ホメロス戦記・七人の傭兵 12.槍隊の奮戦

 ホメロスは村長の家の屋上にいた。道具屋の前あたりから教会前まで、誘導路の状態を一目で把握できる場所だった。
 ボウガンによって小型のモンスターはほとんど倒されている。その屍を踏み越えて、赤紫のローブのアークマージが大型のモンスターを従えて誘導路を上がってこようとしていた。
「残りは」
 そうつぶやくと、そばにいたカミュが数え始めた。
「でかいのが四十、細かいのが二十ちょっとってとこだな」
 ううむ、とロウがうなった。
「襲ってきたモンスターのうち二百以上は倒れたか。まあ、いくさの常じゃな」
と言いながらロウは、左手のこぶしを右手で包んで目を閉じ、つかの間の祈りをあたえていた。
「アラ、ロウちゃんたら優しいとこあるのね?」
「シルビアさんや、わしは常に優しさに満ち満ちておるよ。軍師殿、奥の農地へ、あれをすべて送り込んでも大丈夫と思われるかな?」
 ホメロスはじっと考えていた。
「念には念を入れるか」
「まかせてちょうだい」
 気取ったしぐさで片手を胸に当ててシルビアがそう言った。
「あいつらをグレイグと槍隊へ引き渡すまでに、少しでも減らしておきたい。そういうことよね?」
「半分か。いいだろう。目標は敵の数が四十、とする」
「でもボウガン隊は、もう矢がないわ」
 マルティナたちは口々に言った。
「細工班も転がしものが品切れだ」
「火責めの油はまだ少々あるが、ろうそくの細工は一回こっきりじゃ」
 そうだな、とホメロスはつぶやいた。
「仕掛け物はもうないから、タイミングだけが頼みだ」
「タイミング?」
「一本道の中で彼らは二列縦隊に並んでいる。自分の前後の列はようすがわかっても、それ以外はわかりにくい。一番後ろの一人がいきなり襲われたら、それと認識し、仲間全体に知らせ、反撃するまで時間がかかるはずだ」
 ふふ、とロウが笑った。
「背後を取っての、静かで確実な一撃ですかの」
「それが一番だが、相手もモンスターだ。人間よりも勘は鋭いし、大型の個体は手ごわい」
 ホメロスは仲間に念を入れて説明した。
「蛮勇は無用。大型のモンスターは無視してくれ。最後尾が小型のモンスターのときがチャンスだ。そいつを背後から狙え。そして最初の一人は取れるが、奴らはその次に備えて警戒するはず。そのときはこうしてくれ」
 ホメロスはロウ、シルビア、マルティナ、カミュに策を授けた。
「ホメロスちゃん、性格悪いわァ」
とシルビアは言ったが、目がきらきらしている。
 マルティナは長い指で自分の二の腕をこつこつたたいた。
「時間はかかるけど、ノーダメージでいけるならそれに越したことはないわ。でも、やつらが気づいたらどうするの?」
「そのときは、俺がこの屋根の上から合図する。全員ばらばらに屋上通路へ逃げて農地へ集合だ。そこにはグレイグと温存していた槍隊がいる」
 よし、とカミュはつぶやいた。
「じゃあ、組分けしてくれ」
 そうだな、とホメロスはつぶやいた。
「シルビア、カミュ、先行して農地への階段で潜伏。ロウ殿とマルティナ嬢はやつらが通過した後背後についてくれ。いいか、くれぐれも無理はするな」
 にやっとカミュは笑った。
「軍師の旦那、どこまでも苦労性だな。あんたのプランはいいと思うぜ。きっちり間引いてくるから安心しな」
「ええ、アタシたちにまかせて。ただでさえアナタ、ひとりで苦労をしょっちゃうタイプなんだから」
「そうそう、気楽に生きた方が長生きできるぞい。ワシが証拠じゃ」
「一度作戦をたてたら司令塔は、どーんとかまえていればいいの。そこで見てらっしゃい」
 口々に言うと同時に、彼らは屋根から降りて行ってしまった。
 ホメロスは片手で口元を抑えた。ここに双賢の姉のほうがいなくて幸いだった、と思った。もし居合わせたら、また顔が赤いだの口が笑っているだのとうるさかったことだろう。
 率直な信頼といたわりをこれほど浴びせかけられたのは、あの最初の人生で手塩にかけた部下たちを除いて自分には経験がない。少しくらい表情筋がゆるんでもしかたがないだろう、と思う。
 ホメロスは首を振った。
「彼らには、前世の記憶がないからだ」
 覚えていたなら、彼らが自分に与えるのは戦友意識ではなく裏切り者を見る嫌悪の目であるはずだった。
――それがどうした。どうせ今日、今のこの人生は、終わる。
 何度そうやって三十六歳で命を落としてきたことか。そう思いながらホメロスはあごを上げて吹く風に顔をさらした。日がまぶしくて目を閉じた。
――それなのに、いったいなぜ、この人生のこの瞬間が過ぎ去るのを、これほど惜しいと俺は感じるのか。

 壁に両側をはさまれた一本道の途中で、アークマージは息を切らせて立っていた。足元にはネズミ族やメソコボルトなど小柄なモンスターが戦闘不能で転がっていた。
「何人残った!?」
 アークマージが問うと、各々が数えだした。出てきた答えはだいたい四十だった。
「なんでこんなことに……!この村へ入ったときの頭数は、そんなもんじゃなかったはずだぞ!広場と階段の途中でひどい目にあったが、それでも五十以上は残っていたっていうのに」
「それが、階段を進む間にやつらが背中から襲ってきて、仲間がガンガン減ってんだよお」
 エリミネータが隣で嘆いた。
 「悪い夢みてぇだよぉ」
アークマージも同感だった。悪夢としか言いようがない。
 階段を進む細長い列の最後尾で襲撃が起こる。
 そうと聞いて、行進を反転させて駆けつける。
 するとそれまで先頭だった最後尾が襲われる。
 その繰り返しだった。
「もういいっ、かまうなっ」
とアークマージは怒鳴りつけた。
「そんなこと言ったって!!」
 手下のモンスターたちがそう言った。彼らモンスターにとって、戦いを挑まれたら応戦する以外の選択肢はない。戦いを拒むなど、あってはならないことだった。
「わからないかっ、それがヤツラの狙いなんだ」
 アークマージはいきり立つモンスターを説得した。
「もう後ろから襲われても相手にするな。この道を最後まで行けば人間たちが隠れているはずだ。そいつらを皆殺しにする。それでいいな?!」
 魔法つかいが不服そうに嘆いた。
「こんなことなら、魔界に残りゃよかった」
「馬鹿野郎!」
「だって!勝てるんですか、ほんとに!」
 アークマージを見上げる顔は、どれもにぶい憎しみを帯びていた。
「いいか、俺はこれから助っ人を呼び出す。はっきり言って、俺らとは格の違う大物の先生だ。今からぶつくさ言ったもんは先生の前で申し開きをしてもらうから、そう思え!」
 ようやくモンスターたちは黙り込んだ。
「わかったなら、急げ、走れ!」
 一本道の階段は、途中から自然の崖に刻んだ石段となった。アークマージたちは自然と早足になった。一度走り出すと勢いがつくのか、四十人弱の怪人族はめちゃくちゃな速さで平地までを駆け下りた。

 石段を下っていくと視界が開けた。眼下に広がるのは、広くはないがそれまでの一本道に比べればよほど動ける平地だった。
 真ん中には槍を構えた農民たちがいるのが見えた。
「あいつらだ!皆殺しにしろ!」
 凶暴な衝動に駆られてアークマージ率いる怪人族は雄叫びを上げた。モンスターに比べると、人は弱い。こっちは四十、向こうも同じくらいの数だった。一対一で負けるわけがない。
「がああああぁぁぁぁっ!」
 前足の爪を、斧を、剣を一斉にかかげ、その勢いのままモンスターの群れは平地へ躍り込んだ。
「うおおおおぉぉぉぉっ!」
 農夫たちは槍を構えて密集し、待ち構えていた。蹴散らしてくれる。モンスターは自信満々で突き進んだ。
 戦士の一人が前線から突出した。
「デルカダールのグレイグ!」
 そう名乗ったのは、人間にしてはかなり大柄な男だった。ベンガルを追い返したのはこいつか、とアークマージは思った。頭上でぐるりと長槍を回し、グレイグは腰を据えて槍を構えた。
 さっそくごろつきたちが戦斧をブチあてにいった。
「礼参りに来たぞ!」
 が、鋭い槍先が分厚い刃を跳ね返した。
「おうっ」
 それにあわせて、農夫たちがそろって槍を繰り出した。そのリーチの範囲に、虎男もごろつきも入り込めない。ごろつきどもが斧でうちかかったが、呼吸を合わせて突き出す槍衾にかえって討たれる者がでる始末だった。
「よくもっ、おい、おまえら、気合入れろ!」
 モンスターはもがいた。が、グレイグ率いる槍隊は崩れなかった。
「腰を据えろ!」
 雷のような大声で槍隊を叱咤した。
「いいか、打ち合わせの通りだ」
「おうっ」
 アークマージの傍らでエリミネータが金切り声をあげた。
「生意気なやつらだぁぁぁっ」
 ぶん、とうなりをあげてエリミネータの斧がスイングした。農民たちは、突き出した槍をたたき折られてぎょっとなり、あとずさった。
 相手の顔がこわばったのを見て、うれしそうにエリミネータは暴れだした。
 モンスターに応戦しながらジリジリと農夫たちはさがった。最初密集していた槍兵たちの間にすきまができている。中央で戦っているグレイグのまわりからしだいに兵たちがばらけてきたようだった。
 しょせん、このていど。アークマージはほくそえんだ。ヒトとモンスターの力の差は大きい。
「逃げねえのは、まあ、褒めてやる。おい、こいつらに格の違いをたっぷり教えてやろうぜ」
 虎男どもが調子に乗って吠えた。
「そら、そら、そらーっ」
 エリミネータは絶好調だった。エリミネータすなわち「排除者」という名前そのままに縦横無尽に暴れていた。槍を持った農民たちは、エリミネータが近づくと浮足立った。
 グレイグは最初の位置からかなり下がっていた。じりっとアークマージが前に出た。前線が後退している。
「チカラが自慢らしいな」
 アークマージは、気持ちよく嘲笑った。
「だが人間の中では強いほうだ、というだけだ、おまえは。俺達にはけっして勝てん」
 グレイグの顔がひきつった。眉をしかめていた。そして、なぜか口角があがっていた。
――こいつ、笑っているのか?
 どうも人間というやつはわからん、とアークマージは思った。
「ああ、俺の取り柄はチカラだけだ。だが、俺の仲間には頭のいいのがいる」
「利口な仲間がいるなら、こんな村からすぐ逃げればよかったのだ!」
 そう言ってアークマージは、手下に向かって叫んだ。
「こいつを黙らせろ!」
 突如、背後から叫び声がした。アークマージはあわてて振り向いた。
 怪人族のモンスターたちが、大混乱に陥っていた。
「どうした、おまえら!」
 怪人族はその名の通りヒトと形態が共通していて、ほとんどが二足歩行だった。その彼らが、空中で足をばたつかせている。よく見ると、目の粗い巨大な網に体を持ち上げられてしまい、地に足がつかないらしかった。
 アークマージは周囲を鋭く見回した。
 網は太い縄でできていて土で汚れている。それを軽くたわませて農地の柔らかい土の下に埋めておいたのだろう。そして怪人族のモンスターたちがその網の上まで来たとき、いきなり両側から引き上げたようだった。
 大声でグレイグが呼んだ。
「今だ、バハトラ、リキチ!」
 それまで伏せていたらしい農民兵が、左右から一隊ずつ寄せてきた。それぞれの隊長らしい農民が鋭い槍を網に向かって突き上げた。
 怪人族の持つ武器は網に阻まれて下へ届かないのに、農民兵の槍は網の目を通して簡単に攻撃できた。手下の悲鳴が響く中、アークマージはわめいた。
「きさま、謀ったなあああっ!?」
「当たり前だ」
とグレイグは答えた。
「謀計詐術は戦の常。そもそも人間対モンスターでは、モンスターが有利すぎて正々堂々の戦いはなかろう」
「よくもっ、よくもっ」
 アークマージは頭巾ごと頭をかきむしった。この平地へ入ったときに四十ほどいたモンスターは、エリミネータ、アークマージを含めて半分しかいなかった。
「くそっ、おい、エリミネータ!」
 頼みの綱のエリミネータは、斧を振り回して暴れていた。刃がなんどもかすって網の一部が擦り切れ、エリミネータ自身の体重でついに網が破れた。
「こいつを殺れ!俺は助っ人の先生を呼び出す」
 エリミネータは、目以外は頭巾をかぶっているので、顔は見えない。が、両眼が血走っていた。
「うぉうぉうぉおおおっ」
 どん、と音を立てて巨大な戦斧を振り下ろすと、柔らかい畑の土がしぶきをあげて飛び散った。
「俺が相手だ」
 グレイグが槍を構えた。
 ほとんと何のタメもなしにエリミネータは戦斧を振った。迎え撃った槍が押し切られそうになった。グレイグのこめかみに血管が浮いた。
「グレイグさん!」
 槍兵たちがあわてた。
「だめだ、来るなっ!」
 一度下がってグレイグは再び槍をふるった。
「おまえたちは、他のやつらを頼む。こいつは、俺が!」
「殺れるもんなら、殺ってみろぉ」
 怪人族の生き残りはそう煽って一斉に奇声をあげた。
「よし、やってやる」
 ひどく冷静なその声は上の方から聞こえた。

 イレブンは息を殺して戦闘のようすを眺めていた。槍隊に報告した後、イレブンは村の中へ戻っていなかった。村のみんなと同じく遺跡へ避難しなくてはならないのだが、イレブンは戦闘から目を離すことができなかった。
 目の前でカミュシルビア組とロウマルティナ組が、二列縦隊になった怪人族を背後から襲撃していく。やっていることは暗殺なのだが、四人ともきびきびと動いて感情を交えない。そして、見事な手際だった。
 ついにモンスターのリーダーは襲撃犯を捕まえるのをあきらめ、一気に農地へ攻め込んできた。イレブンは息を殺してそのようすを見ていた。
 グレイグと槍隊が最初モンスター軍を受け止めた。モンスターの勢いで総崩れになるかとイレブンは思ったのだが、グレイグたちはしぶとく攻撃を受け止めていた。
 攻撃しながらモンスターたちが前進する。農地のど真ん中へ進んだ瞬間、巨大な網を留めていた杭が両側で引き抜かれ、網が空中へ張り渡された。足をとられたモンスターに、伏兵を交えた槍隊が襲い掛かった。
「これもホメロスさんの策略なんだ、すごいや」
 グレイグの訓練がありホメロスの策略があったにしても、槍隊の活躍は目覚ましかった。イシの村の農夫たちと同じ“働く者”のがんばりにイレブンは目を見張る思いだった。
 だが、残ったモンスターは血走った目で暴れていた。
「殺れるもんなら、殺ってみろぉ」
 そうモンスターが挑発した時だった。
「よし、やってやる」
 誰かがそう答えた。イレブンは目を見張った。
「ホメロスさん!みんなも!」
 プチャラオ村の上の方から、ホメロス率いる傭兵たちが駆け下りてきた。
「グレイグ、使え!」
 ホメロスが手渡したのは、大剣と、大盾だった。
「ありがたい!」
 巨大な刃が鞘からほとばしり出た。
「残りは掃討に回れ!」
 ホメロスが叫ぶ前に、シルビア、カミュ、マルティナ、ロウはまだ残っている怪人族を屠りにかかった。ホメロスも双剣を抜き放った。
「クソッ、傭兵どもがっ」
 槍隊の農民兵もそれなりの活躍をしていたが、大型モンスターひとりに農民兵四五人がかりだった。だがホメロス率いる傭兵たちは、そのモンスターを一人か二人で相手取って仕留めていた。
「やっぱりすごいな」
 命を奪うという行為を一番無駄のない動作で行っているのだが、流麗で的確な動きは舞のようにも見えた。
 ついに動いているモンスターは一人だけになった。
 それは筋肉をむきだしにした巨漢だった。肌が青く、青い頭巾とマント、ブーツ、パンツのほかは何も身につけていない。モンスターのリーダーは、そいつをエリミネータと呼んでいた。
 リーダー自身と他の怪人族は、農民兵と傭兵たちで仕留めた。がエリミネータだけは斧を振り回して暴れるので、手が付けられないようだった。グレイグが一人、応戦している。大型モンスターと一対一で渡り合うグレイグの強さにも、イレブンはあらためて感嘆した。
 ホメロスが呼びかけた。
「存分にやれ、グレイグ」
「承知。こいつは俺の獲物だ」
 武器を不慣れな槍をから愛剣に替えたグレイグは、水を得た魚のようだった。
 重量のある戦斧を槍であしらうのは難しい。だが大剣の刃は斧と打ち合い、刃を立てて押し合うことができた。
 ちっとエリミネータは舌打ちして一度下がり、飛び上がるようにして体重を乗せ、撃ちかかってきた。
「馬鹿の一つ覚えか」
 グレイグは笑みさえ浮かべていた。左手を突き出して盾で斧を支え、右手の剣をあやつる。エリミネータはあやうくのがれたが、頭から被っている頭巾の一部が裂けてそこから体液がにじんでいた。
「きさまっ、よくもぉっ」
 グレイグの刃が日を受けて輝いた。斜め下から素早く地を擦りあげる攻撃にエリミネータはついていけないようだった。怒り、わめき、むしろ泣き叫びながらエリミネータはあとずさった。
 もう後がない、と思ったらしく、エリミネータはふいに両手で斧の柄を握り締め、頭上へ振り上げた。頭巾の下の目が三角になっていた。
 グレイグはその攻撃を待ち受けていたようだった。
「うがあっ」
 エリミネータの雄叫びが途中で消えた。グレイグが自分の膝がしらを腹につけるほど足を上げて、がらあきになったエリミネータのみぞおちを思い切り蹴り飛ばしたのだった。
 ふっとんで地に転がったエリミネータに駆け寄り、グレイグは上から剣をつきつけた。
 わああっとプチャラオ村の農民たちから歓声が沸き上がった。槍隊の男たちは嬉しそうに拳を天へつきあげていた。
「ホメロス、こいつをどうする?」
 エリミネータから目を離さずにグレイグが聞いた。
「どうやって魔界からここへ来たかを尋ねてくれ。答えないなら、もう用はない」
 ホメロスは冷ややかにそう言った。
 やれやれ、と言ったのはロウだった。
「わしらの出番がないのう」
「おっさん、さすがだな」
とカミュが答えた。
 エリミネータ以外モンスターの群れはすべて戦闘不能となっている。ほっとしたような空気が漂った。村人たちは槍を手にしたまま肩を組んで笑い、あるいは泣いていた。
「よかったわぁ。そうだ、アタシ、隠れてるみんなに勝ったって言ってくるわ」
 村人たちを見て、シルビアがそう言った。
「それなら、私はけが人を集めようかしら」
 マルティナはそう言って微笑んだ。
 ギャハハハ、とけたたましい声が響いた。エリミネータだった。
「おまえらはもうおしまいだ!」
 グレイグが剣の切っ先を相手の鼻先までつけた。
「何が言いたい?」
 ぼろぼろの頭巾の下で、エリミネータは笑ったようだった。
「俺たちのお頭はな、死ぬ前に助っ人を呼んだのだ。見ろ、今に来るぞ。このていどで勝った気になっているとは、おめでたいものだな!」
「口から出まかせを」
とグレイグは言いかけた。
「待て」
 低い声でホメロスが制止した。喜びに浮きたっていた農民たちが動きを止めた。
「何か、来る」
 そう言ってホメロスは上空を見上げた。イレブンも隠れ場所を出て、農地に立って片手をかざし、仰ぎ見た。
 蒼天のなかの黒い点のようにそれは見えた。だが、まもなく何か長いものがうごめいているとわかった。
 白い腹以外は漆黒のうろこをまとい、金の角と背びれ、白い眉とひげをもつ、巨大な蛇のような生き物だった。
 見上げるホメロスの顔がこわばった。目を見開き、震えていた。
「魔竜、ネドラ……」