息を取らずに避難してきた市民の世話を続けていたのだった。
「敵の攻撃の合間に城に残った者の間で話し合いましたの。タリウス陛下がおもどりになって、ともに戦ってくださるならばよし、ずっと隠れたままでいらっしゃるのなら、ラダトームは別に王を立てる所存でございます」
ロイたちは顔を見合わせた。
「それは、まあ、思い切ったな」
エセルリーは微笑んだ。
「タリウス様もいやとはおっしゃいますまい。新しい王ですが、ロイアル様方お三人の中で、将来二人以上の御子をお持ちになった方にお願いして、御子のうちお一人をアレフガルドのあるじに申し受けたく存じます」
「養子……?」
「はい」
 王家同士の養子縁組が可能ならば、ローレシアの王太子がムーンブルグの総領姫と結婚しても、子どもの数さえ多ければ、次の世代に問題はない。ロイは思わず、アムの顔を見て、そして目が合ってしまった。
 アムはすぐに横を向いたが、端麗な横顔が赤くなっていた。
「となると、どうしましょうかな」
「えっ」
コーネリアスは、聞き返したロイにむかって、きとう師を指差して見せた。
「ああ、うん、こいつのことか。そうだな、竜王の子孫とやらにつき返してやるか」
「では、連れて行ってくださるのか」
ソールガルはうれしそうだった。まだアムを未練がましく眺めながら言った。
「殿下方にはせっかくお越しのところを、なんのお構いもできず、真に残念だった。またのお越しをお待ちしておりますぞ」
アムは氷のような一瞥をソールガルにくれた。
「サリュー、光の玉はどうなって?」
サリューはため息をついた。昨日の夜からサリューはいささか元気がなかった。
「それがね、悪い知らせがあるんだ。聞く?」
「ええ。聞きましょう?」
ふう、とサリューはつぶやいた。
「このあいだからぼくは、うちとこの家系をたどってたわけ。勇者ロトから竜退治のアレフまでね。その結果わかったことは、アレフの周りの状態だった。ほとんど天涯孤独に近いんだよ」
サリューは服のかくしから、羊皮紙を取り出した。
「というわけで、アレフがローレシアの王様に納まったとき、アレフにとって大事なものを預けるべき預け先は、ごく少なかった」
「大事なものって」
「まず、ロトのしるし。次に防具類で上からロトの兜、ロトの盾、ロトの鎧、それから愛剣ロトの剣、最後に光の玉」
「旅にでる前に親父が言ってたんだけど、ロトのしるしはローレシアにあるはずだってよ。でも大事にしまいこみすぎて場所がわからないとか言ってたな」
「これでしょ?」
サリューは羊皮紙に書いたリストの一番上を指差した。しるし、ローレシア、とあった。
「6種のアイテムがある。でもって預け先は5ヶ所なんだ。ローレシア、サマルトリア、ムーンブルグ、それからラダトーム、そして聖なるほこらだよ」
漂白された羊皮紙は、サリューの丸っこい字でいっぱいだった。
「さて、夕べぼくが見つけたのは、ローレシア王アレフが、ローラ王妃を伴ってラダトームに里帰りしたときの記録だった。アレフは滞在の間、約一日外出していてね。帰ってきてから周囲の人間に、“ロトの剣を、自分以外に取りにいかれない場所においてきた”と語っている」
「どこへ置いたって?」
思わずロイが聞くと、サリューは羊皮紙のリストの一番下を見せた。
「アレフの時代にアレフしか行かれない場所というと、たぶん竜王の城の地下だろうね。これ以上安全な保管場所はないわけだ」
「それじゃ、おれは、おれならもしかして」
「うん。行ってみようよ」
「おうっ」
ロイは右手のこぶしを左の手に平に打ちつけた。猛然とやる気が湧いてくる。
「でね」
サリューはもう一度ため息をついた。
「さっきの続き。しるしはローレシア。剣は竜王の城。盾は最初からわかってたんだ、ぼくんち、サマルトリア。聖なる祠には兜を預けたらしい。こうなると、ラダトームとムーンブルグに何を預けたんだろうか?」
アムは首を振った。
「私は何も聞いていないの。たぶん、王位継承のときに教えられることになってたんでしょうね」
「ぼくんとこもそうだよ。こんな緊急事態でもなかったら、教えてもらえることじゃないみたい。アム、よく聞いて。トールの話じゃラダトームにはロトの鎧があったらしい。でも盗まれたみたいだけど」
「ということは」
「光の玉は、最初から、ムーンブルグにあったんだ」