ホメロス戦記・七人の傭兵 3.腹いっぱいの飯

 誰かが声をかけた。
「お客さん?」
 イレブンは我に返った。いつのまにか買い物客の列の先頭になって、道具屋の主人が話しかけていた。
「何をさしあげますか?」
「あの、ツケで薬草を売ってもらえますか?提灯づくりのロウさんの」
「ああ、何年か前にこの村へふらっと流れて来たおじいちゃんだろ?」
「え、村の人だと思ってました」
「あの人は、よそ者と言えばよそ者なんだ。が、ロウのじいさん、仕事が丁寧だし、いつもニコニコしてあたりが柔らかい人でね。みんなすっかりなじんで村のもんだと思ってるよ。じゃあ、ロウさんのツケにしておくね。お客さん、親戚?」
 てきぱきと商品を用意しながら、道具屋の主人はずっとしゃべっている。
「いえ、祖父の友達です」
「そうなの?目元なんてちょっと似てるよねえ。はい、薬草」
 イレブンは薬草を抱えて道具屋を出た。

 イレブンは広場への階段を降りた。
 石畳の広場は、まだ騒然としていた。旅の戦士たちは村の出口を目指す者が多かった。プチャラオ村の住人たちは広場の階段のそばに集まって、何か熱心に相談していた。
 イレブンは目で、ロウとテオを探した。二人は広場に面した民家の玄関のあたりに居て、家族らしい数人の村人と何か話していた。
「うちの子を助けていただきまして、なんとお礼を言えばいいか」
 何度も頭を下げ、涙交じりに女がそう言っている。あのときテオが助けた男の子の母親だ、とイレブンは気付いた。
 その子、リキオはようやく落ち着いたようで、母に手をひかれてその場にいた。
「おじいちゃん、ありがとうございました」
 テオは微笑んだ。
「おお、いい子じゃ。助かってよかった、よかった」
 リキオの母親と祖母らしい年寄りが口々にテオに礼を言っていた。
「奥様も大奥様も頭をお上げくだされ。わしにも孫がおりましてな。年をかえりみずつい、無茶をいたしました。モンスターどもを退けたのはさきほどのお武家様方じゃ。わしはどれほどのこともしておりません」
「何をおっしゃる、この子の命の恩人です」
「さあさあ、ひとまずお座りください」
「先ほどのケガは大丈夫ですか?」
「家で採れた野菜で、何か美味しいものを作りますので」
 一家はロウとテオを、家の前に置かれた丸テーブルと三本足の木の椅子へ座らせた。
「これは、どうしたものですかな、ロウさま」
 ちょっと閉口した顔でテオがそう言った。
「まあまあ、お茶をつきあって、それからおいとましよう。どれ、わしから奥さんへそう話してこようか」
そう言って席を立った。
「じいじ!」
 イレブンはやっと祖父に話しかけることができた。
「薬草買ってきたよ。痛くない?」
「おお、ありがとう。思ったよりは痛くないよ」
「この家の子、助かってよかったね」
 イレブンがそう言うと、テオはちょっと笑った。
「あの坊ちゃんがおまえの小さい頃に似ておっての。落ち着きなくちょろちょろするところはそっくりじゃ」
 ぷう、とイレブンが頬をふくらませたとき、誰かが話しかけた。
「ここ、相席いいか?」
 旅の戦士らしい若い男がそこにいた。
 若者の青い髪はまるでつんつんと逆立っているようだった。耳には大きめのフープピアス、首には青い石を連ねた首飾り。地味な緑のチュニックにサッシュを巻いただけという軽装だが、腰には短剣を納めた鞘が左右にひとつずつあった。外国の人だ、とイレブンは思った。
「……どうぞ」
 ここは茶店とかじゃないのにどうしてだろう、とイレブンは不思議に思った。
「あんた、トレジャーハンターのテオさんだろ?」
 座ったとたん、じいじに向かって、挨拶もなしに彼はそう言った。この人、少し失礼だ、とイレブンは思った。指無しのグローブをはめた手を拳にして、顎の下に当てている。そのまま彼は、じっとテオの顔を見ていた。
 じろじろ見られても、テオは落ち着いていた。
「お若いの、その名前をどこで聞きなすった?」
 にやっとして青髪の旅人は肩をすくめた。
「レジェンドの名を知らなきゃ、もぐりと言われても仕方ねえ。俺はカミュ。かけだしのトレジャーハンターだ」
 テオはただ柔和に微笑んだ。
「威勢のいい若い人と話すのは楽しいもんじゃ。が、わしはとっくに引退しとるよ。こんな爺に何かご用かな?」
「なんでプチャラオ村へ来たんだ?」
 ずばりと斬り込むカミュを、テオはふんわりと受け止めた。
「古い知り合いがここに住んでおってな。孫を連れて久々に会いに来たんじゃ。老い先短い身じゃ、孫自慢はできるうちにせんとな」
 カミュはちらっとイレブンの方を見た。
「へえ、孫ってこのチビか」
――チビだって?!
 くっくっとカミュは笑った。
「むちむちほっぺが、怒って赤くなってるぜ」
 イレブンは、ふん、と脇をむいた。
「カミュ君とやら、なんでも魔物がこの村を狙っているそうじゃ。早めに立ち去った方がよかろう」
「ああ、俺もそうする気まんまんだったんだが、いろいろと気になる顔をお見かけしてね。特に生ける伝説を目の当たりにしちゃあ、黙って立ち去るわけにいかねえじゃねえか」
 笑みを消して、カミュは尋ねた。
「この村、訳アリなんだろ?」
 んん?とテオはつぶやいた。カミュの目は底光りしているようだった。
「さっきモンスターを追い返した二人は、私服着てるが本物の軍人だ。どこかの王国がこの村を守りたがってるってことだよな。すげえお宝が隠されてる、と俺は踏んだ。そこへもってきて凄腕トレジャーハンターのあんたがここにいる。教えてくれよ。この村、何なんだ?」
 泰然とテオは答えた。
「偶然だのう。わしらは通りすがりの旅人じゃよ」
 無視してカミュは言い募った。
「古代の王国のお宝か?それともどっかの王家が軍資金を山の中にでも隠したのか?待てよ、後ろ暗いやつらがやばいブツをここで受け渡すってのもありだな」
「思い過ごしじゃ、お若いの」
 カミュの左手が右腰の鞘に忍び寄り、短剣の柄を撫でた。
「蛇の道は蛇ってな。吐けよ、じいさん」
 イレブンはつい、大きな声を出した。
「じいじは知らないって言ってるでしょ!」
 テオはイレブンに目配せした。
「およし、イレブン。カミュくん、お前さんの情報は確かかね?それとも、ただの願望かね?駆け出しの若いトレジャーハンターはガセネタによく踊らされるもんじゃが、この村で踊り続けていると逃げられなくなりそうでのう」
 ちっ、とカミュは舌打ちした。
「とぼけ方にも年季が入ってるってわけか。よし、わかった。俺もいっちょかませてもらうぜ」
そう言って席を立った。
「軍人は苦手だが、そうも言ってらんねえからな。あんたらに張り付いて、ネタをつかんでやる」
 カミュがあごを動かした先には、村人たちと話し合っているグレイグとホメロスがいた。
「後でほえ面かくなよ!」
 捨て台詞を吐いて去っていくカミュを、イレブンはにらんでいた。

 モンスターの来襲予告とユーウェイの撤退は、あっというまに村中に知れ渡ったらしい。戦士、村人、職人、避難所のスタッフ等が、宿屋の立っている石畳の広場を右往左往していた。
「何をしている、グレイグ。あのユーウェイという男を追うぞ」
 ホメロスが言うと、グレイグは去りがたい顔で広場を見回した。
「ああ、うむ、そうだな。だが、これからこの村はどうなるのだろうな」
 お武家さま、お武家様、と呼ばわりながら、プチャラオ村の住民らしい二人の男が石畳の上を小走りにこちらへやってきた。一人は老人、もう一人は顔が似ていて親子と思われる壮年の男だった。
「先ほどは孫をお助けくださいまして、誠にありがとうございました」
 二人は、伏し拝むような手つきをした。
「騎士なれば当然のことをしたまでだ。お孫さんを助けたのは勇気のあるお年寄りのほうだろう」
 グレイグはそう応じた。
「お孫さんにケガはないか」
 ホメロスが尋ねた。
「おかげさまで、別条ありません。わたくしはリキム、これはせがれでリキチと申します。孫のリキオの父親でございます」
「家でささやかながら食事などさしあげたいと思いますが、おいでいただけませんか」
 グレイグとホメロスは顔を見合わせた。
「我らも大望あって諸国遍歴の途中だ。お気持ちだけいただいておこう」
「そうおっしゃらず……!」
「こんな田舎ですが、生り物だけは美味いですから」
「採れたてです!」
 なおも招こうとする父子に、グレイグは圧されていた。
「リキム、リキチ!」
 後ろから、農民の一団が走ってきた。先頭は、ユーウェイに借金のことで話しかけていた男だった。
「お武家様方をお引止めしてくれ」
 はあはあと息を切らせてその男は言った。
「この村の村長をつとめるギサックと申します。どうか、お待ちを」
 ギサックの後ろにかたまっているのはプチャラオ村の農民たちだった。
「お願いです、どうか、十日後に襲ってくるというモンスターからこの村を守ってくださいませんか」
 村長も農民たちも、せっぱつまった顔をしていた。
――そう来たか。
 グレイグは驚いたが、旅の戦士たちがどんどん出ていく状態では、選択肢がないのだろうと思った。
「どうする、ホメロス」
「村長」
 そう呼びかけたときは、ホメロスは完全に意識を切り替えていた。
「正直言ってモンスター対人間では、分が悪い。さっさと村ごと逃散するのが、一番傷が浅くて済むと思うのだが」
 農民たちの間から、悲鳴のような声があがった。
「冗談ではねえ!農民が土地を離れたら、どうやって生きていぐだ!?」
「先祖代々、苦労を重ねてきた畑をモンスターに渡すんか!」
「やっと今年の収穫がまともにできそうだっていうときに……」
 グレイグは両手で抑えるようなしぐさをした。
「俺はバンデルフォンの小麦畑の中で育った。お前たちの言い分もわかる。わかるのだが」
 そう言って、ホメロスの方を見た。ホメロスは視線をそらせて、つぶやいた。
「戦う者の理と働く者の理は異なっていて、まず交わらぬものだ」
 ホメロスは正しい。小さいころからいつもホメロスのほうが正しかった。だが、グレイグはプチャラオ村の人々に故郷の農村の姿が重なって見えた。
「どうしたもんだか」
 村人たちは顔を見合わせた。
「相手はモンスターだべ」
「勝てっこ、ねえだ」
 完全に怯えているようだった。
 中年の村人が舌打ちをした。
「なあ、村長さん、お武家様方に頼っても無駄だろう。モンスターが襲ってきたら、倉庫にある食糧を少しだけ出して、それを持って帰らせれば丸く収まるんじゃねえか?」
 村人たちの顔が明るくなった。
「ブブーカの言うのも、一理あるだ」
「そんだな、血を流すくらいなら、なあ?」
「米の一俵、干し魚の一桶もくれてやれば、あいつらは満足するかもしれん」
 ホメロスは腕組みをして彼らを眺めていた。
「おろかなことだ」
 なんだと、とブブーカが気色ばんだ。
「おい、落ち着けブブーカ」
 周りが止めようとして騒ぎ出した。
「ちょっと待ってくだされ」
 卵のようにつるりとした禿頭の小柄な年寄りが割って入った。
「わしはつい最近この村へ流れて来た新参者じゃが、一言いわせてくだされ。ブブーカさんの言うことには、穴がありますぞ」
「なんだと、提灯張りのじじいが」
 まあまあ、村長がなだめた。
「ロウさん、あんたをよそ者だなんて思う人は村にはいないよ。意見を言ってください」
 村長に会釈してロウはつづけた。
「モンスターが来て、食糧を渡したとしましょう。それでその次に『もっとよこせ』と言って来たら、どうします?」
 憤然とブブーカが言った。
「『この間渡したからもうだめだ』と断ればいい」
 きらりとロウの目が光った。
「それを、モンスターが聞き入れてくれますかな?」
 ブブーカは口ごもった。
「そんな、それは、その時になってみなけりゃわからねえ」
「いいや、わかる」
と言ったのはホメロスだった。
「あいつらは学習する、“ヒトは、脅せば食糧を差し出す”、と」
 ブブーカは完全に沈黙した。その上を、ざわめきが漂った。
「やっぱり戦うしかねえべか」
「今日来たようなやつらが、もっと大勢来るんか。おっかねえべ」
「おらだって怖ぇだよ。モンスターなんて、生まれてはじめて見ただ」
 おずおずと村長が話しかけた。
「お武家様は、怖くなかったのですか」
 グレイグは苦笑いをした。
「怖かったとも。戦うのはいつだって怖い。だから、万全の準備をして臨むのだ」
「もうやめろ、グレイグ」
とホメロスが言った。
「無理だ、不可能なのだ。怯えて縮こまるだけの人間たちをかばいながら戦えるものか!そんな苦行じみた防衛戦など、俺はごめんだ」
 腕組みをして、つんとそむけた顔、やや紅潮した頬。子供の頃と変わらないな、と一瞬グレイグは思った。
「その言葉、間違いないな?」
 ああ?と不機嫌に聞き返し、間違いない、とホメロスは言いきった。
「聞いたか、村長、皆の衆」
 浮き浮きとグレイグは言った。
「お前たちも血を流す覚悟があるなら、この村を守るのは不可能じゃない!」
 おい、とホメロスが言いかけたが、グレイグは煽り続けた。
「今の戦いでお前たちは、最後には農具を振りかざしてやつらを追い払ったではないか。あの感じでやればいいのだ」
「いや、あれは」
 農民たちは互いの顔を見合わせた。
「リキムんとこの坊主が危ないってんで、みんな必死で」
「村の者なら助け合わねえと。ましてや子供だし」
 ほら見ろ、とグレイグは言った。
「今脅かされているのは誰だ?おまえらの子供や女房、友達だろう。やる気があるなら、俺たちが戦い方を教えてやる」
 農民たちはぽかんと口を開け、互いの顔を見合った。
「できるだべか……?」
 村長といっしょにユーウェイにくってかかっていた小太りの村人が、そのとき片手を上げた。
「おら、戦うだよ」
 明瞭にそう言った。周りがざわめいた。
「バハトラ、本気か!」
 バハトラと言うらしい小太りの農民は、周囲の農民たちを説き伏せにかかった。
「このままモンスターをのさばらせておいたら、せがれのチェロンが大人になるころには村はどうなってるだ?どれだけ作物をつくっても、しょっちゅうヤツラが来て食い物をさらっていくだか?チェロンにそんなひもじい思いをさせるだか?とうてい我慢できねえだ!」
 やや軽い感じの若い男が声をかけた。
「戦うなんて、できるのかぁ?」
「できね」
というのがバハトラの答えだった。
「だから、おら、このお武家様方に訓練してもらうだ。ボンサック、おめえも新婚の嫁さんを守りたいべ?いっしょにやるだよ」
 おおっ、という声が村人の間から上がった。
「やるべ、やるべ!」
 グレイグは、気分が高揚していた。
「見ろホメロス、ハンデがひとつ減ったぞ」
 歯ぎしりしかねない表情でホメロスがにらみつけた。
「勝手に決めるんじゃないっ。無計画にもほどがある」
 あはは、とグレイグは笑った。
「そうそう、俺はずさんで、無計画で、闘うことしか知らない男だ。お前が頼りだよ。子供の頃からそうだろう」
 昔、十歳前後のころにホメロスと似たような会話をしたことを思い出す。
――いつもぼくばっかり頼っていると、そのうちたいへんなめにあうぞ!
 そう脅した幼いホメロスの、柔らかい薔薇色のほほをグレイグはまだおぼえていた。
――おれがたいへんなめにあったら、ホメロスが助けてくれるだろ?
 幼い自分がそう言い返すと、バカか!と一言吐き出して彼は真っ赤になった。あれはいくつのころだったろう、と懐かしくグレイグは考えた。
 大人になったホメロスの怒りは、はるかに不穏だった。
「お前というやつは、いつまで俺の苦労の上にあぐらをかいているつもりなのだっ。この村を守って戦えだと?」
「もちろん、俺だって体を張る」
 納得するどころか、ホメロスは唸るような声で責めた。
「きさまも王宮戦士のはしくれだろうが。単なる戦闘と防衛戦の違いもわすれたか?立案、工作、訓練、指揮、何もかも俺一人でできるかっ」
「さすがわが友だ。そこまで考えてくれていたのだなっ」
「グレイグ!」
「わかった、わかった、じゃ、あとどれくらい人数がいればいいのだ?」
 子供のころから、いたずらを思いつくのはグレイグ、具体的な段取りを考えるのはホメロスだった。ずっとそうやってきた。
――なっ、いいだろっ?
 グレイグが笑顔でそう言い張るとき、ホメロスはどれほど渋っても最後は賛成してくれた。
「……完全に戦う方向なのか」
 低い声でホメロスが尋ねた。昔と同じ、バカほど明るい満面の笑顔でグレイグは答えた。
「もちろんだとも。なあ、村長」
 ギサックと名乗った村長は頭を下げた。
「ありがとうございます。今年の収穫が売れたら、その代金はまるまる差し上げます。ただ、作物が金になるのはまだ先のこと。今私たちが差し上げることのできるお礼は、飯しかありません。でも、この村においでの間は腹いっぱい美味い飯を食べていただきます」
「腹いっぱいの飯か。何か月もそんなものは食べていないな。ありがたいかぎりだ。村長、心配するな。我が友ホメロスは賢く、強く、そして何より騎士の魂を持つ男だ」
 ギサックと農民たちは、無言の哀願をホメロスに浴びせた。
「村長、俺はこいつと違って安請け合いはしない」
とホメロスは言った。
「これから村を一回りして、防衛が可能かどうか判断する。あとで村長宅へ行く。返事はその時まで保留としたい」
 了解の印に、村長と農民たちは深く頭を下げた。

 すたすたと石畳の上をホメロスは歩いて行った。
「怒っているのか、ホメロス?」
「ああ、怒っている」
 無表情な顔で冷静にホメロスは言った。こちらには視線さえくれなかった。
 グレイグはあいまいな笑顔になった。
「その、強引に決めて悪かった」
「そう思っているなら、やっぱりやめると村長たちに言ってこい」
「それはできん!」
 がっと音を立ててホメロスのブーツが石畳を踏まえ、同時に振り向いた。
「だったらうわべだけの謝罪などするな!」
 まあまあ、とグレイグは手を広げた。
「つまりその、俺は、おまえのチカラになりたいのだ」
 はぁ?とホメロスは不機嫌につぶやいた。
「村を一回りすると言っていただろう。俺の意見が何かの役に立てば」
「それはない」
 きっぱりとホメロスは言い切った。グレイグはその場でうなだれた。
「しょんぼりして見せれば俺が同情すると思ったのか?」
 明らかにホメロスはいらついていた。
「あー、そのう……」
 小さくホメロスは舌打ちした。
「とにかく、俺は村の検分に行く。グレイグ、お前は人を集めろ」
「おお、人だな?」
「数は、そうだな、俺とお前以外にあと五人は欲しい。農民を率いて小隊の隊長となって戦い、一方面を担当できる人材が五人だ」
「全部で七人だな?よし、まかせておけ!」
 喜ぶかと思いきや、あからさまにため息をついてホメロスは村の奥への階段を上がっていった。