ダイの大冒険二次・捏造魔界編 第十八話 ダイの決意

 ダイは一人で夜明け前の甲板に出て行き、そのまま戻ってこなかった。ヒュンケルはようすを見ようと思い、甲板へ向かった。だが、どんな言葉をかけていいかわからなかった。
 甲板へ顔を出すと、少し風が出てきたのがわかった。空が多少明るさを増し、それを背景に雲が次々と流されていくのが見えた。
 船室の陰に誰かいた。槍を手にしたラーハルトだった。その向こう、手すりにもたれたダイの背中が見えた。護衛なのか、とヒュンケルは思った。
「どうだ?」
 ラーハルトはこちらを見て、首を振った。
「話しかけられる雰囲気ではない」
「オレが話してみる」
 ラーハルトは頼む、とつぶやいて船倉へ降りて行った。
 ヒュンケルはダイに近づいた。
「ダイ、悩んでいるのか?」
 ダイが振り向いた。意外に明るい表情だと思った。
「うん、ああ、おれ、平気だよ」
 ヒュンケルはダイの隣に並び、いっしょに魔界の海と空を眺めた。
「クロコダインだが、魔界の滞在日数を超過していたので一度地上へ戻ったぞ」
「ああ、そうだよね。おれも本当は戻らなきゃいけないんだ」
 確かにダイの魔界滞在は五年を越えていた。
「お前のことをラーハルトが心配していた」
 本当に大丈夫か?と聞こうとしたとき、上空から光が降ってきた。思わず身構えたが、すぐにリリルーラの着地だとわかった。
「よう!ダイ!おっさんの交代で来たぜ」
 へらへらした表情、チャラチャラした態度。だが、ポップが来た瞬間、ダイの雰囲気が確実に変わった。
「ポップ、お帰り」
 長年の相棒を得て、あきらかにダイは安心していた。
「おれが来たからには、万事解決さ」
 ポップはきざったらしく言い放つと、ダイの顔をのぞきこんだ。
「ヴェルザーの話、地上でも聞いてたぜ。気にしてるのか?」
 ダイは、ちょっと笑って首を振った。
「あのさ、話の間にヴェルザーが、神々に会ったことがあるのかって言ったろ?おれはないって答えたけど、神々の遺産になら会ったことがあるって気付いたんだ。ゴメちゃんのこと」
 ゴメちゃんことゴールデンメタルスライムは、ダイの友だちであり続けた特別な存在だった。
「神様たちは、悪意でこんな仕組みを作ったのじゃないと思う。世界の仕組みを作って、そのうえで地上に涙を落してくれた。ゴメちゃんはたくさん奇跡をおこしてくれたけど、でもおれたちに代わって敵を倒してくれたりしたことはなかった。おれたちが努力して、とことんあがいて、それでも足りないところを補ってくれたんだ。きっと神様っていうのも、そういう存在なんだと思う」
 すっとポップの肩が下がった。へらへらした顔の裏で、ポップなりに緊張していたらしかった。
「そこまでわかってりゃ、いいや」
とポップは言った。
「アバン先生からおまえあての伝言を預かってきた。みんなで話したいんだ」
「では、ラーハルトを呼んで来る」
そう言って船倉へ戻ると、ラーハルトは唇の前に人差し指を立ててこちらを見た。室内ではベビーニュートとヴェルザーがお互いにもたれあって眠り込んでいた。
 いっそ都合がいい、そう思い、ラーハルトだけを連れて甲板へ戻ってきた。明け方近い甲板は、紫の薄闇の中にあった。
「先生からの伝言は、こうだ」
 全員集まって車座に座ると、いきなりポップが言った。
「『これからのことは、ダイ君の意志にかかっています。選択肢をいくつか託しますから、ダイ君の気持ちによってどうするかを決めてください』」
「お、おれ?」
 ダイは、とまどっているようだった。
「つまりさ、地上にいたころのお前なら、絶対敵を倒す、みんな助ける、ってがんばるところだろ?」
とポップが言った。
「でも、先生に言わせるとこの世界、魔界は遅かれ早かれ滅亡するってさ」
 ヒュンケルにはアバンの言おうとしていることが、多少、わかった。今のダイは十二歳の男の子ではなく、世界の仕組みを理解することのできる大人だった。おそらくアバンは、大人としての判断をたずねているのだろう。
「『プランその1』」
とポップが続けた。
「『メドーサボールを何が何でも倒す』」
 それは、とダイが言いかけた。
「大仕事だけど不可能じゃないよな?ただ、それでも魔界を救うことはできない。『プランその2。逃げたいと申し出た魔族たちを魔界から連れ出す』」
「どこへだ?」
と思わずヒュンケルが尋ねた。
「魔界生まれの者は地上へは入れないはず」
「それも問題なんだよなぁ。プラン1でも2でも、けっこうたいへんなんだ。番外として『プランその3、全部見なかったことにして地上へ帰る』、もあることはあるが」
 ポップはそう言って、ダイのほうを見た。
 ラーハルトが咳払いをした。
「プラン3をすすめるのは、私の役目だと思います。ダイさま、地上へ立ち戻り、平和を味わう、そのどこがいけないのでしょうか」
 ヒュンケルは呆れていた。
「おまえ、少し過保護だぞ」
「だまってろ」
 まあまあ、とポップが言った。
「ヒュンケルはどう思う?」
 考えるまでもないことだった。
「1だ。敵が強すぎるという理由でダイが戦いを控えたことは、これまでなかった」
 ポップは、にやっと笑った。
「おれは2だと思うね。ダイは確かに強いけど、同時にイノセンスの申し子なんだ。魔族を助けてやりたくなってる。そうだろ?」
 ダイの上に視線が集まった。
「ごめん、みんな」
とダイは答えた。
「三つのプランの、どれでもない。おれ、魔界の住民を全部助けたい」
 は?と言ったまま、ポップの口が閉まらなくなった。
「滅びかけた魔界を元に戻すのは、おれにできることじゃないよ。あのメドーサボールが、地震や台風みたいに世界の仕組みの一部だっていうなら、倒すこともできない。でも」
 ダイが、顔を上げた。
「おれ、あきらめない。船の魔族だけじゃなく、逃げたいと願う魔界の住人を全員助ける。地上がダメだって言うなら、どこか別の世界へ送り届ける。大魔王がいない今、おれはもう勇者じゃないのかもしれない。でも、竜の騎士だ」
 魔界の夜がようやく明けようとしている。分厚い雲のはるか上に不思議な光源が現れ、あたりの闇をはらい始めた。黒々と波打つ大海原の上に、雲の切れ間から柱のように光が注いだ。
「竜のチカラと、魔族の魔力を、おれは与えられた。それに加えて、ヒトの心も。どうして古の神々は竜の騎士に人の心を与えたんだろう?天誅を与えるべき状況を判断するためじゃないか?」
 ダイのまなざしに力強さが、言葉に確信が宿った。
「強大な力の前に手も足も出ないからって、弱い者がそのまま踏みにじられていいわけがない。それがおれの判断だよ」
 ポップが動いた。勢いよくダイの隣に腰を下ろすと、ダイの頭をがしっとつかんで自分の方へ引き寄せた。
「ダイ、おまえ、帰ってきたんだな」
 ダイはめんくらったようだった。
「なんだよ、今さら」
 ポップは何も言わずにくしゃくしゃとダイの髪をかきまわした。
「やめろよ~」
「させておけ」
 ぽつりとヒュンケルが言った。
「本当は鼻水垂らして泣きたいのだろう」
 ふふ、とラーハルトが笑った。
「おまえもだろうが」
 ヒュンケルはゆるんだ口元を手でおさえた。
「ダイ、おまえ、覚悟はあるんだな」
 それは質問ではなく、断定だった。
「うん。大変だと思うけど。おれのこと、助けてくれる?」
「聞かなくてもわかっているだろう」
 ヒュンケルは立ち上がった。
「ポップ、準備だ」
 わかってら、と言ってようやくポップはダイから離れた。
「まずはアレだ。ゲートキーパーとの直談判だな」

 ダイが見つかった、とパプニカに第一報が入ったのは、数日前のことだった。その日からパプニカのレオナは猛スピードで仕事をこなし、今日の半日の休暇をむりやりもぎ取った。
 宝石のようなその休暇は、マリンやアポロがレオナの仕事のかなりの部分を代行してくれたから手に入ったようなものだった。というわけで、レオナは賢者たちを宮廷に残し、数名の護衛だけをつれてヴィオホルン台地を訪れていた。
 半休は午後からだったので、時間はもう日没が近い。護衛兵があわてるほどの速さでレオナはカール王国が設置した天幕まで突進した。
 カールの天幕の前にアバンがいるのが見えた。手にしたアイテムに何か話しかけていた。
「そうですか。ダイ君らしいですねぇ、まったく」
 その名を聞いた瞬間、レオナは反射的に走り出した。
「避難先については、私に心当たりがあります。うまくいけば」
 よほど騒々しかったのだろう、アバンが気付いてこちらを見た。
「ポップ、レオナ女王がお見えです。『王女の愛』をダイ君に」
 アバンの手からレオナはアイテムをほとんどひったくった。
「ダイ君?ダイ君なの?」
 はるか遠い魔界から、息を呑む音が伝わってきた。
「うん。おれだよ」
「声が……」
 いかにも男の子らしい可愛い高い声が、低い、大人の男の声に変わっていた。
「ごめんよ。五年もたっちゃった。レオナに叱られる約束も、まだだった」
 ぐすっと鼻が鳴った。レオナはあわてて鼻を抑えた。視界の隅で、アバンが天幕の中へ引きあげるのが見えた。兵士たちも会話が聞こえない距離までさがってくれていた。
「マァムがね、地上へ戻る前に、おれにパプニカのナイフを渡してくれたよ」
「ダイ君、あたし」
 何か言うと嗚咽がもれそうで、レオナは歯を食いしばった。
「これ、きっとレオナに届けるからね」
「うん」
そう答えるのがやっとだった。
「おれのこと、待っててくれる?」
「待ってる、に、決まってるじゃない」
 昔のように強気で言いたいのに、声がふるえた。
「は、早く帰ってきて。あたしを待たすなんて、最低よ」
 こんな蚊の鳴くような声で言うことじゃない。
「あのさ、おれ、レオナといるとね、世界を好きでいられるんだ」
 それは自分のほうだ、とレオナは思う。ダイがいるからこそ、地上のすべては美しく、愛しい。ダイを失ってそのことを思い知った。
「あたしもよ」
 がまんできずに涙があふれだした。顔が見えない会話でよかったと、心の底でそう思った。
「こっちでまだちょっとやることがあるんだ。でもそれが終わったらレオナに会いに行くよ」
「ダイ君のことだから、大事なことなのね」
 手の甲で目をぬぐい、レオナはささやいた。
「応援してるからね」
 あはっと笑い声が聞こえた。
「レオナが応援してくれるなら、おれ、なんでもできるよ」
 そうやって大魔王を倒してしまったのだ、この子は。ふふ、と笑いが出た。
「あの~」
 はっとして振り向くと、アバンが来ていた。
「申し訳ない。ゲートキーパーとの交渉が始まります。ダイ君に参加してほしいので、『王女の愛』を」
「あっ、すいません、先生!」
 魔界と地上の二か所から、ダイとレオナは同じセリフを言うはめになった。
 カール王国の天幕の中は、すでにゲートキーパーの亜空間だった。レオナは手に「王女の愛」を持ったまま、その中へ足を踏み入れた。空中には見上げるような「ゲート」が浮かんでいる。その扉の上にある機械人形の顔がこちらを見下ろした。
「そろそろ、魔界捜索の区切りとして定めた二十八日の期限が来る」
 相変わらず重々しい声だった。
「現在の状況の報告を求める」
 ゲートキーパーに答えたのは、やはりアバンだった。
「捜索は成功しました」
「それはなにより。捜索隊はすみやかにひきあげるように」
 こほん、とアバンが咳払いをした。
「失礼ですがゲートキーパー、あなたは現在の魔界の状況をどのくらい把握していますか?」
 ゲートキーパーは、あいかわらず平板な口調で答えた。
「状況の把握など、必要ない。我の責務はゲートの保持である」
 突然レオナの持っているアイテムから、ダイの声が響いた。
「そんなの、無責任だ!」
「誰だ」
とゲートキーパーは聞き返した。
「おれはバランの子、ダイ。地上生まれだけど、今、魔界から話しています」
「即刻、魔界から出て、地上へ戻りなさい」
「もちろん、そうする。だけど、今、魔界のみんなは困ってるんだ。いっしょに地上へ連れていきたい」
 なんだと、とゲートキーパーはつぶやいた。初めて感情らしきものを見せたとレオナは思った。
「お願いします!魔界は黒い海の水面が上がって、住めるところがなくなってしまうんです」
 ゲートキーパーは即座に言い返した。
「原則として、禁止である」
「その禁止があることは聞いたけど、魔界が滅びるってときでも禁止なんですか?」
「魔界生まれの者は地上へ入ってはならない」
と、ゲートキーパーは頑固に繰り返した。
「魔界は滅ぶ、地上はダメ、じゃあ、どこへ逃げればいいんだっ!」
 ダイ君、とアバンが声をかけた。
「少し私に話をさせてください。ゲートキーパー、あなたは魔界と地上をわかつ門番です。けれど、この世にはほかにも世界がある。そうですね?」
 ゲートキーパーは黙っていた。
「亜空間。私たちが現にいるのも、あなたの造り出した亜空間だ。そして以前私は別の亜空間に引きずり込まれたことがある。とある死神によってね」
「死神?まさか。亜空間に立ち入るなど、できるわけがない」
「その死神は、神にも等しい膨大な魔力の持ち主の力を借りて亜空間を開いたのです。ゲートキーパー、私が間違っていたら、指摘してください。あなたはこの世のいろいろな世界の出入りを管理する役割を持っているのでしょう。亜空間はおそらく世界と世界をつなぐ廊下だ」
 アバンはまっすぐに巨大な扉の上の機械人形を見上げた。
「あなたが管理しているその扉。それを開いた先は異なる世界なのではないですか?」
 機械人形は無言のままだった。
 ゲートキーパー、とダイが呼びかけた。
「魔界生まれの者は地上へ入っちゃいけないんだよね?でも、地上じゃないところなら入っていいよね?」
「そんなことは」
 早口にゲートキーパーが言ったが、後が続かなかった。
「それは禁止されていません。そうでしょう?」
とアバンがダメ押しした。ぐうの音も出ないとはこういう状況なのだろう、とレオナは思った。ゲートキーパーはアバンと王女の愛をしばらく見比べていた。
「我の守る扉の先に、たしかに異なる世界がある」
 しぶしぶゲートキーパーが認めた。アバンが笑顔になった。
「その異世界を、魔界の住民の避難先にしてもらえませんか」
「そのようなことをしていいのかどうか、我には、わからない」
 妙に気弱な口調だった。
「ちょっと!いじわる言わないでよ!」
 思わずレオナは口を開いた。
「あなた、神々に造られたんでしょ?魔界の住民だって神々が造ったんだから、みんなのめんどう、ちゃんとみてもらうわよっ」
「わ、我は」
 レオナ、とダイのささやく声がした。
「あまりゲートキーパーをいじめちゃだめだよ」
「いじめてなんかないわよ」
 ダイが話しかけた。
「ゲートキーパー、あなたは悪意で拒否してるんじゃないよね?」
「然り。我はただ、我に与えられた定めを守りたい」
「異世界の扉を開けるための、理由があればいい?」
 ゲートキーパーは扉の上でうつむいた。
「そんな都合よく理由がでてくるはずがない」
 ちょっと待ったー、と、たいそう調子のいい声がかかった。確かめなくてもポップだとレオナには分かった。
「理由はあるぜ。ダイ、安心しろ」
「ほんと?!さすがポップ。頼むよっ」
 レオナはくすっとした。魔界にいようが地上にいようが、この二人のタッグはあいかわらず息がぴったりだった。
「まかしとけって。ゲートキーパー、お久しぶり!あんた、最初に会った時から『地上生まれの者は~』とか言ってたけどさ、その規則に例外がいるだろ」
「なんのことだ」
「先代竜の騎士、バランだよ。だって、ヴェルザーを倒すために魔界入りして、倒したその足でアルゴ岬へ引き返してるんだ。すっごく自由に魔界と地上を行き来してたよな?しかもその時代はまだ超竜軍団長じゃなかったんだから、バーンのこじあけた出入り口を使えなかったはずなのに」
「それは、当たり前だ。竜の騎士はその責務のためにどこへでも行く必要がある。魔界も地上も出入り自由だ」
「それじゃ、竜の騎士なら、異世界も出入りできるな?」
 ゲートキーパーは即答した。
「竜の騎士なら、その通り」
「じゃ、竜騎衆はどうよ?」
 しばらくためらったあげく、ゲートキーパーは答えた。
「竜騎衆は竜の騎士の配下である。竜の騎士の指示によっておもむくならば、出入り自由としてよい」
「それ、本当だねっ?!」
「王女の愛」から、ダイの嬉しそうな声が聞こえてきた。
「ゲートキーパー、おれも竜の騎士だよっ」
「ばかな」
「おれの父さんはバラン、母さんは人間の女の人だった。おれはハーフだよ」
「しかし竜の騎士は、聖母竜による紋章の受け渡しによってのみ誕生するはず」
「んなこと言ったって、現にダイは存在してるんだぜ?」
とポップが言い返した。ゲートキーパーはうなった。
「では、ダイ、条件を満たすなら、君を正式に竜の騎士と認める。そして竜の騎士であれば、魔界、地上、異世界、亜空間、どこにでも出入りは自由である。竜騎衆および竜の騎士に従う者もこれに準じる」
 やったぜ、とポップは嬉しそうだった。
 が、アバンは真顔だった。
「先に条件を提示してください」
「ひとつは、陸海空の三戦騎を従えること」
 レオナの手元から、ダイの返事が聞こえてきた。
「それなら、ラーハルトに頼んでみる。あと二人もたぶん、なんとかなるよ」
「そしてもうひとつ、真魔剛竜剣を装備すること。この二つをそろえたなら、ダイを竜の騎士として認めよう。ただし」
「ま~だなんかあんのかよ」
とポップがぼやいた。彼が頭の後ろで指を組んで口をとがらせているところが目に浮かぶようだった。
「異世界への扉を開くからには、我は管理を厳格にせねばならない。異世界へ行く者は、必ず我の目の前で扉を通ること。別の出入り口を造る、キメラの翼や魔法の筒等の人工物を使う、ルーラ等の呪文、そのような素通りは遠慮していただこう。これを守れないなら、そもそも扉を開くことはできない」
 アバンがうなずいた。
「けっこう。受け入れます。ダイ君も、それでいいですね?」
 返ってきたのは歯切れの悪いつぶやきだった。
「ええと、そのう」
「どうしました?」
 次の瞬間、「王女の愛」から不穏な雰囲気が伝わってきた。遠い悲鳴、爆音、剣と剣が激しくぶつかる音。
「先生、ごめん!誰か襲ってきた!」
「ダイ!?ポップ!?」
 二人は飛び出していったらしい。ヒュンケルの声が聞こえてきた。
「メドーサボールの逆襲です。見張りの話では海底から蛇が、空から屍カラスが襲ってきているそうです。オレも援護にむかいます」
「わかりました。こちらからも援軍を送ります。ゲートキーパー!」
とアバンは扉の番人を振り仰いだ。
「捜索フェーズを終わって、脱出フェーズに入ります。これまでの縛りをなくしてください!」
 答えは間髪入れずに返ってきた。
「よかろう。竜の騎士(仮)のもとへ集うなら、出自不問、滞在日数、人数無制限とする」
 ふっとアバンが微笑んだ。
「聞いての通りです、ヒュンケル。最強の助っ人を送り込みますからねっ」